今回の依頼品はOMAS 360 Demonstrator。多少黄色っぽいゴールド・トリムの物と、この非常にクリアーなシルバー・トリムの物があるが、拙者の好みは圧倒的にシルバー・トリム!
この透明感は只者ではない。スキャナーで調子を出すのに苦労したほど。しかも、Demonstratorだからこそ、内部のどの部品にも手抜きが無い。コストカットに血道を上げる万年筆メーカーが多い中で、見上げた根性じゃ!どこに買収されようともイタリア人気質は失ってないようじゃ・・・・ん? そういえば買収先も完璧主義の会社じゃった・・・・ 今回の不具合は、ペン先のソケットがぐらぐらして書き位置が決まらない事。どうやら首軸内径が真円になっていないらしい。せっかく褒めたのに・・・
ただしソケットを強く右に回せば固定できた・・・が固定された位置は三角形の底辺の位置がペン先の正面。これでは書けない。三角形の頂点の位置にペン先のスリットが合わさる形状になって欲しい。
直し方は簡単で、いったんソケットを固定した後でペン芯とペン先を引き抜いて、位置を変えて首軸に固定されたソケットに押し込めばよい。それだけなら非常に簡単なのじゃが・・・・
デモンストレータにインクの汚れが付いているのが嫌いな拙者は、完全清掃をしてみたくなった。拙者のもとを旅立つ時には無垢な姿で戻って欲しいいう願いをこめて。 こちらがソケットを首軸から抜いた状態。ネジの部分に赤くインクカスが付着している。赤インクは着色しやすいといわれるが、細かい粒子が素材の隙間に食い込むような感じになるのかもしれない。
それにしても作りの良いエボナイト製のソケットじゃ。もちろんペン芯もエボナイト製。拙者が初めて購入したウォーターマンのル・マン100は必要にかられて購入したものであって、惚れて購入したのではない。惚れて購入した万年筆第一号はオマス・ジェントルマンだった。その時からずっとエボナイト製ペン芯。もっともその当時はNo.149ですらエボナイト製ソケット&ペン芯じゃった。
製造時間の短縮、コストカット・・・などの目的でエボナイトの使用を止めるメーカーが多い中、OMASの企業姿勢は立派じゃ!意地さえ感じる。近くにエボナイトの製造と加工を行う部品メーカーが存在する事も、オマスの意地をささえてくれる要因でもあろう。ちなみにモンテグラッパもエボナイト製ペン芯に拘っているメーカーじゃ。 ペン先をソケットからはずしてみると、根元にはロジウムは鍍金されていない。ロジウム鍍金自体は装飾目的以外にも、インクフローを向上する効果があるようで、メーカーでも効果を認める人もいる。それが理論的に実証されていればペン先の首軸内部の部分にも鍍金を施すじゃろうが、経験値でしか無い段階では、そこまで求めるのは酷かも・・・。ま、鍍金溶液に浸ける際にクリップで挟む部分に鍍金がかかってないことにしておこう・・・
これは驚異の画像。特殊な工具が何も無くてもここまで分解出来るのは凄い!普通なら仕組みがわからないと怖くて分解出来ないような部分も、デモンストレータだからこそ可能になる。内部構造が全て見えているから!
特に、尻軸とピストンを固定するピンのはずし方など、内部構造が見えない限り想像もつかない。これをはずすのにも特殊工具は要らない。先端が平たい注射器の針を使ってタタキ出すだけ。
オマスはこれまでに100本以上分解して来たが、ここまで完全分解出来たのは初めて!非常に気持ちよい。今回はペン先調整は求められていなかったので、低テンションで始まった修理じゃったが、俄然最高潮のテンションになった!
首軸内部の部品の隙間の薄い色残りを除けば、完璧に清掃が出来た。 こちらが組み立てなおした状態。これでこそデモンストレータじゃ。実に美しい!しかも、ペン先を多少伸ばしてみたのじゃが、どの位置まで伸ばすと、首軸内部の頂点にあるネジに衝突するか良く見える。これは助かる。
尻軸は三角形なので最後がきちんと胴軸とそろうのか不安じゃったが、まったく問題はなかった。これは非常にうまい仕組みによるものだが、その説明は文章ではなかなか表現できない・・・・ ペン先はBで、ほとんど使われていない状態。多少腹開きにしておいたのでインクフローは良いじゃろう。デモンストレータには自分ではインクを入れて書かないので確信は無いがな。
今回は今までで一番興奮させられた修理じゃった。いままでモヤモヤしていた事がすっきりした!
【 今回の調整+執筆時間:2.5時間 】 調整1.5h 執筆1h