2007年07月18日

水曜日の調整報告 【 Pelikan #520NN 14C-M 】

2007-07-18 01 今回の依頼品はPelikan 520NNじゃ。Vintage Pelikanの中で最も美しい物だと考えている。

 マザーオブパールやマーブル軸の400NNや100Nは息が止まるほど美しいが、それはスッピンの美しさ。年月を経るとどうしても容貌は劣ってく。

 それに対して520NNは【完璧な化粧と衣装をまとったイリュージョニスト:引田天功】。その人工的な美しさは不老不死の世界のようで、拙者を惹きつけて離さない。

 520NNは3本購入したが、手元に残っているのは1本しかない。お嫁にやった記憶は無いので、あとの2本は昇天したと考えられる。

 いかに完璧な外装を誇ろうとも、内臓は一般人と同じ・・・

 コレクターから入手した最初の520NNは、極めて安かった!アタリがあったのと、ピストンが折れていたから・・・

 折れたピストンは川窪万年筆店で目の前で直してもらった。その見事さに感激して・・・拙者も修理をやろうと決意した。すなわち拙者を修理に走らせた一本が520NNなのじゃ。

 今回の依頼品も外装は美しく、傷もアタリも無い。また吸入機構もまったくの無傷。インク窓の汚れも無く、ほぼ完璧な逸品!

2007-07-18 02 ペン先の拡大図が左。首軸へ突っ込む位置も、ペン芯の位置も、スリットの開き具合もほぼ完璧で、インクもヌラヌラと出てくる。

 まるで拙者が過去に調整したかのよう・・・・

 ただし依頼者の筆記角度で書いてみると、書き味がやや重い。【ぬるぬるだが重い】という表現がピッタリくる。

2007-07-18 03 こちらが胴体から抜いたソケットじゃ。エボ焼けも無く、こちらも完璧。

 【建付け】に破綻は皆無じゃ。とすれば、あとは依頼者の筆記角度と、前の持ち主の筆記角度が合ってないということ。

 筆記角度が違えば、紙に当たる断面積が減り、書き味がどうしても重くなってしまう。

2007-07-18 04 こちらがスリットをやや開いた状態のペン先。表面を金磨き布で擦ると多少削れて、ペン先の太さを表す【M】の刻印がほとんど消えてしまったように見える。

 以前、ペリカン社史の記事で、左側の丸穴について、切割作業時の位置決めでは?とかの議論もあったかもしれないが、その後の進展がまったく無い。単なるコストカット穴で無いとしたら、何の為の穴か?もしご存知の方がたら教えてくだされ。大胆な仮説も歓迎じゃな。

2007-07-18 05 こちらがペン先を取り付けて、筆記角度調整を施した後の拡大図。

 スリットは多少開き、ペン芯位置も多少下がったが、これにはわけがある。ペンをかなり立て、そう軽くない筆圧でゆっくりと書くので、接紙面積を拡げるげる為の細工を施したのじゃ。

 その場に立ち会うと心臓がキュっと締められるような音がするので、心臓を患った経験のある依頼者の前では控えておいた作業。

2007-07-18 06

 こちらが調整後の横顔。実はお辞儀は当初より若干強くしている。お辞儀をさせるとペンポイントは【腹開き】になる。これがインクフローを向上させ、重い書き味から軽やかな書き味に変える為に最も効果がある方法。

 ただしお辞儀を強くするほどスリットは締まろうとする。従ってお辞儀を強くしつつ、スリットの開きは今まで以上!という困難な調整が必要だった・・・

  画像で見ると殆ど変わらないが、調整にはものすごく時間がかかった。少しずつ、少しずつ【猫背化】と【スリット開き】を繰り返し、さらには【調整戻り】に微調整を加えながら調整を実施した。

 ここまでニブに力を加えると、半年、1年経過後の調整戻りがまた出る可能性がある。相手は弾力の王者【pelikan 400NN】と同じペン先だからな・・・

 【ペン先調整】は外科手術と整体のあわせ技のようなもの。外科手術をしただけで全てが解決されるわけではない。手術後に首の骨がずれたり、骨盤がズレたり、軽微なところでは肩が凝る症状が出たりする。

 手術後は整体師の出番!小まめに微調整をしながら使うのがコツじゃ。WAGNERメンバーなら定例会での健康診断と10分間マッサージ程度の微調整でOK。地方在住の方々も、機会があれば上京して生で見て欲しい。説明を聞いて出来るレベルの作業ではない。

 e-WAGNER構想が実現すれば、それほど遠出をしなくても技を身につけることが出来よう。構想10年・・・てな状況に陥らないようにせねばな・・・急ごう!



【 今回の調整+執筆時間:8.0時間 】 分解&画像処理2.0h 調整4.5h 執筆1.5h

画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上げ(磨きなど)をする作業、及び、
画像をスキャナーでPhotoshopLEに取り込み、向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間

調整
とはペンポイントの調整をしている時間

執筆とは記事を書いている時間


これまでの調整記事

2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
2007-05-30   Pelikan 400 灰茶 14C-F 
2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
ペン先の根元を、ツボ押し棒で押して拡げれば・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年07月21日 17:55
師匠、こんにちは。
調整時間4.5h・・・ものすごく時間がかかっているのですね。
先日似たような調整に挑戦しました。ペン芯との位置関係からペン先をおじぎさせたのは良かったのですが先端の寄せが強くなって何をやっても全く開かない!
今回の記事を読んで、一気におじぎさせたのが原因と気付きましたが、どうしようもなくなってしまいストップしています(床に叩きつけるのは回避しました)。このような場合に先端を開く為には、一度おじぎを戻してから開く→おじぎ→開く・・・とすればよいのでしょうか?
Posted by 花月 at 2007年07月21日 15:39