今回の品は先週の土曜日にお嫁に行ったMontblanc No.146じゃ。非常に出来の良い娘だったので、画像を残しておいた。
一般的にNo.146は50年代、70年代、80年代、90年代以降と大雑把に分けて語られるが、ニブの違いでいえばもう少しバリエーションがある。ペン芯との組み合わせではさらに種類が増える。
今回のNo.146はそう長くは作られてはいない。そして非常に書き味良く調整出来る。90年代以降の最初期につくられたもの。 上から見ると、90年代以降に共通した顔。首軸から出ている部分の長さは理想の状態。実にバランスが良い。首軸先端がラッパ型になっているのは、キャップ中に仕組まれた首軸ストッパーに当てるため。インナーキャップが無くなり、キャップ内の突起物だけになってからはこの形状を取っていると思われる。インナーキャップ無しのキャップは締めた際のキャップ内空気量がインナーキャップ有りのモデルに比べて多いのでペン先が乾きやすい・・・と言われているが、拙者は認識したことは無い。
こちらは横から見た角度。ペンポイントの調整もなかなか良い。オリジナルでこれくらい良ければMontblancの評判が良かったのも当然じゃろう。
【私どもは古い万年筆をサービスセンターへ持ち込むような人たちにMontblanc製品を買って欲しくない・・・】とは以前のMontblanc Japanの代表者が口を滑らせた言葉として万年筆界に伝わっている。真偽のほどは定かでない。これだけ出来がよければ持ち込む事も無いだろうがな・・・
このようにすばらしいペンポイントを持つモデルを90年代以降でくくっては欲しくない。現行品とくらべて別格なのじゃ。外観だけではわからない。首軸を脱がして按摩してみると良くわかる。 これは調整前のペン先。ああ、コストカットモデルね・・・と安心してはいけない。4月22日記事のペン先と比較して欲しい。ニブのストッパーとなる切れ込みが無いのがわかろう。要するに現在のニブとは別物と考えてよい。
特徴としては軟い。書き味が柔らかいのではなくペン先の材質が軟いというか、力を入れるとぐにゃりと曲がってしまうような感じ。このあたりは薄い鋼のような1950年代No.146のニブの対極にある書き味・・・どちらも捨てがたい。 こちらはインクフロー調整後のペン先。スリットを多少開いておいた。ニブの形状やペン芯へのセットの仕方は絶妙なのだが・・・着付けの仕上げというか、襟のセットの仕方というか、星野あきの最後のおっぱいの寄せ方というか・・・そういうところが市販品では完璧には決まらない。そこは調整師に委ねるべきじゃ。特にペンポイントはな。
最近ペンクリをしていると調整を試行している万年筆愛好家に多数出会う。30個海外から購入したノックアウトブロックが27個売れた。良い傾向じゃ。こういう人の中から何人かがプロ/セミプロの調整師としてデビューしてくれれば、万年筆業界はさらに栄えるはずじゃ。
通常のペンクリに持ち込まれる症状の90%はインクフロー改善で直るという。長い間一本の万年筆を使っていて不具合を我慢していた人々は、インクフローの改善だけで大満足する。ペンポイント段差の改善だけでも書き味は激変する。最大能力の90%までは変えられる。削って改良できるのは残り10%のうち、せいぜい8%。万年筆愛好家に対する調整はペンクリで5%、自宅調整で3%程度まで持って行かねば満足はしてもらえない。【ダメ出しの女王】との対決は残り2%の攻防となる。これを制すれば日本一の調整師になれるであろう。今後が非常に楽しみじゃ。 ペンポイント近辺の拡大画像を見ると、先端に向かってスリットが徐々に狭くなっている。これは多少筆圧が高めの人向けの設定。筆圧が極めて低い人向けの調整ではもう少し先端を開く必要がある。
開くのには隙間ゲージを使うのが一番。薄いもので少しずつ拡げていくのが失敗しない秘訣。カッターなどで押さえつけるようにハート穴からペンポイントに向けてギギギーとスリットを拡げる人がいるが、ルーペで見るとスリット両側の金がめくれ上がっている。こういう状態になったら、2000番程度の耐水ペーパーでスリット両側のめくれあがった部分を削る。そうするとペン先の表面は細かい擦り傷だらけになる。これをゴムブロックの角にセットした金磨き布の上で、めくれ上がったところのみ、強く擦りつける作業を繰り返せば、ピカピカになる。擦り傷など消えてしまう。ぜひお試しあれ。ただし左右の激しい動きでペン先がブロックの領域を超えてしまうと、ペン先がぐにゃりと曲がることがあるので要注意じゃ。 こちらがペン芯。プラスティックペン芯の中では最も美しい。テカテカ感がなくて大好きじゃ。性能も良い。理屈上は空気の通り道の迂回路が無さそうなので、最近のペン先より劣るような気もするが、凌駕している部分もある。4月22日記事のペン芯と比較すると、首軸側の5ミリほどの部分が現行ペン芯では細くなっている。そこがインクフロー悪化の原因なので、その面では、この【ヘミングウェイの時代のペン芯】の方が優れている。
あまり触手が動かないMontblancのシリーズではあるが、No.146だけは自分で使ってみたいと思う万年筆じゃ。
【 今回の調整+執筆時間:2.5時間 】 調整1h 執筆1.5h