依頼品は先日のペントレでの最大のお買い得品だったろう。純銀のカバーの付いた台だけでも3万円以上で取引されているものに、純銀の万年筆がついて2万円!拙者が最初に見つけた人間でなかったことが悔やまれる。売主は無知でこの値段をつけたのではなく、経緯を熟知した上で、愛好家に今後を託したと考えた方が自然。依頼者が偶然にも拙者の高校の後輩だった!ということもあり、可能な限り完全な状態で渡すことにした。
それにしても酸化と手垢で綺麗に曇っている。フェンテのでべそ会長も【いいなぁ〜】と感心しておった。ピカピカの状態からここまでの状態にするには少なくとも2年はかかる。依頼者と相談して、とりあえずはこのままの状態で調整することとした。
首軸先端の拡大図。ここに、この純銀モデルが2万円で売られていた秘密が隠されている。素通しインク窓の純銀モデルに、14K-BBのペン先はありえない。ソリテールと呼ばれる金属軸は全て18金ペン先がついている。しかも首軸先端がラッパ型に開いている。正しくはヘミングウェイと同形の非ラッパ型の首軸先端部品であるべき。
横から見ると、ペン芯のフィンが反対側まで通っている。これは本来のエボナイト製ペン芯ではありえないし、ヘミングウェイの時代のNo.146のペン芯とも違う。ペン芯には空気を入れる機能、インクを送り出す機能、あふれたインクを保持する機能がある。この現行ペン芯は外観だけ見るとインク保持機能を強化したように見える。
ここで疑問。現行のペン芯はそれ以前のペン芯より径が太く、そのままでは旧型の首軸には入らない。それでは何故、新型のペン芯+ペン先が、旧型の軸についているのか?その真相は後で述べよう。ペン先は14KのBB。現行モデルで非常に良いペン先じゃ。ペン先は昔ほど良いという一般論で語る人もいるが、そうではない。ペン先は使われている時代の書き手の平均的な筆圧を考慮してペン先の厚みや剛性を決めているはず。従ってボールペン実用化以降に発売された万年筆のペン先は厚くなっている。
拙者は平常な気持ちで万年筆で遊ぶ時には低い筆圧でゆっくりと筆記する。ところが会社で会議のメモを取る時などには筆圧が上がり、高速筆記する。いわば拙者の生活の中では異常事態じゃが、万年筆はそういう状況にも対応しなければならない。ボールペンを一度体験してしまうと、どんなに筆圧を低くして書いていても、イザという時に筆圧が上がってしまう。肝心の時に痛む古傷のようなものじゃな。
さて真相。なぜ現行のペン先+ペン芯が旧型のボディに取り付けられたのか?これは内部構造を熟知した人にしか出来ない改造。ペン芯ユニットを胴体に取り付ける部品ごと交換という奇策!左画像の赤い矢印部分と同じ部品だったのをはずして、青い矢印の部品を取り付けたわけじゃ。新旧で胴体の内径は同一。したがってペン芯ユニットを固定させる部品を交換すれば、旧型度ディに新型ペン芯+ペン先を取り付けられる・・・カメラでいえばマウント・コンバーターみたいなもの。拙者が今まで考えた事も無かった改造じゃ。だがこれで合点がいった。胴体と首軸先端の形状が時代考証から考えておかしいモデルを過去に見てきた。何度かモデルチェンジを繰り返していたのかと考えていたが、ペン芯固定ユニットに互換性があったとは・・・・・不覚じゃった!
左画像の上が本来付いているべきエボナイト製ペン芯で、下がこの万年筆に取り付けられていた現行No.146と同じプラスティック製ペン芯。内部構造を見ると明らかにプラスティック製の方が凝っているが、凝らなければならない理由もある。【インク誘導液】なるものがあるが、あれはエボナイト製ペン芯には不必要なもの。インクとなじみにくいプラスティック製ペン芯に使うらしい。とすればエボナイト製ペン芯の方がインクとなじみやすいわけじゃ。
いくらオリジナルに近づけるとは言っても、性能の良いペン芯をわざわざ性能の低いペン芯に変える必然性は無いようにも思われたが、クラシックカメラをこよなく愛する依頼者にとっては、出来るだけ古い物に近づけたほうが良かろうと判断してエボナイト製ペン芯を取り付けた。
二枚上の画像の赤矢印で指し示した部品をはすして純銀軸に装てんした。固定ネジの径は同一だが、設計は違うのでところどころに空間が出来る。そこでその部分はサイレックスという接着剤とゴム糊で充填した。接着力が弱いのでいつでも分解できる。来月くらいからは、この部分を医療用のワセリンで代替出来るようになるはずじゃ。止血に使うのでインクの漏れも防止出来るからな。
これが出来上がった首軸先端とエボナイト製ペン芯の状態。位置固定ではないエボナイト製ペン芯なので、ペン先とペン芯の位置関係は微調整出来る。拙者の最も好きな状態に設定できて大満足。では実際に書いてみたら・・・な〜んだ!現行の14K-BBニブって、当時と変わらない書き味じゃん。そう現行であろうと当時のニブであろうとBBともなればどれも柔らかさは変わらない。ということは手で感じられる反応も同じ。したがってヌルヌル調整にすれば、ボディの全ての部品と書き味が当時といっしょ。違うのはニブの表示のみという状態になった。
【 今回の調整+執筆時間:5.0時間 】 調整3.0h 執筆2.0h