2007年05月07日

月曜日の調整報告 【 Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル 】

2007-05-07 01  今回のNo.149は開高健モデルのM。過去にEF、Bは紹介したが、Mは初めてじゃ。実は開高健モデルはMが最も美しい。Mでありながらペンポイント先端の形状がBのように角ばっているのが特徴。過去に何本も手に入れて完璧な状態にしてはお嫁にやったが、一本くらい残しておけば良かったな。

 ペントレが終わる度にそういう気持ちになる。日常使用の万年筆がことごとくお嫁に行ってしまう。従って待機していた物の封を切ることになる。今回はPelikanのナイアガラとNord/LBが現場に出てきた。ただしBとO3Bから研ぎだした3Bなので、マス目を埋めるような字は書けない。こんな時、開高健モデルのMがあったらなぁと思う。

2007-05-07 02 依頼主の要望は、例によってインクフローの改善じゃ。さほど低くない筆圧であっても書き出しでインクが出ない状況には我慢が出来ない人は多い。メーカーや昔ながらの職人さんは、ペンポイント先端がくっついていない状態を極端にいやがるが、実際には多少離れていたほうがフローは良い。過去のしがらみが無いイタリアメーカーの中には、スリットを開いて出荷し始めている会社もある。ペンクリでも最も多い処置がスリット拡げと聞く。なのに何故スリット先端をくっつけたまま出荷するのか?拙者にはまったく理解出来ない。開いたスリットを狭める調整のほうが、拡げる調整より楽なので、開いて出荷するほうがリーズナブルなわけじゃが・・・

2007-05-07 03 ペン芯の位置も、拙者の美意識からすると前過ぎる。これは趣味の問題。もう少し前の方がインクフローが良いと考える人もいよう。が、拙者が調整する場合には、依頼者から100%お任せでの調整依頼しか受けない。拙者が調整するスリットの位置が、依頼者の趣味に合わなければよそで調整いただけばよいと考えている。調整師は自分が信じる最高の状態を再現するのであって、不器用な依頼者の変わりに手を動かす存在ではない。もちろんある日突然拙者の美意識が変わる事はある。かなり頻繁にな・・・

2007-05-07 04 ペン先表のエボ焼けは殆ど無い。首軸からにじみ出たインクが溜まる所に薄っすらとエボ焼けがあるだけじゃな。これで一度も掃除していないと考えるのは不自然。むしろ、一度は分解してペン先の上部だけ清掃したと考えたほうが説明が付く。おそらくは以前の所有者だろう。

2007-05-07 05 それに比べて裏側はひどいエボ焼けじゃ。しかし不思議。一番濃い茶色になっているのは、インクや空気の通り道。エボナイトに接している部分は薄い茶色で、ペン芯の溝の隙間の部分はまったくエボやけしていない。硫化ガスがエボ焼けを引き起こすとすれば、酸素と硫黄分が混じりやすい空気通路こそが焼けるはず。ところがインクと接しない部分のエボ焼けは少ない。

 エボ焼けにはインクがなんらかの作用を及ぼしている事は間違いなさそうじゃな。はて何じゃろう?Montblancの黒インクを使うとよく焼けるとも聞くが・・・

2007-05-07 06 こちらは、エボ焼けを全て取り去ったペン先の裏画像じゃ。ここまで磨くのはけっこう時間がかかった。エボ焼けがインクフローに悪影響を与えるかどうかは証明されてはいない。ただ、調整する際に、いっしょにエボ焼けを取り除くとインクフローが良くなるのは事実。エボ焼けをそのままにしてアセンブルした事が無いので証明が出来てはおらんのじゃ。今回、インクの通り道にエボ焼けが多いということがわかったので、インクフローを悪化させる要因である可能性は高くなってきたな。

2007-05-07 07 こちらがペンポイント先端を開き、ペン芯を多少後ろに下げて首軸に取り付けた画像じゃ。拙者は昔はこのペン先はBだと考えていた。しかしBの太さとは明らかに違う。これがMだと気づいた時には身震いした。弾力がある柔らかさはMでしか出せないと思う。このMを使ってしまったら・・・次の浮気までにはしばらく時間がかかるじゃろうな。


2007-05-07 08 こちらがスリットの状況の拡大図。腹開きにすることはもちろんじゃが、スリットの程度も美観とインクフローに大いに影響する。拙者が好きなのはこの程度じゃ。ラッピングフィルム一枚よりも狭い幅。このあたりの調整が一発で出来るようになればNo.149の調整師軍団の一員に入れるじゃろう。


【 今回の調整+執筆時間:3.5時間 】 調整2h 執筆1.5h


これまでの調整記事

2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
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2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
2006-12-30   セーラー プロフェッシュナルギア 水色 
2006-12-27   Sheaffer コノソアール 赤軸 OB  
2006-12-16   Sheaffer インペリアル 777 金キャップ & 青軸 
2006-12-13   Montblanc デュマ 
2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
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2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
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2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
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2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
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2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
2006-09-23 Montblanc No.149  BBB 
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2006-09-09 Montblanc No.252 
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2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
どうもありがとうございます。
新鮮な言葉の数々に思わず脱帽です。

まずは,たくさん書いて,楽しみたいと思います。
Posted by Yuchipa at 2007年05月12日 10:56
Yuchipaしゃん

書き心地の好みはどんどんと変わって行く。車を買い換えたり、スーツを何着か持ったり、はたまたウェストがきつくなって作り直したり・・・

万年筆もそういうものじゃ。ジーパンもあれば、礼服もある。

一番気持ちの良い物を買えばよい。そのうち好みが変わるじゃろう。
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 06:59
「良い万年筆とは,調整の余地の大きいもの」。

目からうろこです。
調整を一度も経験したことない私ですが,おっしゃる意味は分かります。

ということで,今日,早速,気になっていた146とペリカンM800を試し書きしてきました(本当はモンブラン149が本命だったのですが無かったのです)。

結果,私には軽すぎるようで違和感あり。かわりに出された伯爵コレクション エボニーで尻軸に重いキャップを付けた状態が,予想通り,書き心地が一番良かったです。

モンブランもペリカンも,ものの20分程度しか握ってませんでしたが,軽いと感じたものがそのうち馴染んでくることはあるのでしょうか?店員さんは例え伯爵コレクションと併用したとしても,慣れて来ますよ,とのこと。

ということで,今日はそのまま帰ってきました。
Posted by Yuchipa at 2007年05月12日 02:23
Yuchipa しゃん

興味を持ったらまずは買ってみて自分なりの評価を下せばよい。
No.149は調整でどうとでもチューニング出来るところが良い。

良い万年筆とは、調整の余地が大きいもの・・・というのが調整師からみた評価じゃ。

調整を前提としなければ徹底的にためし書きするしかなかろう。
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月10日 01:12
率直なご意見感謝します。

「評価は実物に当たらなければ下せない」。
万年筆はペン先の個体差の大きいものである,と受け止めました。

後半部分はごもっともですね。

では,自分で実物を触って,書いて,気に入るかどうか試してきまする。
Posted by Yuchipa at 2007年05月09日 21:22
Yuchipa しゃん

評価は実物に当たらなければ下せない。万年筆に一般論は通用しない。人の好みのバランス、重さ、握りの太さ、形状などは千差万別。

しかも拙者は何でも好きじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月08日 22:56
はじめまして。
1年ほど前から万年筆に興味を持ったYuchipaと申します。

昨日貴ブログを拝見し大変興味を持ちました。
まだ少しですが,楽しく拝見させていただいております。

さて,いきなりで恐縮ですが,今,モンブラン149に興味を持っております。貴ブログの中に評価が記載されているのかもしれませんが,これについての貴殿の評価を簡単に教えていただけませんか?
さらに恐縮ですが,同価格帯の中で貴殿の評価の高い万年筆も教えていただければ幸甚です。

ちなみに,私の所有している万年筆は2本で,ラミーのサファリB(ビジネスメモ用),ファーバーカステルのアンビションF(自宅手紙用,尻軸にキャップをつけた時のバランスがとても好き)です。私は筆圧が弱く,万年筆のサラサラ感が大好きです。

初めてでいろいろ手前勝手なこと書いてすいません。なかなか相談できる人がいないもので。
Posted by Yuchipa at 2007年05月07日 22:11