今回の依頼はWAGNER会員番号【01188】のズミルクスしゃんからのもの。最近、彼は拙者と同じ高校の写真部の後輩だと判明した。
ライカ使いの名手として有名なズミルクスしゃんの影響で、centenaire26しゃん、たかたかしゃん、よっちゃんなどが続々とライカを入手しはじめた。
ライカ使いはその他にも判明しているだけで、ARI435しゃん、辺里缶しゃん、kugel_149しゃん、M764しゃん、salty_7しゃん、つよししゃん、stylustipしゃん、ペトロしゃん、INDENしゃんなどなど・・・隠し持つ人は他にもいる筈。WAGNER会員へのライカウィルス浸透度はかなりのものじゃ。
万年筆のほかにカメラや時計やオーディオを趣味としている会員も多い。全て!と豪語してはばからない会員もいる。
ズミルクスしゃんとARI435しゃん、映像関係の仕事をしている2人は、新しい万年筆を入手すると必ず、生贄として拙者にささげてくれる。ありがたいことじゃ。
今回の依頼品は1980年代後半のNo.146。素通しインク窓で二段式ペン芯の14Kペン先付。No.146史上、最もペン先が厚いと思われる。材料的には贅沢な時代の物なのじゃ。
実はペン先的にはこれが一番好き!ただ、クリップをネジで止めてあるという一点でこれを【最高のNo.146】とは認めていない。
これが調整前のペン先。どうやらOBらしい。ズミルクスしゃんはまったく捻らないで字を書くので、これをBに改造することにした。通常の調整であれば、ペン先先端を丸く削り、いかにも【調整しました!】という形にするのじゃが、今回は【元々Bだった】と思わせるように調整することにした。
スリットは拡がっておりインクフローもなかなか良い。にもかかわらず書き味がガサツで、インクフローも多少ムラがある。これはスリットが背開きでも腹開きでもなく上下均等で、かつ、ペンポイントの斜面が筆記角度と合っていない場合の症状じゃ。
ペン芯は二段式。上半分と下半分の間に切れ目がある。これによってペン先とペン芯とを合わせる調整時間を短縮することが出来る。昔は【ペン先の反りに追随させる為の秘策】といわれていたが、実験の結果その効果が無いことが判明。【調整の生産性向上策】という情報はアメ横の販売店から教えてもらった。
その店では、当時よくNo.146のペン芯を単体で購入したが、全て上半分が海老反り状態なので【不良品じゃないの?】と聞いたら正しい使い方を伝授してくれた。
今では部品単体で購入することなど全てのメーカーで不可能になった・・・市井の調整師を目指す人にとっては完全な逆風状態じゃな。
これはある調整をして軸に取り付けた状態。一見何も調整していないように見えるであろう。ペン先はオブリークのままだし・・・
しかし書いてみると、ガサツな感じは姿を消している・・・はたして・・・・
ペン先の拡大画像を見ても何も変わっていない。スリットなどはかえって詰まったのでは?と思えるほど。
横から見てもわかるまいな。一番最初と比べてもペン芯の位置を多少後ろにすらしただけだし、そもそも最初の画像を載せてないからな。
正解はこちら。そう大変な苦労をして腹開きに改造したのじゃ。厚いペン先を腹開きに改造しつつ、お辞儀の具合も多少強めるというのは困難極まりない!
今回も非常に時間を要した調整であった。苦労がほとんどわからない調整というのはなかなか粋!裏地を派手にした江戸時代の粋人の衣装みたい! と自画自賛するが誰も気付かないだろうな・・・
腹開きをやりすぎるとペン先が前から見て【かもめの翼】のように波打ってしまう。そうすると書いている時に、スリットに沿ってインク溜まりのようなものが出来て見苦しい。要するに腹開きも【ほどほどに】ということじゃ。
こちらはOBをBに研ぎなおす途中の画像。背中側にも斜めの平面を入れた。これはオリジナルのBと同じ傾斜面じゃ。ただしそのままでは背面書きの書き味が悪いので、多少研磨してある。肉眼では見えないがな。
こうしておけば、表で書けばB、裏で書けばイタリックの線になる。見栄えだけではなく実用もかねているところがこだわりじゃ。
Vintage物よりも現行品に近いペン先の方が大胆に調整出来ておもしろい。最近らすちるむしゃんが得意な【フォルカン・スペシャル:らすとフォルカン】も新しいペン先ほど冒険しやすいはずじゃ。イザという時に代替品が入手しやすいというのは何より大事だからな。
さてこちらが上記画像の拡大図。拡大してみるとオリジナルのペン先のすごさが良くわかる。
Pelikan 400NNなどはペン先の設計で弾力を出している:素材をケチって設計で書き味をカバーしている。ある意味メーカーのあるべき姿じゃ。
それに対して、この時代のMontblankは惜しみない素材を投入して豪胆さを演出している。高筆圧化に対して曲げの設計で対抗するのではなく、ペン先の厚みで対抗しようとしたのか・・・拙者が最も好きなニブというのはケチくささが無いからじゃ。それに引き換えヘミングウェイ以降のNo.149やNo.146系のコストカットニブはどうも寂しい感じがする。書き味には感心する部分も多いが・・・
こちらは横顔。依頼主の筆記角度にあわせて斜面を削った。これで非常に滑らかな筆記が可能なはずじゃ。
ここまで出来てから仕上げをする。拙者の仕上げというのは、仕上げ&戻しというべきかも知れない。高倍率のルーペで見ながら形状を微調整する(表も裏も)。書き味には関係ない所のこだわりじゃ。アマチュアに妥協は無い!
次に書き味の仕上げ。例によって金磨き布で8の字旋回を上下方向、横方向とも右回り、左回りで各100回ずつ計400回実施。この作業はバフ掛けであって、研磨ではない。
このあとで、スリット内部をラッピングフィルムで清掃し、インクを付けて書き味の確認。書き出しが掠れるようなら5000番の耐水ペーパーの上で書き出し角度に合わせて2ミリほど線を書けば見事に直る。極太なら2500番で良いじゃろう。
やたら細かいラッピングフィルムを仕上げに使いたがる人がいるが、出来るだけ荒いペーパーで書き味を出すのがコツであり技じゃ。15000番のラッピングフィルムはエッジの丸めには有効じゃが、曲面の仕上げには向いていない。細かければ良いと言うのではない、荒いもので書き味を演出出来ればそれに越した事は無い。
そして最近、それにポリエチレングリコール水溶液という新兵器が加わった。ひょっとすると書き出し掠れの新兵器になるかも知れない。インク自体に混ぜる手もあろう。いよいよ面白くなってきそうじゃな!
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.0h 調整2.0h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間