今回の依頼品も1970年代後半のMontblanc No.149。ただし14Cペン先付じゃ。14Cと18Cについては、どちらが先で、どちらが後・・・というような情報が文献で流されているが、実際には同時期に作られていたもの。
仏蘭西では18金以上でないと金製品と認められないので、仏蘭西向けだけには18金ペン先が付いていた。それを一部他国にも供給してたというのが事実のようじゃ。
日本への供給は不安定だったので、【どちらが早い!】議論もあった。ただそれは入手した時期から推測しているのであって、製造した時期とは違うと思う。
実際、14Kが正式版だったころのNo.149の時代に、伊東屋スペシャルと呼ばれたモデルは18Kペン先が付いていた。【特別に作らせたの?】と聞いたら【いや、仏蘭西向けにはずっと前から18Kも作っており、それを入れたんです】という回答だった。
そういえば、仏蘭西のオークションでは18Kペン先付の定番No.146がよく出ている。
前回の依頼品は70年代後半のNo.149 18C-Fだったが、今回は同じ時期のNo.149 14C-EFじゃ。 これが調整前のペン先。既に一応の洗浄は済んでいるが、ハート穴周囲にインクのしみがある。これはペン芯に相当インクがこびりついている証拠。洗浄する度に、それが少しずつ溶けてニブ表面に出てくるのじゃ。
拙者はEFは使わないので、【こんな立派なニブに小さなペンポイントはもったいないなぁ】と思ってしまう。 しかし、依頼者は筆圧が高い。しかも比較的大きな字を高速で筆記する。ハネなどはかなり力を入れて書かれる。
ということは小さなペン先を使えば、たちまちペン先が変形してしまう。高筆圧・高速筆記・大文字にはNo.149が一番安全じゃな。 これはパピロ21の店頭で、長年試し書き用として使われてきた。また原店長の愛用品として、高筆圧・高速で大きな文字をいっぱい書かれてきた。
従ってペンポイント先端はまっすぐ斜めに切り落としたように磨耗している。この角度から見ると、かなりペンを立てて書くはずじゃ。そして磨耗によって、少しでも手首を捻って筆記角度が変われば、エッジが引っかかってしまう。
角度調整は簡単だが、高筆圧・高速筆記に耐えられるようにする微調整が必要となる。 まずはソケットからはずしたニブの表側。表面は洗浄してあるので綺麗じゃが、首軸に入っていた部分にはエボ焼けが見られる。これを完全に除去しないとインクフローが悪い。本当は、ここまで綺麗なエボ焼けは残しておきたいのだが、実用に供するものは仕方ない。
ちなみに拙者の観賞用Montblanc No.149では、エボ焼けは一切除去していない。見事に飴色をしたニブじゃ。ただしインクの出は極端に悪い。使わないからいいんだもぉ〜ん! こちらは裏側。見やすいように多少明るめの画像を使ったが、実際には真っ黒に近いほどのエボ焼け。長い間にはMontblancの黒インクも使われていたようで、エボナイト製ペン芯をロットリング洗浄液に2晩浸したところ、液は真っ黒になった。改めてエボナイト製ペン芯のインク保持能力の高さを証明したようじゃ。
現行のプラスティック製ペン芯では機構の中にインクを保持するので、洗えば全て流れ落ちる。エボナイト製ペン芯は素材の表面のデコボコ部分に保持されて固まったインクも多い。ロットリング洗浄液が無ければ完全清掃は難しい。超音波洗浄器で洗った後でも、ロットリング洗浄液に浸すと・・・インクモクモク!という事はよくある。 こちらがロットリング洗浄液を含ませた大型綿棒で擦って清掃した後、金磨き布でゴシゴシ磨いたものじゃ。まるで新品じゃろう!
金磨き布が田舎では入手できないと悩んでいる方もいようが、これはamazon.co.jpで販売している。【金みがきクロス】で検索すれば一発で出てくる。
既に殆どの調整道具は通販で手に入る。問題はそれをどう使うかじゃ。先日の表定例会では、多くの方々が拙者の手元を見ておった。相当参考になった事と思う。次世代の市井の調整人が数多く誕生してくれる事が拙者の願いじゃ。それによって萬年筆文化は拡がっていくからな。 こちらは裏側の清掃後の姿。特にエラが張っている部分の内側はエボ焼けが落ちにくいので徹底的に磨いたほうが良い。もし、極太でインクフローもドバドバが良いという場合は、裏側にロジウムを鍍金する。そうすれば、エボ焼けの発生も抑えられるし、ロジウムを塗るとインクフローが良くなるというのは常識らしい。
こちらが首軸に取り付けたニブ。調整前よりは多少ニブが前に出ているが、その分、ペン芯を後退させているのでぐらついたりはしない。
EFなのでヌメヌメという書き味は無理だが、どの角度で書いてもインクが切れることは無い。また極度の引っ掛かりも無いはずじゃ。 こちらは研磨した後のペンポイントの状態。真っ直ぐ斜めに削られていた状態の上と下を多少丸めて、引っ掛かりをなくした。そうすると接紙面積が狭くなって紙を彫る感じの書き味になるので、スリットを拡げインクフローを増加させ、筆圧をかけないでもすらすらとインクが出るように調整した。あとは最終的な微調整をしたいところじゃが、そこは遠隔調整の悲しいところ・・・
98%の状態には出来るが、100%にはならない・・・そこが残念!
【 今回の調整+執筆時間:4.0時間 】 調整1.0h 執筆3.0h