今回の依頼品はPelikan 400。軸色は灰色に近い茶軸。元々そうなのか、茶色が退色したのかはわからないが非常に綺麗。胴軸の後端には【PELIKCN 400 GÜNTHER WAGNER GERMANY】との刻印がある。また尻軸には【M】の刻印がある。字幅を表現したもの。少なくとも400NNや140の場合にはペン先に字幅が刻印されていたがな・・・
軸を握って持ってみると・・・【ああ、Pelikan 400だなぁ・・】という懐かしい気持ちになる。最近はVintage pelikanで書く事が殆ど無いが、たまに握ってみると指に吸い付くような感じに参ってしまう。
映画は2・・3・・4・・とバージョンが進むに従ってつまらなくなっていく。拙者が見た映画で2の方がおもしろかったのはマッドマックス2くらいかな?同じように万年筆の場合も後継モデルよりオリジナルの方に惹かれる事が多い。出来の良し悪しはともかくとして、オリジナルには独特の雰囲気がある。この400も400NNや現行品よりも良い雰囲気を持っている。書き味は400NNの方が良いと思うが・・・・ で、握って字を書いてみると・・・【なんじゃ、こりゃぁ!】ってなひどい書き味。Pelikanでこんなひどい書き味の物は初めて!
ニブを調べてみてわかった!ペンポイントがズレている上に、ひどい背開き。またペンポイントの紙に当たる部分もかみそりの刃のようにエッジが立っている。しかも素材も超硬い。まるで1930年ごろのPilotのイリドスミンかと思うほど。さらにMを細字に研ごうとして失敗した跡がある。 ペン先を横から見た図。通常はこの位置で良いはずだが、ペンポイントの段差の原因がペン芯なので、多少のペン芯研磨とペン先とペン芯の位置調整をしなければなるまい。ペン芯はあまり削ると機能を損なう。一方でこれほどお辞儀したニブをさらにお辞儀させて背開きを直そうとしても、書き味が硬くなりすぎる。
その場合には、この状態よりもペン芯を後退させて対応するしかない。後退させてもインク切れの心配は殆ど無い。よほど筆圧の強い人以外はな・・・ ペン芯側から見た図。ペン芯の溝の中央部分にペン芯のスリットとがピッタリと合わさっている。なかなか良いセッティングじゃ。これを左/右に多少ずらした方が段差が出ない場合もある。今回の物がそうなのだが、それでは正面から見た時に美しくないので、中央にセットしても段差が出ないように調整しよう・・・と思ったのが長時間調整になった理由。そう簡単ではなかった・・・
ソケットごと首軸からはずした画像。ソケットの切れ込み部分もちゃんとスリットの直線上にある。こういう【乱れを発見しやすい設計思想】は独逸らしくて良い。単に職人技で綺麗にそろえるのではなく、揃っていないことを発見しやすくして、職人でなくても最適な設定が出来るようにするのが【本来の設計】じゃ。Pelikanはこの部分が他社よりも数段進んでいたようじゃ。
こちらは調整を施したペン先。スリットを拡げ、段差を無くし、ペン芯に乗せると・・・惨いくらいにズレる。どうやらペン芯に不具合があるようじゃ。それから先は、ペン芯をちびっと削ってはペン先と合わせて確認、削っては確認・・・の繰り返し。これに1時間以上かかった。ペン芯を削る量には限度があるので、ペン先の段差をわざと作ってペン芯にのせて修正という作業もしかたなく行った。セットした状態で無理な力がペン先に貯められているので、理論上は書き味に乱れが出るはずじゃ。拙者には感知できないがな・・・
こちらが首軸にペン先をセットした画像。かなりペン芯が後退しているのがわかろう。この状態がペン先に一番無理がかからない状態(このペン芯の場合)。
調整の終わったペン先で文字を書いてみる・・・あの【なんじゃ、こりゃぁ!】はすっかり影を潜め、Pelikan 400らしい書き味になった。今回がペン芯研磨の必要性を示した第一回目のBlogだったかもしれないな。
【 今回の調整+執筆時間:4.0時間 】 調整2.0h 執筆2.0h