今回の依頼品はPelikan M700。しかも最初期のM700じゃ。トレド研究家のゑでぃしゃんによれば、最初期のM700の尻軸には【刻印無し】。次の世代は【W-Germany】でその次は【Germany】の刻印があるそうな・・・
番号は【1/W 45 EI】の刻印。その彫刻職人の最初の作品らしく、ペリカンの顔というか眼がおかしい。最初の番号が増えるたびに彫刻がうまくなるが、【ペリカン不美人コンテスト】という企画が出るほど、不細工ペリカンが好きな人は多い。
で不具合は?・・・酷すぎる。ペン先を力いっぱい机にたたきつけたのか?
どういう状況でこうなったのかはわからないが、非常に柔らかいペン先だけに、いとも簡単に曲がってしまったようじゃな。
さてこの【ペン先曲がり戻し】は結構憂鬱な作業で、先日まで延び延びになっていた。こういう神経を使う調整は、心も体も余裕がある時でないと難しい。
その余裕がある日の朝一番で、調整に取り掛かった。
エイ!っと気合を入れてペン先を外側へそらすようにすると・・・ペン先は一瞬で下の状態に戻った。こういう作業をチマチマやると、ペン先が波打ってしまう。必ず一回で成功する必要がある。失敗すると相当な時間をかけて削る事になる。今回はまんまと成功!
とはいえ、多少の波うちは発生してしまうので、最後にラバーブロックの角に金磨きクロスを固定し、ペン先を擦り付けるという仕上げをするのじゃ。
これはバフ掛けと同じ効果を持つ。多少のデコボコはすぐに消えてしまうほど。ただし力を入れすぎると、狙いがズレた時にペン先をひん曲げてしまうので要注意。全神経を集中し、息を止めて左右に高速で動かす・・・お試しあれ!
この画像を見て、数分前までぐにゃぐにゃに曲がっていたとは誰も気付くまい。これはペン先の素材が軟かったから出来た業で、現行のM450などの18金ペン先の固さであれば元通りにはならなかたであろう。そもそも曲がらなかったかもしれないがな。
こちらは真横から見た画像。この角度で見てもまったくわからない。依頼者の書き味に合わせて相当に削ってあったニブだが、ぐにゃぐにゃ状態から戻しても、書き味はまったくいっしょ!
修繕前の状態から考えれば【奇跡】ともいえる回復ぶりだが、案外大きな変形ほど戻すのが楽なのかもしれない。
むかしセーラーの川口さんから聞いた記憶があるのが、【ほんの少し曲がったペン先をそのまま伸ばそうとすると波打ってしまう。曲がっっている方にさらに大きく曲げてから伸ばせば波うちが無くなる】とか。耳では覚えているが、まだそういう状態に遭遇したことは無い。ああ、試してみたい!
【 今回の調整+執筆時間:3.0時間 】 分解&画像処理1.5h 調整0.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上げ(磨きなど)をする作業、及び、
画像をスキャナーでPhotoshopLEに取り込み、向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間