今回はPelikan 500Nの登場じゃ。6月15日の記事で、400Nの尻軸に似た400を紹介したが、今回本物の500Nの尻軸を見ると、まったく違う。ただ、見方によっては400や400NNの曲がり方の潔さから比べると、どことなくためらいがあるような曲がり方・・・
独逸に限らずヨーロッパ諸国は物を大切にする文化なので、キャップと軸が別々のモデルの物ということは良くある。一方を無くしたり壊した物同士を組み合わせるのじゃ。しかし今回は軸に500の刻印があるので、キャップが金貼りというのは正しい。ほぼオリジナルの組み合わせと考えて間違いあるまい。
今回の依頼内容は、ガリガリを直して!というもの。調べてみる惨い段差が出来ている。 ペン先ユニットをソケット毎捻り出して原因がわかった。ソケットの一部が壊れて割れかけている。しかも個体差なのか、通常の400 / 500用のソケットに比べて素材が薄い。そのせいか内径も若干広く、ペン先が通常よりも奥まで入ってしまう。適当なところで止めようとすると、グラグラになる。
ペン先の裏側を見ると、こちらにはソケットに割れは無い。ソケットを回転する時に、表側に不適切な物を差し込んで捻った結果、ソケットの一部が破損したと思われる。
Pelikan 400 / 400N / 400NNの構造を良く知らない人の犯した過ちと、個体差が組み合わさって生じた不具合じゃ。 ペン先をソケットから抜けば、段差は一切無くなる。ということは、やはりソケットが緩くなり、筆圧で捻られて段差が出来たものと考えられる。結論からいえば、ソケットをややきついものと変えれば良いこと。
こちらは、裏側の画像。一応清掃はしてあるものの、エラの部分にはエボ焼けが発生している。さらなるインクフローの改善の為に、裏側全体をもう一度金磨き布で徹底的に清掃しておこう。
以前Pelikanの社史紹介の中でも疑問を呈したが、根元側の穴の用途は何なのじゃろう・・・拙者はまだ正確な答えを見つけてはおらん。 一昨日の400NNの修理に用いたのと同じ現行M400用のソケットに入れ替えた。これは良い具合にペン先とペン芯を挟んでくれる。多少きつめであり、よほどの筆圧(数kg?)をかけない限りはソケットとペン先がずれる事故は発生しまい。
修理調整が終わったPelikan 500Nの勇姿じゃ。軸がかなり黄色っぽいこともあるが、キャップの金色とのマッチングが実に美しい。筆記時のバランスも絶妙で言うこと無し!もっともキャップを後ろに挿すと、500Nと500NNの区別は付かない・・・のが残念!
ペン先の段差は無かったのだが、ペン先の書き味調整には思いのほか時間がかかった。ペンポイントの素材が均一ではなく、やたら硬い粒子がたまたまエッジ部分に存在し、少々研いでも丸まらないというトラブルに出くわした。Pelikan製品では始めての経験じゃ。放置すると、右上から左下へのハネが全て引っ掛かってしまう。そこで丹念に研磨して引っ掛かりを取り除いた。
調整の終わった万年筆をインクに浸して試し書きしてみると・・・良い!自分の手と一体化したような細字の書き味!Pelikan万年筆の書き味の頂点は旧400 / 400N / 400NNのラインだと改めて感じた。また長年使って手になじませるという万年筆界の常識も少しずつ色あせてきている。長年使って、手を万年筆になじませることはある。しかし完璧に調整された万年筆は【使うほど書き味が劣化していく】というのが新しい常識じゃ。
【 今回の調整+執筆時間:4.0時間 】 調整1.5h 執筆2.5h