2007年08月06日

月曜日の調整報告 【 Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF 】

2007-08-06 01 今回は万年筆倶楽部【フェンテ】会長からの依頼品。でべそ会長は4本のヘミングウェイを日常的に愛用している事で有名じゃ。古山画伯が【4本のヘミングウェイ】を執筆したのもでべそ会長との出会いがあったから。

 拙者が【Pen Collectors of Japan】を立ち上げ【ペン・トレーディング in 東京】を開催し続けているのもでべそ会長の示唆によるもの。その流れで萬年筆研究会WAGNER】も始まった。

 古山画伯曰くの【萬年筆界のイエス・キリスト】がでべそ会長なのである。

 そのでべそ会長が最も好きなのはヘミングウェイではなく、VintageのMontblancとPelikan。特に1950年代のMontblancをこよなく愛しているようじゃ。

 各所で修理不能!と宣告されたNo.14Xを直して差し上げた事が何度かある。【壊れた物ほど愛しい!】という感覚は拙者にも良くわかる。もっとも拙者の場合は【書き味の悪い万年筆ほど欲しくなる】と表現すべきじゃろうがな。


2007-08-06 02 今回のは1950年代初期のMontblanc No.144じゃ。1950年代ではNo.146にばかり人気が集まっているが、大きさと重さのバランスではNo.144が最も高級感を感じさせてくれるかもしれない。最近の拙者はNo.144に惹かれている。

 ペン先の調整具合を見て、拙者が過去に調整したものではないかと感じた。VintageのNo.144でスリットが詰まっていない物は無いはずだが、このNo.144では、ごくわずかにスリットが開いている。こうすれば書いたときに少しインクが紙の上に盛り上がるような感じになり、でべそ会長の趣味に合致するのじゃ。

2007-08-06 03 横顔を見ると、ペン先とペン芯が離れている。これは長期間の使用で調整戻りが出たのであろう。もう少しペン先をお辞儀させた方が弾力が楽しめるので、多少いじってみよう。

 ただしお辞儀をさせるとスリットは詰まってしまう。スリット間隔を維持しつつ、ペン先をお辞儀させるには根気と指力と細心の注意が必要じゃ。さらには調整戻りのチェックも必要・・・けっこう時間がかかる。

2007-08-06 04 今回の依頼内容はペン先調整よりも吸入機構の修理。左の画像のように、収縮したコルクからシリンダー内にインクが逆流し、吸入機構に錆を発生させている。さらには、長期間の使用によって、吸入機構の一部が割れ、吸入機構がほとんど機能しない状態になっている。

 こういう状態であればプロの方は修理しようとは思わない。なぜなら再発の確率が高いから!それでは手間ばかりかかって商売にはならない。というか安請け合いすると信用失墜になる可能性もある!

 拙者の場合【生贄】と呼ぶくらいで(依頼者の期待はともかくとして)修理とは面白い実程度に考えている。従ってこういう直せる可能性が不確かな物は大歓迎じゃ。工夫する余地がいっぱいあるからな。

2007-08-06 05 まずはロットリング洗浄液に2日ほど漬物にした後で、超音波洗浄機にかけ、さらには耐水ペーパーで磨いたら左図の状態になった。画像ではわからないが、中央金具の接合部分が裂けている。これではピストンを最後まで押す力が出せない・・・・

 ただ、その状態でも現行のNo.146程度の吸入量は確保できる。以前ハンダ付けしてめちゃめちゃになったピストンを見ているので、これ以上の加工は止めて、グリースをつけ、コルク交換をするだけにした。

2007-08-06 06 こちらが苦労してお辞儀させつつスリットを拡げたペン先じゃ。上の画像と比べて多少エラも張っているのがわかるかな?

 実際にインクを入れて使ってみたが、実に繊細な書き味じゃ。N0.146派とNo.144派がいるが、ぐわんぐわんという大きな振幅の弾力を求めるならNo.146、ピクンピクンという小さくて小刻みな弾力が好みならNo.144が良かろう。ただしどちらもEF〜Mくらいまでの字巾じゃよ。B以上になるとどのモデルでも似たようなものだし、Kugelが頭につけば、多少心許ない書き味になる。その心許なさに惹かれる人も多いようじゃが・・・

2007-08-06 07 こちらが調整後の横顔。ペン芯を多少下げてお辞儀を強くした状態。これがNo.144のニブでは最も美しい状態だと信じている。書き味は調整でなんとでも出来るが、姿かたちのスイートスポットは厳然としてある。往々にして書き味重視のポイントと、姿かたち重視のポイントは違うが、拙者の調整では姿かたちの美しさを第一とし、その位置で書き味が最良になるように調整している。いくら書き味が良くても惚れ惚れするほど美しくないと使う気がしないからな。


【 今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 調整2.5h 執筆1.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
              向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間


これまでの調整記事

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2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
2007-05-30   Pelikan 400 灰茶 14C-F 
2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
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2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
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2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
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2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
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2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 
2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
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2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
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2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
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2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
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2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
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2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB 
Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(6) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
カミオソウイチロウ しゃん

拙者は一日に一回液を変えている。現在7日目のものがある。どんどんインク汚れは少なくなっている。カーボンならすぐ溶けるが、赤インクはなかなか落ちない。もともと赤インク用ではなく、カーボンインクようなのでな・・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月25日 08:22
一つ質問させてください。

>まずはロットリング洗浄液に2日ほど漬物にした後で

これは、2日の間に液は何度か交換するのでしょうか?
それとも放置してしまうのでしょうか。

ロットリング洗浄液を使うのが初めてなので、ご教示いただければ幸いです。
Posted by カミオソウイチロウ at 2008年01月24日 22:08
こまねずみしゃん

細長い【カミ】は愉快ですな!
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月08日 20:40
 ネ申は万年筆を増やしすぎたので、とても7日間毎日使うことはできなくなった。そこで残りの二日は増えすぎた万年筆たちの安息日となされた。アーメン(笑)

>>pelikan_1931さん
 アブラハム一神教徒(ユダヤ、キリスト、イスラム)は聖書に登場する人物の名前を自分の子供の名前につける風習があります。リンカーンが有名ですが、ダビデ(アイゼンハワー)などもあります。
Posted by こまねずみ at 2007年08月08日 11:28
祈祷師ゑでぃしゃん

アブラハムは…?・・・リンカーン・・・_| ̄|○

ペリカンがキリスト教なら、邪教であるMontblancは?
ちなみにダビデの星を嫌う宗教もある。
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月07日 06:07
えっーと、中園先生がノアで、すなみまさみちさんをモーセとするとアブラハムは…?




初めに、神は万年筆を創造された。
神は言われた。「ウォーターマンあれ。」
こうして、ウォーターマンがあった。
神はウォーターマンを見て、良しとされた。
第一の日である。



神は万年筆を祝福して言われた。
「増えよ、満ちよ。地の上に増えよ。」
夕べがあり、朝があった。第五の日である。


…続きません_| ̄|○
Posted by 祈祷師ゑでぃ@似非切支丹 at 2007年08月07日 01:01