今回の依頼品は久々の国産物。国産はカートリッジ式がほとんどで、可動部分が少ない分、修理依頼はほとんど無い。ペン先調整が大半。
その昔、万年筆メーカーの儲けは【インク】と言われていた。六本木ロアビルにに【didi】という筆記具専門店があった。万年筆はほとんど定価販売していたが、そこの社長も【儲かるのはインクです】とか・・・
カートリッジ・インクは、そのインクを売る商売としては大成功を収めたが、逆に修理が出来る万年筆店の職人さんを不要にし、修理出来る人がメーカーにしかいなくなり、しかもVintageに関してはメーカーにも修理人がいなくなり、万年筆文化が消えかかってしまった。
現在、万年筆文化は再興しつつあるが、今の調整品質で市場に出し続けて長続きするだろうか?
万年筆は【半製品の販売であり、自分で使いやすいように改造して使う】という文化を育成するには、もう少し時間がかかりそうじゃな。しかし、万年筆とはそういう筆記具。これだけペンの握り方が多様化する中、万人に合う万年筆を出荷するのは、その構造上困難だから・・・・
さて今回の【金魚】であるが、一見すると完璧な形状を持つ万年筆に見える。唯一の弱点は、セルロイドの継ぎ目(首軸部分)が真上にきていることくらいかな?
#3776の14金ペン先の形は惚れ惚れするくらい美しい。定番品のニブとしては国産No.1だと考えている。富士山をあしらったデザインも秀逸。戦前の地球印のニブよりもはるかに垢抜けている。
この二ブ先端部分の拡大図。太字のペン先の先端はちゃんとスリットが開いている。最近は国産、海外物ともおしなべて先端のペンポイントを密着させる傾向があるが、実際にはこれくらい離れていた方がインクフローが良く、気持ちよく書ける。
万年筆の設計者は科学に基づいてペン先の設計をするが、まだまだ【科学では解明されていないが調整者にとってはあたりまえ】という事はたくさんある。ぜひペン先をデザインする技術者には職人教育も施して欲しい。もし設計者が職人のわざと知識を得たら、最高の万年筆が生まれるじゃろう。
万年筆を愛し、万年筆に対し理想を持っている人の意見を吸収しなければ魅力的な万年筆は作れない。今では【万年筆に対するクレーマー】の意見を反映して無難で面白くない万年筆が多い。万年筆文化を潰すのは品質管理部門じゃ。負けるな営業部門!
真横から見た画像。これでオヤっと感じた。もう少しお辞儀させた方が良くないか?しかもペン先がペン芯よりも若干浮いている。
プラチナのペン先の素材は極端に弾力が少ないのでしならない。そこで少しでもしなりやすいようにフラットなペン先(下にお辞儀してない)が特徴じゃ。しかしこの状態ではなぁ・・・・
確認の為にペンポイントの正面画像を苦労して撮った。これはスキャナーの上にノックアウトブロックを置き、その穴に軸を突っ込んで直立させた状態をPCに取り込んだ画像。今回の一番の収穫じゃ!
これで見ると・・・やはり背開きになっている!平たいペン先素材を曲げてからスリットを入れると、必ず背開きになる。そこから多少お辞儀させる事によって背開きが解消される。そうなれば、今回の依頼内容の【ヒッカカリを取って!】は解決されたも同然じゃ。
話は脱線するが、何故プラチナのニブがグラつかず、首軸から抜けにくいかをお見せしよう。下はパイロットの10号ニブ。比べてみると上の#3776のニブの方がはるかに長いのがわかろう。これだけの長さが首軸内の隠されているからこそ、グラつかないし、抜く時大変力が要るわけじゃ・・・
一方ぐらつく!と不満が多いモデルは、殆どの場合、首軸内に入る部分の面積が狭い。代表はパイロットの15号ニブ。これにはほとほと手を焼いている。書き味は良いのにすぐずれる・・・・
ガリガリ感を背開きが原因と判断し、多少お辞儀させて背開きを取った。またそれに合わせて筆記角度調整を施した。
では試しに・・・いい感じじゃ。依頼者は適度なインクフローが好きなのであまりにドバドバインクが出るような調整はやめておいた。いつもドバドバ調整をしているので、節度あるインクフローに調整するのは目先が変わって楽しいものじゃな。
【 今回執筆時間:3.0時間 】 画像準備1.5h 調整0.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間