2007年05月11日

金曜日の調整報告 【 持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中 】

2007-05-11 01 先日のペントレで預けられた中屋の万年筆。いったい誰から預かったのかわからない。通常は預かった段階でカルテに記載するのだが、メモ用紙がクリップにはさんであったので、てっきりそれに依頼主と症状が書いてあると思っていた。

 メモは【ひっかからない】と【インクが止まる】という2つの単語以外は落書き線で満たされている。これだけで持ち主を判断するのは無理なので、公開捜査とした。

 【ひっかからない】は正確に記載すれば【ひっかからないように調整】だろう。【インクが止まる】というのは、長時間書いているとインクが止まってしまうという意味。

2007-05-11 02 持ち主がわからないで調整できるのか?という疑問もあろう。通常はそのとおり。カルテの書き癖を見ないと調整は出来ない。ただし今回は出来る。なぜなら【ひっかかる】角度は一箇所しかない。従ってその角度で滑らかにすれば問題は解決するはず。

 ペン先を上から見ると、ずいぶんとスリットが開いている。極太等ではこれくらいスリットが開いていても気にならないが、中字程度だと美しくない。もう少々先端の離れ具合を改善する必要がある。

2007-05-11 032007-05-11 04 こちらがペン先の図。拡大図を見るとペン先とペン芯の間が離れていることがわかる。ひょっとするとこれがインク切れの原因かもしれない・・・が断定は出来ない。Vintage物ではペン先とペン芯が離れているにもかかわらず、すばらしいインクフローの万年筆もあるのじゃ・・・

 いずれにせよ、離れている状態は美しくないのでピタっとくっつかせる必要がある。これには、ペン先のお辞儀角度深め作業と、ペン芯反らしの複合技が必要。

2007-05-11 05ペン芯は左の一番下のプラスティック製。上の三つはこれまでにプラチナが使っていたエボナイト製ペン芯じゃ。すばらしく凝ったペン芯だったのに、最近のペン芯はあまりに安っぽくないか?インクのスリットも一本なので詰まるリスクも大きい。

 なんとか昔のエボナイト製ペン芯を復活出来ないものだろうか。構造はわかっているので出来なくは無さそうだが、問題はコスト。おそらくは50円と1000円くらいのコスト差になりそう。しかも中屋だけとなると、そう本数も多くないので単価もさらに割高に!・・・う〜ん・・・難しいのかなかなぁ。

2007-05-11 06 こちらが調整後のペン先。スリットがごくわずかだけ狭くなっているのだが、わかるまいなぁ。実はエラを若干張らせて、スリットが腹開きになるようにもしてある。調整前は若干背開きだった。そのせいで引っかかり感があったのじゃ。

 地球マークの入ったペン芯は良いなぁ。余分な装飾が無くて実にすがすがしい。最近バイカラーなどを始めたようだが、拙者はやはりモノトーンのニブが良いな。


2007-05-11 07 これは横から見た図。ペン先とペン芯の間のスリットが無くなっているのがわかろう。ペン先をひっくり返して、つぼ押し棒で内側を先端に向けてしごき、多少猫背に変形させた。またペン芯は熱湯に入れて柔らかくし、ペン先に沿うように指で変形させる。非常に熱いが2秒我慢すればよい。火傷した時の為に、冷たい水とオロナイン軟膏も必要。火傷を恐れては調整など出来ないと心得えよ。

2007-05-11 08 先端部分の拡大図。かなりペン先がお辞儀しているのがわかる。通常の柔らかいペン先ではお辞儀によって書き味が硬くなり、インクフローは良くなる。お辞儀させると腹開き状態に変わるのでな。

 中屋のペン先はソフトニブ以外はプラチナ製と似ていて、非常に剛性が高い。少々筆圧をかけてもビクともしない。従って多少お辞儀をさせても誤差の範囲なのじゃ。ペン先のしなりによる柔らかさを出す設計のニブではないので、潤沢なインクフローによって筆圧を下げ、それによって書き味が柔らかいと感じさせる手法が有効と考えた。

 調整の終わった万年筆にインクを入れて原稿用紙3枚ほど続けて書いてみる。これは非常に苦痛だった。拙者には万年筆で文章を書く習慣が無いので何も文章が浮かばない・・・

 ともあれ、引っかかりは無く、またインク切れも無いままで3枚は書き終えた。残る課題は・・・・・

 依頼者を見つけることじゃ! 早く名乗り出てくれ!

【 今回の調整+執筆時間:3.0時間 】 調整1.0h 執筆2.0h


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Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(10) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
まとりっくすしゃん

拙者はお主だと思ってた・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月14日 00:29
スピード解決、おめでとうございます
TAKUYAさんでしたかww
Posted by まとりっくす at 2007年05月13日 11:27
TAKUYAしゃん

それでは存分に! ヒヒヒ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 10:34
師匠!!
是非お願いいたします!!!
20金かピンクゴールドかもお任せします!!
とてもお世話になっている依頼主ですので、喜んでいただけるのが嬉しいです。
古山画伯の影響で万年筆菌に侵されていると自負している方です。
楽しみにしております!!
Posted by TA98 at 2007年05月12日 08:01
monolith6しゃん

やられたなぁ! 実は初期の#3776から取り外したペン芯です。凝ってはいてもインクのボタ落ちが多くて販売店から改造を求められていたといういわく付でしたな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 06:50
TA98しゃん

依頼品じゃったか! 当人の書き癖を見た記憶が無かったので【ボケも進んだなぁ】と思っていたが、どおりで。

かなりエボナイトがくすんでいたので、磨いておいた。
それと、クリップに傷があるので、鍍金をはがして傷を取り除いた跡で、20金かピンクゴールドで鍍金したいのじゃが、いかがかな?
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 06:49
こまねずみしゃん

いまだに連絡が無いのじゃ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年05月12日 06:44
 ペン芯の画像の中で、一番上のタイプは今回初めて見ました。えらく凝った作りになっていて驚きました。ひょっとしてこれが#3776用の最初のタイプかとおもいましたが、そんなことはないですよね。一体いつごろの製品なんでしょうか。
Posted by monolith6 at 2007年05月11日 23:00
すみません!!!
私でございます(汗)
私がいつも「ヌラヌラ」と自慢しておりましたところ、
どうしても師匠に調整をしていただきたいという方からの依頼で持ち込みました。
大変失礼いたしました!!
ブログに掲載していただき、依頼者もとても喜びます!!
変な記念になってしまいました(^^;

Posted by TA98 at 2007年05月11日 20:53
 相当高価なペンだと思うのですが、忘れたことに気がついていないということは、多分持ち主は「一本くらいなくなっても木がつかないくらい沢山万年筆を持っている人物」ではないかと思います。

 書く文章が思いつかないなら、何か名文を書写してみてはどうでしょうか?
Posted by こまねずみ at 2007年05月11日 19:47