水曜日の調整報告 【 Pelikan 1935 Blue 18K-B 】
今回の依頼品はPelikan 1935 Blue。Pelikanの限定品の中でも非常に人気の高いモデルじゃ。緑軸がイメージとは多少違っていた事もあり、Blue軸は好評を持って迎え入れられたと記憶しておる。
ボディそのものは実に忠実に当時の形を復刻している。内部機構はPelikan M400と同様だが、ペン先はこのシリーズ専用の物が使われている。
ニブを一目見た段階での当時の物との違いは、18金ペン先を使っている事だけ。
刻印のフォントに至るまで実に忠実に再現している。これはかなり長期的にシリーズが続くな!と期待していたのだが・・・・
とうとう赤軸が出ないまま終わった。一説によるとアメリカ市場では、違う限定品であってもペン先のデザインが同じPelikanは人気が無く、毎回ペン先のデザインを変えるMontblancの方がはるかに人気が高いらしい。
最近ではPelikanも高額商品シリーズの限定品ではペン先のデザインを変えるようになってきた。拙者はそれがイヤでなぁ・・・ 好きなペン先といつでも交換できること、3Bがあることというのが購入の条件なのじゃ!
依頼者は綺麗好きで、インクがピストンの後ろ側に回るのが許せない。従ってピストンを使ったインクの出し入れはせず、毎回ペン先ユニットをはずして前から注射器でインクを補充している。
このPelikan 1935は尻軸のボディ側をつまんで右に回転すれば、ピストンユニットがはずれ、内部を簡単に清掃できる。従って書き味が変わりやすいペン先ユニットをはずしてのインク注入を止め、通常のピストンによるインク吸入に変えるべきじゃろうな。たまにピストンユニットをはずして内部を掃除すれば済むことじゃから。
こちらはペン先とペン芯の位置関係。調整前の状態じゃ。ペン先のお辞儀の形状から考えればもう少々ペン芯が後ろの方が良さそうじゃな。
これでペン芯が、当時と同じ縦型スリットのものだったら・・・ダダ漏れしたかもしれないな。1931や1935などは、実は失敗作じゃ。キャップの気密性が高いにもかかわらず、首軸先端の拡がりを大きめに取ったため、キャプをはずす際にインクがボディからキャップ内に吸い出されてしまう個体が多かった。
これで一挙にPelikanの評判を落としてしまった。復刻するなら、キャップの穴の数や、首軸先端の形状や素材までこだわるべきだったなぁ・・・
なんせPelikan 100の設計者は天才。穴一つとっても無意味な物は無い。安易に設計変更してしまうと機能不全を起こしてしまう。
ではもしインク漏れが多いPelikan 1935に当たってしまったら・・・修正は簡単!
首軸先端の部分をNo.1000程度の耐水ペーパーで削ってキャップをはずす時に空気が通る隙間を作る。その後で首軸先端をプラスティック磨き布で擦って研磨面を平らにする。
これだけでインク漏れがウソのように消える。まだ漏れるようであれば、削りが不足しているので、もう少々ガシガシと首軸先端部を耐水ペーパーで削るべし!
左はペン先ユニットからはずした調整前のペン先。このスリットの詰まり方は凄い。インクを一滴も流さないぞという強い意志の表れとしか思えない状態!
多少スリットを拡げてペン先が呼吸できる状態にしないとな。
こちらがスリットを多少拡げた状態。通常ならもっとスリット間隔は開いたほうが良いのじゃが、依頼者はスリット先端が大きく開いているのが大嫌い。またインクがドバドバと出るのが好みではなくなってきているので多少スリット間隔は狭めてある。
こちらが完成図。ペン先の調整はペンポイントの全体的な形状をイメージして削る。部分部分の引っ掛かりを個別に研いで直そうとすると収拾がつかなくなってしまう。まずはどういう形状であるべきかの全体像をイメージし、それに従って削っていく。その間、一回も書き味チェックは行わない。
全体の研磨終了後、各エッジの研磨に入る。それが終了して初めて書き味をチェックし、不満のある部分を微調整していくわけじゃ。
部分最適化の延長上に最高の書き味は無い!ということを肝に銘じておく必要がある。実はこれこそが調整の極意なのじゃ。
【 今回の調整+執筆時間:3時間 】 調整1.5h 執筆1.5h
Posted by pelikan_1931 at 07:00│
Comments(8)│
mixiチェック
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万年筆
ロブーオしゃん
拙者はVintageにはほとんど興味が無いので知らないが、良く知っている人はたくさんおるよ。
誰か答えてくだされ。
師匠でも分からないことがあるとは驚きました!
それでは僕に分かるはずもないですね。
謎は謎のまま使い続けることにします。どうもありがとうございました。
ロブーオしゃん
PelikanのKの意味は拙者もようわからんのじゃ。
この万年筆は持ってないのですが100Nは持ってます。
古いせいか緑色のセルロイドの部分がほんの少し縮んでいるようで
ピストンを動かすと、インク窓の部分と緑軸の部分でトルクが違います。
見た目では分からないのですが、素材の経年変化に長い歳月を感じます。
復刻されたこのモデルは素材が改良されたりしてそういう点は問題ないんでしょうね。
ニブはKMとなっていてかなり下向きにお辞儀をしていて細い字です。
Kというのは球のドイツ語の頭文字らしいのですが、いまだに何が球なのか
よく分かりません。
ペン先部分だけ段差を設けて尖らせてあるように見えるのですが
これがKというニブの特徴なんでしょうか?
akiしゃん
ああ、アメリカに住みたい! 消費税が無ければ・・・
きくぞうしゃん
機密性が高いと抜かなくてもいんくが漏れることがありますので、
出来るだけ空気道を作ってあげるほうが良いかと・・・
昨年、シカゴに出張したときAustria1000のデッドストックがおそらく当時の販売価格で売られており(というか値切ったら4割引になった)、それを実感しました。
>一説によるとアメリカ市場では、違う限定品であってもペン先のデザインが同じPelikanは人気が無く、毎回ペン先のデザインを変えるMontblancの方がはるかに人気が高いらしい。
なるほど。やっぱり気密が良すぎて、よだれが垂れていたのですね。抜く時にスポンと景気の良い音がするので、気になっていたのですが、いつの間にかよど(よだれの岐阜弁です)でベタベタになり、紙や服を汚してしまったことも、、、
でも、抜くときに気をつけるだけだから、と自分に言い聞かせ、出来の悪い奴ほど可愛いと、、、