2007年08月15日

水曜日の調整報告 【 Montblanc 60年代No.149 18C-OB 】 ハプニング!

2007-08-15 01 今回と次回は1960年代のNo.149。10年ほど前には非常にもてはやされたモデルで、拙者もせっせと入手に励んでいた。どこが人を惹きつけていたのか?それは吸入量の多さと、尻軸リングの片側(胴軸側)にテーパーがかかっているところを【かわいいんですよねぇ】とフェンテでべそ会長がぽつりと言ったことに起因する。

2007-08-15 02 テーパーは左画像の上側部分にかかっており、70年代以降のモデルよりも巾も狭い。ここがマニア心をくすぐったわけじゃ。

 ピストン機構は70年代以降のねじ込み式ではなく押し込み式。従ってフォークを曲げて作ったような器具は使えず、ピストン機構を抜くには専用工具が必要だった。拙者はたまたま万年筆界の大先輩から3年ほど前に譲っていただいたが、これを入手する前は力ずくで抜こうとして何本かおシャカにした。

 なぜ60年代モデルが70年代モデルに移行したか?それは非常に壊れやすかった事と、修理しにくかったことに起因すると考えている。

 吸入量が多いのは、胴軸内径が太いから。実は1970年代以降のNo.149の内径はNo.146とまったく同じ。ピストンの互換性もある。しかし60年代のNo.149では内径が太い。ということは胴軸の厚みが薄いので割れやすい

 またピストンの外周が胴軸内径と接する面積が広い。従っていったん内部でインクが固まったらピストンが動かなくなる。無理矢理動かそうとしてピストンをひねると尻軸から伸びている螺旋棒がネジ切れる・・・

 要するに非常に壊れやすい!この事に気づいてからは拙者は他人には絶対に1960年代No.149を奨めないようにしている。コレクションなら問題ないが、実用に供するなら相当に気をつけて使わないと壊してしまう可能性が高いのじゃ。


2007-08-15 03 今回の依頼内容はペン先とペン芯の中央が合ってないので直して欲しいというもの。この気持ちは実によくわかる。拙者もこういうズレを異常に気にするタイプなのでな。

 ペン先は18C-OBで1960年代のニブに間違いはない。この時代のニブは鋼(はがね)のように強い弾力を持っており少々力を加えてもビクともしない。非常に剛性の高いニブで、柔らかさとは対極にあるモデルじゃ。

 しかし硬いから書き味が悪いということはなく、絶妙のインクフローが醸し出す筆記感は、改めて【ヘビーライター向け萬年筆:No.149】を思い出させてくれる。70年代以降のNo.149は軟派であり【ヘビーライター向け】とは言えない、いや呼びたくない!


2007-08-15 04 この固体は上から見ても、横顔を見ても、ペン先とペン芯がずれているとは見えない。スリットが詰まっている事、ペン芯が前過ぎることを除けば特に違和感はない。

 実際に書いてみても、インクフローの悪さ以外は問題はない。ひっかかりもないし、キャップのボディへの挿さり具合も良い。

2007-08-15 05 しかしペン芯側から見ると確かに0.2ミリほどずれているのが見て取れる。美観を重んじる人にとっては、ペン先のスリットがペン芯の真ん中の部分に来ていないと気になって仕方がない。

 1970年代以降のモデルならば改造フォークでピストン機構を外してすぐに直せるが、1960年代では専用工具を持っている人に頼るしかないのじゃ。


2007-08-15 06 まずはペン先のチェック。やはりスリットはガチガチに詰まっており、相当筆圧をかけないと満足にインクは出ないであろう。また首軸内部に隠れたペン先の根本にもインク滓が付着している。これはロットリング洗浄液につければすぐに落ちる。

 プラチナ鍍金はほとんど消えかかっているが、内側から金・銀・金の構成になっている。胴体に銀色の部分が無い場合、ペン先に銀色があるバイカラーニブのは違和感を覚えていた。実際バイカラーを嫌い、金一色に鍍金していたころもあったが、最近では製品が生まれた時の状況を受け入れる事が出来るようになった。すこしは悟りの境地に近づいたのかもしれん。

2007-08-15 07 裏側のエボ焼けは驚くほど少ない。以前にも説明したが、この画像で黒くなっている部分はエボナイトと接していた部分ではなく、空気と接していた部分。エボナイトから放出される硫黄分が空気中の酸素の影響で硫化し、そのガスが金を黒く変色させているのかな?

2007-08-15 08 こちらが綺麗に清掃し、スリットを拡げて完璧な状態にしたニブ。この隙間を拡げるのに非常に苦労した。指先の力ではビクともせず、ツボ押し棒でペン先の根本やエラの部分を押し、はてはスキマゲージでゴリゴリとスリットを拡げた。そこまでしてもこの程度拡げるのがやっと。ものすごく硬いニブなのじゃ。

2007-08-15 09 こちらが首軸に取り付けた状態のペン先。美しい!ペン先の拡大画像、特に、No.149の拡大画像は実に美しい!

 拙者はNo.149よりもNo.146の方が、しかも1980年代No.146の筆記バランスが一番好きだが、観賞用としては断然No.149じゃ。

2007-08-15 10 ペン芯の位置もパーフェクト!ということで、8月12日の交流会で持ち主の手にわたった!

 持ち主もペン芯の位置に満足し、それではと別の話題に入ろうとした直後、拙者と依頼者の動きがアンバランスになり、拙者の手が依頼者の手に持ったNo.149に空手チョップをお見舞いした。あわれNo.149はペン先を出したまま空中を跳び、運動神経の鈍い拙者と依頼者の空振りする手の間をすり抜けて床に落下!

2007-08-15 11 床はカーペット敷きなので大丈夫だろうと考えていたが、左画像上段右端のように、見事に曲がってしまった。拙者の3桁近い体重をかけてもなかなか曲がらないペン先が、イリジウム側から落下するといとも簡単に曲がってしまった・・・

 実はこの曲がった状態の書き味は非常に良かった。もちろん猫背になっているのでペン先は詰まり、インクフローは元の木阿弥だったのだが、コンコルドなったペン先は絶妙の筆記感!書き味重視派向けならこのままでも良かったのだが、依頼者は拙者と同じく【面食い】じゃ。そこで、元通り・・・というか、さらにインクフローを良くするように直したのが下段の画像。

 前の調整よりもさらに完璧な書き味になった。調整という物は時間をかけるほど、調整回数を増やすほど良くなる。どんなに上手な調整師の手を経ていようとも、それを調整すればさらに書き味は良くなる。後出しじゃんけんのようなもので腕の差ではないのじゃ。


【 今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.0h 調整2.0h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間


これまでの調整記事

2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
2007-05-30   Pelikan 400 灰茶 14C-F 
2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理
2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
2007-03-28   Montblanc 80年代 No.146 14K-M
2007-03-26   Pelikan M250 14C-B
2007-03-23   Montblanc No.146 曲がり 18C-M
2007-03-21   Montblanc 50年代 No.149 14C-EF
2007-03-19   Pelikan 400NN 14C-ST
2007-03-16   Pelikan 500N 茶縞 14C-M 
2007-03-14   Parker Sonnet 鍍金ペン 

2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M
2007-02-28   Pelikan 400 茶縞 14C-F
2007-02-26   Omas D-Day 18C-B
2007-02-23   Montblanc No.256 14C-KOB
2007-02-21   Pelikan 140 黒軸 14C-ST 
2007-02-19   Montblanc No.149 14K-M
2007-02-16   Pelikan 140 緑縞 14C-KF
2007-02-14   Montblanc No.142 14K-KM
2007-02-12   Sheaffer インペリアル・ソボリン 14K-M
2007-02-09   Montblanc No.149 14C-M
2007-02-07   Pelikan M710 トレド 18C-EF バイカラー
2007-02-05   Montblanc No.146 14K-EF 遠隔調整
2007-02-02   Pelikan M1000 緑縞 18C-3B
2007-01-31   Montblanc No.146G 14C-KM
2007-01-29   Delta 366 M 
2007-01-26   2006年最高調整【自分用】 
2007-01-24   Pelikan M200 ダークブルー 母の遺品 
2007-01-22   Waterman ル・マン 200 
2007-01-19   Montblanc No.149 ピストンガイド交換 その2      
2007-01-17   Pelikan 100N OM 
2007-01-15   プラチナ 蒔絵 
2007-01-12   Parker Duofold クロワゾネ
2007-01-10   Faber-Castell スネークウッド M 
2007-01-05   Montblanc ボエム アメジスト OB 
2007-01-05   Pelikan アテネ B 
2007-01-03   Montblanc No.254 OB

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(10) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
ポンちゃん

了解です。おまちしてます。
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月22日 20:12
5
b787さん、試筆大歓迎です。
裏例会は残念ながら出られないので、次回定例会の時にでも。
師匠、上記の通りですので、申し訳ありませんが9日までお預かり
宜しく御願いいたします。早く見たいのですが、すいません!
らすとるむさん、空手チョップのお手伝いは御勘弁を(笑)
その代わりといっては何ですが、次回定例会にはファルカン改造用
生贄を持参しますので何卒宜しく御願いいたします!
Posted by ポンちゃん at 2007年08月22日 13:47
b787しゃん

とりあえず、調整は終了しております・・・いまだ無傷ですが・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月21日 22:49
5
あの見事なカーブは、師匠の計算された力加減と、神のご意思(偶然)が合わさったもの、と考えておりました。調整上の「空手チョップ」ですか。生け贄として捧げておりますゆえ、如何様にもとも思いますけど、…(-_-;)。
師匠は「神の手」をお持ちですし、それに加え、大魔王さんの「魔手チョップ」が加わると、想像を絶するものが、と震えてしまいます。見事なカーブと、悩ましいクビレが一体となって…、ああ怖い。
Chronoswissの1番の特徴と思われる、ニブのロゴが見えなくなってしまうのでは〜。
今回はご勘弁をッ、生け贄は又見つけてきますゆえ〜!
Posted by b787 at 2007年08月21日 10:38
らすとるむしゃん
万年筆の方じゃ・・・9月29日に登場じゃ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月19日 20:53
師匠。

それは・・・時計ですか?万年筆の方ですか?
いずれにせよ私も空手チョップのお手伝いがしたい!!
Posted by らすとるむ at 2007年08月19日 20:04
b787しゃん

そうなんじゃ、なかなか綺麗なカーブじゃった。
なんならCronoswissにも空手チョップを・・・?
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月19日 19:26
5
私も空手チョップの現場に居合わせ、自分の反応スピードの衰えを嘆いておりました。
しかし見事にきれいなカーブになっておりました。あれはあれでとてもきれいに感じましたが。
でも以前よりさらに良い感じになったとの事。羨ましく感じます。
ポンちゃんさん、機会がありましたら、私にも試筆させてくださいね。
Posted by b787 at 2007年08月19日 09:00
これは大きなイリジウムなので、まだまだ削る余地はいっぱいあるますぞ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月16日 07:48
5
とても面倒な調整だったようで、大変恐縮しております。
あの時、うまくキャッチ出来ていたら、再度お手を煩わせる
事もなかったのですが。。。むしろ、僕が落下速度を加速させて
しまった気も。本当にすいませんでした。

ともあれ、一度徹底的に調整され、ポテンシャルを全て引き出された
149を使ってみたい。そして、その使用感を自分の感覚の
基準にしたい!という夢がやっと叶い、本当に感謝しております。
次回の例会が楽しみです!ありがとうございました!!
Posted by ポンちゃん at 2007年08月15日 22:38