今回の依頼品はSheafferのニュー・コノソアールじゃ。後にはプレステージ・コノソアールとも呼ばれた。前年に日本で発売されたコノソアールの高級版として発売されたと記憶している。
【茶漆調ラッカー仕上】なんていうわけのわからないモデル名称・・・だったかな? 純正漆ではなく、工業用漆をエアーブラシか何かで吹き付けたものかもしれない。
金属をふんだんに使っており非常に重い。コノソアールが軽かったのとは対照的。拙者はどちらかといえばコノソアールの方が好きだったが、このモデルも購入した。そして現在までMintの状態で保存している。これと同じBニブ付をな。 SheafferのBというのは実に大きなペンポイントを持っている。タルガなどでは、その大きなペンポイントを平たく削ってあるが、このニュー・コノソアールではかなり球に近い状態。従ってペン先研磨をする人間にとっては非常においしい万年筆なのじゃ。
ペン先の厚みも比較的薄いので、柔らかな書き味も出しやすい。これまでに純銀軸や黒漆調軸、金鍍金軸など3本ほど【B&研ぎ】をお嫁にやった。 このニュー・コノソアールの特徴は、ペンポイントとペン芯の先頭があまりに離れていること。その状態が好きな拙者ですら違和感を覚えるほど。
しかもペン芯に出っ張りがあり、位置固定になっている。ペン芯を削らない限りペン芯を前進させることは出来ない。 金ペン堂を3回目に訪問した際、同じニュー・コノソアールが左の画像と同じ様にペン芯を客側に向けて直立しているのに出会った。
【ペン芯とペンポイントの距離を短く調整しているのですね・・】
【ほほう、良くわかったな。それを指摘したのはあんたが初めてじゃ】
【イヤ、自分でも多少調整するので・・・】
【それならこれを見なさい。調整前と調整後のペリカン(M500)のペン先よ。ここまで調整するのにXX工程かかる。試し書き用はYY工程しかやってないので、絶対に飾ってある方が書き味が良い!】
【なるほど、こう調整するんですか・・・】 と言いつつ、まったく差がわからなかった拙者であった。まだ駆け出しだったのでどこを見ればいいのか皆目検討がつかん・・・・・冷や汗物の経験じゃった。 このペン先は蔵出しらしく、試し書きを本人がした程度しか使われていない。画像でわかるように、ペン先のスリットが先端で詰まっているので、インクフローが悪い。Bでインクフローが悪ければ満足のいく書き味にはならない。しかも相手が悪い・・・・
こちらは裏側試し書きのインクが残っているだけ。しかも一回しか試し書きされた形跡は無い。店頭に並べられた形跡も無い。倉庫から一直線に依頼者に渡ったと思われる。
高級モデルとしては、ペン先の首軸内部に入る部分が短いように思う。MontblancNo,149などは首軸内部に隠れている部分が長い!この長さがホールド感を上げ、簡単にはペン先がペン芯とずれない【ヘビーデュティ】さを演出している。それと比べるといささかか心許ない・・・感じがする。 こちらがスリットを多少開いてインクルロー改善をほどこしたニブじゃ。このペン先は力を入れれば好む形にすぐ変形できるので、調整師にとっては非常に扱いやすいペン先じゃ。
一方で、筆圧をかけると簡単に書き味が変わってしまうのでソフトにソフトに書く必要がある。胴体自体が重いので、筆圧は極限まで低くしたほうペン先変形リスクは少なくなるはずじゃ。 こちらは首軸に取り付けたペン先。ペン芯のスリットが多少開いているのがわかろう。これだけでインクフローは格段に良くなる。
最近ではスリットが詰まっているペン先を見ると、無意識のうちに拡げてしまうほど。 こちらが横からの画像じゃ。上から3番目の画像と見比べればわずかにペンポイントとペン芯先端との距離が縮まっているのがわかろう。
ペン芯をナイフで削り、紙ヤスリで傷を付けて少しでもインク保持能力を向上させるのが調整のポイントじゃ。 拡大してみると、球の状態からあまり削っていない様子が良くわかるであろう。ここからならどのようにでも削れる。まさの調整師にとっては夢のようなニブじゃ。
これよりすごいニブは、万年筆博士に発注したエボナイト軸だけ。あの時は一切研がないで!とお願いした。
今回はそれに告ぐペンポイントじゃ。 こちらは、ペンポイントを正面から見た画像。ちゃんと腹開きになっている様子がわかろう。
ここまでくれば、ベーシックな調整はおわりで、あとは書き癖に合わせて研ぐだけ!
というところで、大変な事実に気付いた!なんと依頼者の書き癖を記録してなかったのじゃ!
依頼者は、かの【ダメ出しの女王】
いつもビクビクしていて、とても書き癖を書き留める余裕が持てなかったのじゃろう・・・
このまま適当に調整すると、また【ダメ!・・・・ダメ!・・・・ダメ!・・・・】の繰り返しになってしまう・・・
これは再会した際に書き癖を記録してから微調整(ですめばよいが・・・)するしかなさそうじゃ!
【 今回の調整+執筆時間:3.0時間 】 調整0.2h 執筆2.8h