今回の依頼内容は【Pelikan M800用の14C-O3Bのニブを研磨し、14C-3Bのニブをつくり、バイカラーをピンクゴールドに鍍金する事】というものじゃ。
拙者が同じようにしたニブをPelikan Nord/LBに取り付けていたところ、それを試した依頼主から【同じ物を作って欲しい、ただし新品のO3Bニブから】との切なる願い!
幸いM800用O3Bニブはいくつかストックがあるので、その中から一個を選んだ。
この14Cニブは現行の18Cニブより柔らかいといわれている。たしかに現行のニブよりは柔らかいが、p.f.マーク入りの18Cニブとの比較では個体差でしかない。14Cが柔らかいという人もいれば、18C p.f.が柔らかいという人もいる。拙者はどちらもいっしょと考えている・・・というか、その差を検知出来るほど指先が鋭敏ではない。
3Bの14Cと18C p.f.ニブとの一番大きな差はペンポイントの厚さ。18C p.f.のぺンポイントは厚い。従って斜めに削った斜面の面積を大きく出来る。
ペンタッチの感触はペンポイントの単位面積あたりの筆圧に反比例する。すなわち面積が広いほどタッチは柔らかい事になる。
従って素質は18C p.f.の方があるのじゃが、残念ながら研ぎだして売られる事は一部万年筆店を除いては無いのが現状じゃ。
ちなみに現行の18Cニブのペンポイントの厚さは14Cとほぼ同じ。当初はその事実だけから14Cニブと現行18Cニブは同じ製造場所で作られ、18C p.f.は別のOEM生産先に委託していた! との仮説をたてていたが・・・ペン先の形状は14Cと18C p.f.が同じで、現行ニブは内側への丸まったような形状をしている・・・
とまぁ、3個のペン先を見比べるだけでも十分に楽しめるのじゃ!
改造の第一歩はO3Bの右肩上がりのペンポイントを平坦な状態に削りだす。これはNo.320番の耐水ペーパーの上でゴリゴリとペン先を動かして削る。出来れば軸にセットした状態の方が無難じゃ。最初は大体の形で良い。
次にそのペン先を軸にセットし、依頼者の筆記角度で力いっぱい20文字ほど320番の耐水ペーパーの上で書く。この段階ではペンポイントの腹の削りはO3Bのままなので、それを3Bの形状に直す気持ちで字を書くのじゃ。
そこから先は、ペンクリで見ている人にしかわからない残酷シーンが始まる。耐水ペーパーの上で、ゴリゴリと大音響をたてながら8の字旋回や、前進後退を繰り返す。これがペンポイントの対角線を削り切ってしまう二歩手前くらいまで続く・・・
この段階でほとんどの人は目をそむけるか、後ずさりしてしまう。心臓が悪い人には危険なので、出来るだけ医師には立ち会っていていただいておる。ご専門は司法解剖・・・
その後は順次番手の細かい耐水ペーパーで形状を整えていく。これはペン先を右手にしっかりとホールドし、左手で理想の形状になるように削るのじゃ。(ちなみに拙者左利きなので左手にペーパーを持って作業する)
要するに理想の形状がわかっていないと削れない。そこでヒントとなるのが削った画像。今回は一番重要な横顔は掲載していない・・・というか撮り忘れた。が、過去の調整映像にあるかもしれないので、過去記事も確認してみなされ。
こちらは研ぎが終わったあとで、金磨き布で擦ってバイカラーのプラチナ鍍金部分を落とした段階での画像。
ほとんど金一色にはなっているが、刻印の溝には銀色が残っている。これを彫りながら削るのは不可能なので、金鍍金を施す。
18金鍍金、20金鍍金、24金鍍金など試してみたが、一番クリップの色合いとの調和が良いのがピンクゴールドだったので、それで鍍金した。それが左の状態。
刻印の溝内まで全て金色になっているのがわかろう。なをペン先の裏側にロジウム鍍金を施せばインクフローはさらに上がる。(今回は省いた)
上のニブをペン芯と合わせてソケットに押し込んだ状態が左画像。ここから先は軸にペン先を取り付けての書き味調整じゃ。
ペンポイントが大きいほど時間はかかるが、作業自体は楽。細字の調整は太字調整に慣れていると相当イライラするものじゃ。細字でヌラヌラは不可能とわかっていても、ついもう少し・・・と時間ばかりかけてしまう・・・とペンポイントは磨耗するだけ。打ち切り時の見極めが重要になる。ある意味【賭け事】に似ているかも・・・
それにしても綺麗に仕上がった!スリット間隔、ペン芯との位置関係、ペンポイントの形状も美しい!
ビジュアル的には大成功じゃ!
【 今回の調整+執筆時間:3.0時間 】 分解&画像処理0.5h 調整1.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上げ(磨きなど)をする作業、及び、
画像をスキャナーでPhotoshopLEに取り込み、向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間