今回の依頼品も1960年代のMontblanc No.149。壊れやすくてあまり世の中に残ってないモデルであるが、修理・調整依頼が来るときには、続けて出会う事が多い。不思議!
1960年代モデルのピストン機構は、1970年代以降のねじ込み式とちがって、押し込み式。摩擦力で胴軸に固定されているだけ。従ってなんらかの拍子で胴軸が膨張気味の時に、ピストンを力一杯に下げると・・・
左画像のように、ピストン機構が胴軸から浮いてしまう。単に押し込めば良いのじゃが、かなり軸に入っている段階では初動の摩擦力が大きくて動かない事がある。
やはり一度ピストン機構を抜き去ってから再度一気に押し込んだ方がきちんと下まで入る。
その為には専用の工具が必要となる。それを持っていなかった頃は、軸を暖めてから、尻軸を力一杯引っ張って外そうとしていた。そういう急な力をかけるのは厳禁であり、少しずつ均等な力で引っ張るような器具を使うのが正解じゃ。
ペン先は18Cで傾斜が鈍角なもの。この当時の素材はガチガチに硬い弾力の物が多い。いわば・・・鋼のように硬い18Cニブ・・・とでも言おうか。
同じ1960年代のボディにつく18Cのニブでも8月15日に紹介した物とは形状が全く違うようじゃな。
開高健モデルを使ったあとでこのモデルを使うと、このニブの豪腕ぶりがよくわかる。同様のニブはこの後の1970年代の軸についているケースも多い。BBやBBBの場合には、この豪腕ぶりがかえって心地よく、拙者も見かければ入手するようにしている。1970年代の軸についている場合だけじゃがな。
最初にセットされていた位置は左の通り。拙者の好みの位置関係だが、この固体では多少グラグラする。このペン芯とペン先との位置関係のままで数ミリほど軸につっこむ必要があろう。
この作業も、一度ペン先とペン芯を抜き取ってから、改めて挿した方が良い。
実はこの固体のピストンの軸にはヒビが入っていた。そこで道具箱にあったピストン軸を移植しておいた。尻軸が浮き上がるほどピストンを回した際に、ピキっとヒビが入っていたのであろう。万年筆に力ずくは禁物じゃな。
左は拙者が清掃した後の画像。もちろんピカピカであるが、清掃前もそれほど汚れてはいなかった。ロットリング洗浄液などで徹底的に洗浄した後でペンクリに持ち込んでくれたのかな?まさか外して清掃してから持ち込んだのではなかろうし・・・
拙者のペンクリではペン先を外して調整を行うので、インクを抜き水を入れた状態の持ち込んでいただくのが最も好ましいのでよろしく。
ペン先の裏側にも酷いエボ焼けの痕跡は見あたらない。少々清掃しても酷いエボ焼けは完全には除去できないが、この固体では金磨き布でスリスリしただけで綺麗になった。どうやらどこかで調整に出た経験があるのではないか?しかも拙者と同じく完全分解して、エボ焼けも除去しないと気が済まない人の調整をうけていたのかも?
エボナイト製ペン芯の時代も軸やペン先と同一で、破綻はない。この斜面にある2本の溝にどういう意味があるのかと、WAGNER会員の中で問題提起された事がある。
機能的にはあまり意味がないとは思うが、装飾的には実に良い!
こちらが軸にセットした状態じゃ。書き癖やインクフローの好みを知っている人ならば、もう少しスリットを拡大したのであるが、インクフローが悪いのが好みの人もいるので、今回はスリットは若干ゆるめにするにとどめた。
これまで利用者の見えない調整も何件か手がけてきたが、この事例を最後に、本人以外の調整は引き受けないこととする。利用者の顔が見えないと・・・楽しくないのじゃ。生贄との戯れは楽しみであって義務ではない。
【どうにでもして!】という生贄は大歓迎じゃが、本人がWAGNER会場に参加するか、遠隔調整(画像付き)以外の調整は当面、お休みとする。利用者と喜びは直接わかちあいたいからな・・・
【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1.0h 調整0.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間