今回の依頼品は奇妙な形状をしている。Montblanc No.252のキャップが付いているが、胴体はNo.342の後期の物。
実はずっと前にMontblancの修理を一手に引き受けていたN氏がお孫さんの為にアセンブルして作った物じゃ。No.252は挿込式キャップで、No.342は回転式キャップなので本来なら不適合のはずだが、たまたまは嵌ったということらしい。
愛用していたが、左図のようにペン先をひどく曲げてしまったようで、関西地区大会の際に依頼を受けた。最初に見たときには【ドヒャー】と思った。【これは難しいぞ・・・】
拡大してみるとこういう形状になっている。ペン先から何かに衝突したように曲がっている。原因は聞かなかったが・・・・
No.342程度の軽い萬年筆では、ペン先から落下しても(ペンポイントが飛ぶことはあっても)酷くは曲がらない。蜘蛛が高所から地面に落ちても潰れたりはしないようなもので、軽い萬年筆は被害が少ないはず・・・不思議じゃ・・・
しばらく考えてわかった!キャップのせいじゃ!キャップはNo.342よりも高級ラインのNo.252用を使っている。挿込式なので回転式と違って金属のバネ板などが入っており、かなり重くなっている。
その重さを背負ったままペン先から床に激突して曲がってしまったのであろう。人間も注意しなければ・・・分不相応に着飾っているとスリに合うかも・・・
拙者も分不相応な脂肪を背負って生きているので気をつけよう!少し落下しただけで足首を骨折したからな・・・
こちらはペン先を外した時点の画像。これを見たときには【うまくいくのではないか】と少し安心した。
No.342のペン先は想像していたよりも素材が柔らかい。もう少し剛性が強かったと考えていたが・・・
従ってツボ押し棒の側面で曲がった背を伸ばしてあげれば一応はまっすぐになる。ただしその段階では多少の波打ち現象が出ているので、上面をサンドペーパーで削って波打ちを目立たなくする。
しかる後に金磨き布に擦りつけて、削り後を見えなくしてしまうのじゃ。そこから先は通常の調整と同様で、ペン先を筆記角度に合わせて研磨し・・・
し、しまった!筆記角度を聞くのを忘れていた!
しかし持ち方は若い娘にありがちな【どらえもん持ち】ではなかった。さすが【萬年筆職人&書の達人】の孫娘じゃ!
ということで、普通に持って筆記した場合に筆のように書ける柔らかい調整を施しておいた。このNo.342のペン先は元々剛性が少なく柔らかかったが、ペン先の表面を研磨したため、さらに柔らかい書き味になった。
さて使いこなせるかな?と挑戦的に考えているうちに、この萬年筆をよりおもしろい物に変えてみたくなった。
萬年筆の横顔は拙者がMontblancにいつも施しているのと同じ調整。ペン芯を一番横顔が綺麗な状態にまで下げた。これを見るとペンポイントの根本あたりとペン芯に乗っているあたりの金の厚さがかなり違うのがわかろう。
元々この個体にかなり差があったのに加えて波打ち直しに多少表面を削ったのでますます薄くなり・・・結果として柔らかい書き味になった。
二十歳そこそこの若い女性の持つ萬年筆ゆえ、多少オシャレにしてみたい・・・
部品箱の中をあさっていたら、No.342の胴体と同じ時代の赤キャップが出てきた・・・
よし【赤と黒】じゃ!ということで、擦り傷だらけの赤キャップをプラスティック磨き布で磨いて、ピカピカの赤キャップを作りそれを装填した。
ネジのピッチもピッタリで非常におしゃれな【No.342 赤と黒】ができあがった!今回は総合的に大成功じゃ!
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 調整1.5h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間