2007年07月16日

月曜日の調整報告 【 コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M 】

2007-07-16 01 今回の依頼品は1950年代後半のMontblanc No.144じゃ。依頼内容はピストン吸入が効かない事とインクフローを増やしたいというもの。

 この時代のNo.144にとっては珍しい修理依頼ではない・・・はずだった・・・

2007-07-16 02 ペン先の拡大図が左。ペン先と首軸の関係は理想どおり。ペン芯とペン先の位置関係も許容範囲内。出来ればもう少しペン芯が首軸に深く入っていたほうが良い。何故ペン芯の位置がわかるのか?スリットを凝視すればどこまでペン芯があるのかがわかるはず。心眼は不要じゃ。

 スリットについてはご多分にもれず詰まりすぎている。非常に弾力があるペン先なので、いったんインクが出始めれば、ペン先のポンプ運動によってインクはくみ出されていく。しかしながらこれだけスリットが詰まっていると書き出しでインクが紙に触れない確率が高くなる。やはりやや先端部は開いたほうが良いじゃろう。

2007-07-16 03 こちらが微調整を施したペン先じゃ。多少スリットが開いているのがわかろう。この手の弾力が非常に強いペン先の場合、段差を解消したり、スリットを開いても、調整戻りで元に戻ってしまうケースがよく発生する。

 従って、調整 → 放置 → 微調整 → 放置 → 微調整 → 放置 → 最終確認 を繰り返す必要がある。

2007-07-16 04 こちらが調整後の横顔。元々絶妙に調整されていたが、スリット詰まりによって書き味が劣化していただけ。従ってスリットを空けてインクの書き出しと、インク出しに必要な筆圧を低くすることによって絶妙の書き味になった。

 それは良いのじゃが・・・・

2007-07-16 05 コルク交換しようとしてあらゆる手を使ったが首軸部分が胴軸からはずれない。左の図で、ねじ部分の右端の部分がはずれるのだが、軸を暖めてもビクともしない。

 ちなみにペン先のソケット部分も捻ろうとしてみたが、こちらもビクともしない。どうやら首軸と胴軸の接合、ソケットと首軸の接合とも、接着剤を使ってしまったようじゃ。

 これはVintageを扱う業者なら絶対にやらない。いつでも修理できる状態にしておくのが修理のコツだからな。どうやら中途半端に分解できる素人からの購入と思われる。

 コルク交換作業は、首軸を胴軸からはずし、ピストンを一番伸ばした状態にし、首軸側からピストンに新しいコルクを固定して、ピストンを閉め、続いて首軸を胴軸にねじ込む事によって完了する。

 ところが肝心の首軸が外れない!これではコルクがセット出来ないではないか!

 幸いにしてコルクはドイツから届いたばかりの新品。そこで尻軸側から専用工具を用いてピストン機構を外した。それにコルクをセットし、胴軸内側に切られたねじに沿ってゆっくりと回しながら少しずつ、少しずつ押し込んでいった。一挙に押し込むとコルクがネジでボロボロになり空気が抜けてしまう。

 約15分ほどかけて押し込んでから、おそるおそるピストンを回してみる・・・成功じゃ!

 コルクは一片の欠けを作ること無く胴軸にねじ込めた。空気漏れは一切無い。

 成功の秘訣はゆっくりやること、そして新鮮で良いコルクを使うことじゃ。残念ながら日本で入手可能なコルクはほとんど使えない。やはり本場ドイツから取り寄せたものが一番じゃ!

 ちなみにNo.142用とNo.144は同じコルクを使用する。そのほかにNo.146用とNo.149用があり、No.139にはNo.149用が使える。

 ああ、ひやひやした!



【 今回の調整+執筆時間:3.5時間 】 分解&画像処理2.0h 調整0.5h 執筆1.0h

画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上げ(磨きなど)をする作業、及び、
画像をスキャナーでPhotoshopLEに取り込み、向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間

調整
とはペンポイントの調整をしている時間

執筆とは記事を書いている時間



これまでの調整記事

2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F

2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M

2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
2007-05-30   Pelikan 400 灰茶 14C-F 
2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 

Posted by pelikan_1931 at 05:00│Comments(10) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
PATAしゃん

通常の接着状態なら問題は無いが、ソケットと首軸の両方とも固いということは、分解清掃した人が、インク漏れを恐れて現代の接着剤を使ったとしか考えられないですな。

尻軸がわにも何度もはずした跡がついていたようじゃ。

本国で何度か修理された物であろうな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月20日 01:09
師匠

私の依頼品でしょうか。ヒヤヒヤものの修理ありがとうございました。

この品は、ヴィンテージペン「も」多数扱う個人経営のネットショップでの購入です。そのショップでは仕入時に吸入チェック程度は行っているとのことでしたが、分解チェックまでは行っていないようです。
そのショップで在庫整理の為の赤字処分品を購入しましたので、不良在庫化する間にコルクの劣化が進んでいたのでしょうね。

また、ユーロボックスの藤井マスターによれば、(釈迦に説法でしょうが)この年代のモンブランはオリジナルの状態でも松ヤニ状の接着剤で固定されているそうで、この144を師匠にお預けした際同時にご覧頂いた244Gを、「辛うじて何とか首軸を外せそうなオリジナル状態」との診断でお預り頂きました。
Posted by PATA at 2007年07月19日 06:19
stylustip@136 しゃん

おお、大成功ですな。

拙者のBiogon 21mm f4.5 は、特に選りすぐりでな・・・

30年近くぶりの、降格王子じゃなくて甲殻王子じゃなくて、広角王子の復活じゃ!

露出計もピントも合わせない撮影で、勘が戻るまで2年ほど待ってみよう。

勘がもどったら・・・賞金稼ぎ復活じゃ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月18日 21:41
師匠
昨日チラとお見かけしたZeissIkonに付いていたレンズは、
Biogon21mmのように思いました。(しかもf4.5の方?)
ファンタスティックなレンズだと思います。

私自身、極端だと思います。
沼への嵌り方も体重がある分、早いような。。。orz

744は昨夜、尻軸が外せましたので、ロックタイトでスリーブを固定しました。(^^)v
Posted by stylustip@136 at 2007年07月17日 10:45
stylustip@136しゃん

レンズは広角、万年筆は太字はいっしょですな。
おぬしの場合、紅白はホロゴンの15ミリ、太字はキングイーグルなので極端ですな(^^)v
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月17日 01:20
師匠、昨日は有り難う御座いました。
私の134はおしり側からコルクを交換しましたが、ねじ込みのネジ部をコルクが通過するので、精神衛生上 宜しくないですね、仰るとおり。

魔法をかけていただいたペンは、いずれも快調です。
有り難う御座いました。
744も魔法前・魔法後での驚きに浸っています。
尻軸外しに難航していますが、焦らず時間をかけてやってみます。
モンテローザは思い切ってニブの前下がりを真っ直ぐにして、
筆圧0にしてしまいました。

レンズは広角、万年筆は太字と方向性がはっきりしたWagner初参加でした。

セーラー・モーン(仮)の兼で、ご相談に乗っていただきたい事が御座います。
もし可能でしたら、宜しくお願い致します。
Posted by stylustip@136 at 2007年07月16日 18:05
二右衛門半しゃん

修理は時間をかけてゆっくりやらなば失敗するとは、メーカーの修理担当の人の話として聞いたことがある。

今日少しまわして動かなければ水に浸けて、明日少し力を入れて回そうとし、だめならさらに翌日・・・これを5年ほど続けてやっと回った!とかの話をよく聞いた。

これは修理というより、重要文化財修復に近い。拙者にはそれは出来ないので、【生贄】と呼んでいる。

早い代わりに結果は保証出来ないということじゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月16日 09:38
こまねずみしゃん

50年ほど前には、コルクはアベマキの木から作っておった。日本でも多量に作っており、当時コルク製造会社の全国的な団体があり、登録会社は100社を超えていたそうじゃ。戦後の植林政策のミスによって、杉ばかり植えたため、日本のコルク産業は壊滅したのではないかな・・かわりに大量の杉花粉が・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月16日 09:34
昨日はいろいろと大変だったようですね。
お疲れ様で〜す!
それにしてもこの修理のブツは・・・。
おさすが!!
Posted by 二右衛門半 at 2007年07月16日 07:13
 昨日はお疲れ様でした。
 ヒヤヒヤものの修理ですね。
 昨日50年代のモンブランは首軸を外してコルクを交換すると教えていただきましたが、後ろから交換することも「不可能ではない」ということですね。

 そういえば、愛知万博のポルトガル館では「新鮮なコルク」を大量に展示していました。やっぱりドイツはポルトガルから新鮮なコルクを直輸入しているのか・・・
Posted by こまねずみ at 2007年07月16日 05:58