2007年07月13日

金曜日の調整報告 【 ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB 】

2007-07-13 022007-07-13 01 今回の依頼品はPelikan M700。しかも最初期のM700じゃ。トレド研究家のゑでぃしゃんによれば、最初期のM700の尻軸には【刻印無し】。次の世代は【W-Germany】でその次は【Germany】の刻印があるそうな・・・

 番号は【1/W 45 EI】の刻印。その彫刻職人の最初の作品らしく、ペリカンの顔というか眼がおかしい。最初の番号が増えるたびに彫刻がうまくなるが、【ペリカン不美人コンテスト】という企画が出るほど、不細工ペリカンが好きな人は多い。

2007-07-13 03 で不具合は?・・・酷すぎる。ペン先を力いっぱい机にたたきつけたのか?

 どういう状況でこうなったのかはわからないが、非常に柔らかいペン先だけに、いとも簡単に曲がってしまったようじゃな。

 さてこの【ペン先曲がり戻し】は結構憂鬱な作業で、先日まで延び延びになっていた。こういう神経を使う調整は、心も体も余裕がある時でないと難しい。

 その余裕がある日の朝一番で、調整に取り掛かった。

2007-07-13 04 エイ!っと気合を入れてペン先を外側へそらすようにすると・・・ペン先は一瞬で下の状態に戻った。こういう作業をチマチマやると、ペン先が波打ってしまう。必ず一回で成功する必要がある。失敗すると相当な時間をかけて削る事になる。今回はまんまと成功!

2007-07-13 05 とはいえ、多少の波うちは発生してしまうので、最後にラバーブロックの角に金磨きクロスを固定し、ペン先を擦り付けるという仕上げをするのじゃ。

 これはバフ掛けと同じ効果を持つ。多少のデコボコはすぐに消えてしまうほど。ただし力を入れすぎると、狙いがズレた時にペン先をひん曲げてしまうので要注意。全神経を集中し、息を止めて左右に高速で動かす・・・お試しあれ!

 この画像を見て、数分前までぐにゃぐにゃに曲がっていたとは誰も気付くまい。これはペン先の素材が軟かったから出来た業で、現行のM450などの18金ペン先の固さであれば元通りにはならなかたであろう。そもそも曲がらなかったかもしれないがな。

2007-07-13 06 こちらは真横から見た画像。この角度で見てもまったくわからない。依頼者の書き味に合わせて相当に削ってあったニブだが、ぐにゃぐにゃ状態から戻しても、書き味はまったくいっしょ!

 修繕前の状態から考えれば【奇跡】ともいえる回復ぶりだが、案外大きな変形ほど戻すのが楽なのかもしれない。

 むかしセーラーの川口さんから聞いた記憶があるのが、【ほんの少し曲がったペン先をそのまま伸ばそうとすると波打ってしまう。曲がっっている方にさらに大きく曲げてから伸ばせば波うちが無くなる】とか。耳では覚えているが、まだそういう状態に遭遇したことは無い。ああ、試してみたい!


【 今回の調整+執筆時間:3.0時間 】 分解&画像処理1.5h 調整0.5h 執筆1.0h

画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上げ(磨きなど)をする作業、及び、
画像をスキャナーでPhotoshopLEに取り込み、向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間

調整
とはペンポイントの調整をしている時間

執筆とは記事を書いている時間



これまでの調整記事

2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M

2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
2007-05-30   Pelikan 400 灰茶 14C-F 
2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
shamalしゃん

ひとの万年筆でやるのがよい。お互いにあきらめもつく。あと自分のに比べて真剣さが違うので、成功する確率も高い!
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月14日 07:40
これはまさに神業ですね!
ここまでひどく曲がった上に弾性のないニブが、何事も無かった
かのように元に戻っている姿は驚愕です。
練習しようにも金ペンではコストがかかりすぎますし、
鉄ペンでは特性が違うので練習にならないでしょうから、
踏み入れそうにない領域です。
Posted by shamal at 2007年07月13日 23:44
お返事いただき、ありがとうございました。
参考にさせていただきます。
Posted by 茶渋 at 2007年07月13日 19:22
この曲がりは、体重三桁の人が、よろめくかどうかして、ペン先を力いっぱい何かに衝突させたためじゃ。

キャップでの衝突ではかならずお辞儀か片折れ状態になる。

調整戻りは素材しだい。Pelikan 400NNなどのお辞儀が大きく、弾力が強いものは、曲げても開いても戻ってしまう。このM700用の初期ペン先はヘロヘロで力を入れたとおりに曲がる。調整戻りもほとんど無い。
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月13日 17:40
今回の調整報告も勉強になります。ありがとうございました。
また、教えてください。

以前、どこかでペン先がキャップの底と干渉した結果として
同じような写真を出しているのを見たような記憶があるのですが、
その可能性は検討されましたでしょうか。調整前のペン先が
正常範囲を超えて突き出されていたようなことはなかった
のでしょうか。

また、ペン先を「外側へそらす」調整とのことでしたが、
ペン先の左を後ろへ、右を前へという回転の要素は考えなくて
よろしいのでしょうか。

最後に、このような大きな変形の場合、調整戻りの可能性は
どのくらいの期間注意しておけばよいのでしょうか。

Posted by 茶渋 at 2007年07月13日 14:32
らすとるむしゃん

では今度、フォルカン戻し・・・さすがに出来ないなぁ・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月13日 11:00
何時もながら師匠のニブ修正はマジックですね。
不謹慎にもお見事と唸ってしまいました。
例のビフォー・アフターを見ているように・・・・
何事もなかったかのごとくですね。
素晴らしい!!!・・・・・。
Posted by らすとるむ at 2007年07月13日 08:56