今回の依頼品はPelikan 400。過去に何度も調整している。ところが調整する度に新たな発見に出会う。発売した数も多いし、仕向け地別に細かな仕様変更があったり・・・・
はたまた物を大事にする欧州から中古で流れてきた物は、さまざまな時代の部品が組み合わさっている場合も多い。それに豊富なペン先バリエーションを加えると、まったく同じ物に出会う事はほとんどあるまい。
今回の依頼品で、面白いことを発見した。縞胴と尻軸の境目の部分に【PELIKAN 400 GŰNTHER WAGNER GERMANY】と刻印してあるが、最初のPと最後のYがこんなにズレている。
ずっと文字の刻印は仕上げの最終工程でなされていると思っていたのじゃが、ひょっとすると板の段階で文字を刻印し、最後に接合しているのかな?ちなみにどんなに目を凝らしてみても接合箇所はわからなかった。図のEの部分が接合部分かな?とも考えたが単なる模様のようじゃ。上まで繋がっていない・・・
接合部を見分ける方法が知りたいな・・・現行品はすぐわかるのじゃが・・・
今回の依頼内容は、例によってインクフローの改善。Pelikan 400の時代のペン先は異様にお辞儀状態なのででスリット先端が強力に左右から押し付けられている。この個体は特に強烈! かなり筆圧をかけないとインクが出てこない。
また右横からごくわずかにペン芯が見えている。真上からならセーフじゃが、ちょっとでもペン先を捻ると見えてしまう。これは非常に不快なので見えない状態に微調整が必要。
これがソケット毎首軸からはずした状態。ソケットの状態もペン芯の状態も上々。Pelikanのこの時代の万年筆をばらした際、一番美しいと思えるのは、このペン先ユニットの姿。ペン先+ペン芯+ソケットだが個々の部品は凡庸で地味だが、3つを組み立てると非常に魅力的に映る。
一時このユニットだけを大量に入手し、ペンホルダーに挟んで浸けペンで利用していた事もある。
こちらが調整前のペン先の表と裏じゃ。表にはソケットと接する部分にエボ焼けが発生している。インクがエボ焼けを誘発していたからじゃろう。
ちなみに横に並べた【ペン先画像】は拡大率を小さくしてあるので悪しからず。
また裏側には強烈なエボ焼けが残っている。これではインクフローの悪さに拍車がかかってしまう。
ペン芯を1時間ほどロットリング洗浄液につけてみたが、一切汚れが出てこなかった・・・ということは既に十分洗浄されていると見た。ひょっとするとロットリング洗浄液で洗われたのかもしれない。
こちらが調整後のペン先の表裏。
エボ焼けを取り除き、膨大な時間を費やしてスリットを空けた。もっともこれだけ鍛え上げられたペン先なら、すぐに調製戻りが発生して先端は再び閉じてしまう。
しかし一旦開いたスリットが調整戻りで閉じたのと、元々閉じていた状態とはまったく違う書き味になる。前者の書き味は絶品じゃが、後者は我慢ならん!というくらいの劇的な書き味変化がある。
これが首軸に装填して、微調整を繰り返した段階。既に調整戻りでスリットは閉じている。しかしフェザータッチで書いてもペン先は見事に開いて大量のインクを供給してくれる。
早いスピードで左から右に弧を描いてみると、キュイーン!というペン鳴りとともにインクの飛沫が飛び散る!こういう状態のペンポイントを丸めると・・・夢のような書き味になるのじゃ!
ただしペン鳴りを減らそうと表面を15000番なんぞのラッピングフィルムで磨いていくと、インクスキップが頻繁に発生する。そういう場合はあわてず、一ヶ月ほど書きまくってペンポイントの表面に傷を付ければよい。その場で一瞬でスキップを止める技もあるのじゃが、熟練が必要なのであまりお奨めできない。
最近調子が良いな・・・今回も大成功じゃ!
【 今回の調整+執筆時間:3時間 】 調整2.0h 執筆1.0h