2007年06月11日

月曜日の調整報告 【 Montblanc 50年代 No.142 14C-F 】

2007-06-11 01 今回の依頼者は2007年06月04日に掲載したNo.146 14C-KMと同一人物。Vintage Montblancに嵌った者が一度は通る王道【No.146 & No.142】を走っているようじゃ。それもものすごいスピードでな。

 拙者が高級万年筆を初めて購入したのが1983年で、Vintage Montblanc【50年代物】を初めて入手したのは、それから15年後じゃった。わずか数ヶ月で依頼者がここまで到達したのは何故か?

 端的に言えば【あおり】のせいじゃろう。回りに保菌者がいると感染スピードは速い。しかもあおる人もまた、あおられている途中だったりすると、相互作用と競争意識で狂ったように購入する事になる。

 拙者のVintage Montblanc遍歴は1950年代No.149からNo.146、No.142、No.144、No.254、No.256、No.644、No.252、No.344・・・・・と続いた。

 No.256以外はすべて手放したが、もし日常使いに一本を選ぶとすれば、No.142かNo.146じゃろう。いずれも細字で使う。

 Vintage Montblancに過大な夢をいだく人も多いが、ふにゃふにゃに柔らかいペン先を持つわけではない。柔らかいペン先が好みならば英国製万年筆のスワンを選ぶのが正解じゃ。

 1950年代No.14Xの特徴は精巧さと重さと脆さじゃ。惚れ惚れするような精巧なテレスコープ吸入式機構、ずっしりとした精密機械のような重さ、そして力を入れすぎるとすぐに逝ってしまう脆さ・・・このドキドキ感が90%。

 残り10%が書き味。現代のM800の3Bを筆記角度にあわせて研磨した書き味を【ヌラヌラ】と表現するならば、Vintage Montblancの書き味は【カサカサ】。枯葉の上をコオロギが小走りしているような筆記音を出す。

 書き味は繊細そのもの。万年筆を真っ直ぐに握って、筆圧をかけずゆっくりと運筆すれば、非常に上品な字を残してくれる。筆圧をかけて、高速で筆記する人には向かない。老人介護のような気持ちで使うのが正しい使い方じゃ。特に最も脆いNo.149はヘビーユーザには向かない。いたわるように使ってあげて欲しい。

2007-06-11 02 依頼品のペン先は左のとおり。インクは抜いてある。その状態でもスリットの隙間がまったく見えない状態じゃ。ペン先の金属は薄く、弾力はあるのだが、これだけスリットが詰まっていると、気持ちい筆記は出来ない。

 ペン先の根元だけ銀色っぽいが、これはバイカラーのプラチナ鍍金が剥がれて根元だけに鍍金が残っている状態。せっかく(拙者の嫌いな)バイカラーが消えつつあるので、再鍍金はしないでおこう。胴体に銀色部分が無いのに、ペン先がバイカラーになっている状態が、どうしても好きになれないのでな。

2007-06-11 03 こちらはペン芯と分離した状態のペン先。それにしても精密な刻印じゃ。真ん中のMのマークはプレス加工では出来ないのではないかな?

 拙者には判断が付かないので拡大画像を掲載すると・・・

2007-06-11 04 いかがじゃろう。この模様はプレス加工か、エッチングか刻印機で彫ったものか・・・

 ちなみに戦後のMontblancには○印と内部の雪形模様の間を埋めている斜線は入っていないはず・・・?

  ペン先一枚にこれほど精密な細工をする必要があるのかな?もし実用本位で考えれば、一切の刻印が無いほうが柔らかくて良いペン先になるらしい。刻印が増えるほど、硬く脆くなっていくのだとか・・・

 ただし刻印がないと偽造が簡単になっていく・・・あるいは偽造防止の為に複雑な刻印を用いたのかもしれない。お札の透かしのような役割として・・・

2007-06-11 05 いったんはずしたペン先のスリットを拡げる作業は困難を極めた。寄りが強い・・・というよりも弾力が強すぎて、スリットを開くべく力を入れれば大股開きになるが、力を抜くとまたピッタリと先端が閉じてしまう。その繰り返し。

 隙間ゲージによる拡げも殆ど効果なし。最後はサンドペーパーでスリットの両側を削って隙間を作った。

 そのペン先をインクに浸けてそっと書いてみる。コオロギというよりも、スズムシの小走りの感じ。小さな字をインクフロー良く書くような場合にはうってつけ。

 【黄金銃を持つ男】の【純金の弾丸】のようなずっしり感が何とも心地よい。

 独逸製の高級スポーツカーではなく、シトロエン2CVで箱根ターンパイクを走るような感じ。長時間の筆記にはまったく向かないが、チョコチョコとメモや撮影データを書き込むのには実に良さそうじゃ。

 小さなボディじゃが、現行品のMontblanc M800よりインク保持量は多い。【No.142:1.2cc  M800:1.1cc】

 この図体に似合わないインク保持量の多さがテレスコープ吸入式の魅力でもあり、また、インク漏れが多い原因でもある。Vintage Montblancは絶対に胸に挿して使ったりしてはいけない。出来れば自宅書斎に常駐。やむなく外出する場合も丈夫なペンケースに収納し、出来るだけ振動を与えないように移動させてあげて下され。なんせ相手は拙者と同じ位のご老体・・・なのじゃ。



【 今回の調整+執筆時間:3.0時間 】 調整2.0h 執筆1.0h


これまでの調整記事

2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
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2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
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2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
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2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
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2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
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2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
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2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
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2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
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2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
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2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
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2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
2006-12-30   セーラー プロフェッシュナルギア 水色 
2006-12-27   Sheaffer コノソアール 赤軸 OB  
2006-12-16   Sheaffer インペリアル 777 金キャップ & 青軸 
2006-12-13   Montblanc デュマ 
2006-12-09   Pelikan 1935 Malachit Green F 
2006-12-06   Pelikan 1931 Toledo B  
2006-12-02   Montblanc No.252 OBBB 
2006-11-29   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 
2006-11-25   Montblanc No.149 ニブ塗分け 
2006-11-22   Namiki Vanishing Point ペン先のロジウム鍍金 
2006-11-18   Pelikan M910 トレド ペン先の三層鍍金 
2006-11-15   Pelikan M800用 ペン先の三層鍍金  
2006-11-11   カランダッシュ ボールペンの銀鍍金 
2006-11-08   Montblanc No.149 ペン先裏のロジウム鍍金   
2006-11-04   Montblanc No.149 O3B でも・・・  
2006-11-01   Parker Duofold International XXB 
2006-10-28   Montblanc 1970年代 No.146 ああ無残! 
2006-10-25   Montblanc 1980年代前半 No.146 B   
2006-10-21   Montblanc No.149 B 至高のペン先   
2006-10-18   Sheaffer Snorkel 青/ 赤  
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2006-10-11   プラチナ #3776 セルロイド 極太  
2006-10-07   Conway Stewart Churchill IB
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2006-09-27 Montblanc Np.146  丸善120周年記念 
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2006-09-16 Sheaffer Crest 黒 & 赤 
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2006-09-13 Montblanc No.742-N  

2006-09-09 Montblanc No.252 
2006-09-07 Montblanc No.22 緑 
2006-09-02 Montblanc No.744 OBBB 
2006-08-31 Montblanc No.1465 高筆圧対応化 
2006-08-30 Montblanc  No.149 開高健モデル 
2006-08-26 Montblanc  No.644 グレイ縞 
2006-08-23 Montblanc 1970年代 No.146    
2006-08-19 Montblanc Monte Rosa 
2006-08-16 Sheaffer Tuckaway  

2006-08-10 Montblanc No.256 KOB   
2006-08-05 Conway Stewart Floral   
2006-07-29 Montblanc 1950年代 No.146 
2006-07-22 Montblanc No.74改 Kugel
2006-07-15 シェーファー ノスタルジア・バーメイル
2006-07-08 シェーファー ニュー・コノソアール
2006-07-01 アウロラ 88 オールブラック

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
stylustip しゃん

大阪大会を楽しみにしております。
Posted by pelikan_1931 at 2007年06月12日 05:59
私のモンブラン25(丸頭の方)のEFはもうふにゃふにゃです。
毛筆さながらにペンを掴み立ててそーっと書かないとあきません。
すぐに開くニブの隙間から紙の上にインクを置いてゆく書き方しか出来ません。
大阪大会の時に見てやってください。<m(_ _)m>
Posted by stylustip at 2007年06月11日 18:47