2007年08月29日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 】

2007-08-29 01 今回の依頼品はMontblancのヘマタイトを使ったソリテール。総ステンレスのNo.146のシリーズの派生モデルじゃ。

 ヘマタイトというのは、
ここ ここ に述べられているように赤鉄鉱であり、パワーストーンとしてネックレスなどに使われているらしい。

 【肉体労働者の疲れを癒す】効果があるそうな・・・それにしては高価な万年筆じゃな。

 依頼者の話では、【まだ万年筆に興味がないころの頂き物】で、掃除していたらひょっこり出てきたらしい。そのままの状態で定例会に持ち込んだとか。

2007-08-29 02 拙者のBlogを熟読しているだけあって、インクをつけて書いてもいないのに、【インクがドバドバ出るようにしてください】と・・・

 たしかにスリットは詰まっているが、ガチガチに詰まっているというわけではない。ただしF(あるいはEF)なのでインクフローは絞ってあり、そのあたりが調整ポイントじゃ。

2007-08-29 03 この時代はプラスティック製ペン芯で、その場合、ペン芯にペン先をセットする位置は決まっている。ペン芯を後ろに下げるという事が出来ない。やるとペン先が非常に不安定になってしまう。

 ペン芯上にペン先ストッパーの突起物があるので、どうしてもその位置にセットせざるを得
ない。

 最近のMontblancはペン芯をかなり前まで出している。そうするとペンを寝かせて書く場合、ペン芯の先端を紙に擦ってしまうことがある。それを防ぐ為に、ペン芯先端の下側を面取りしてあるのじゃ。非常によく考えられたように見えるペン芯だが、セーラーやPelikanと比べるとインクフローはいまいち・・・。空気の通行量が少ないせいだと考えられる。

2007-08-29 04 こちらはペン先横顔の拡大図。Montblancの細字は小さなペンポイントで細字を演出するのではなく、大きくて薄い円盤を横にピッタリと併せてならべ、紙に円周上の一点が当たるようにして細字を演出している。大きなペンポイントでも接紙面積を小さくしているのじゃ。

 この細字の演出は万年筆としては非常に耐久性があるが、真の細字は体験できない。1970年代のNo.3xxシリーズに登場した細字演出方式だが拙者は大嫌い・・・というか大の苦手・・・まともに調整できた試しがない。今回もほとんどペンポイントの研磨をしないことにした。

2007-08-29 05 ペン先を首軸から外してみると、立派な?コストカット穴・・・プラスティック製ペン芯にはコストカット穴ペン先が付き物じゃ。ニブの左端の【】型にえぐれた部分がストッパーで、この形と同じ形状の出っぱりがペン芯上にあり、ここがピッタリと合わさらないとペン先が安定しない構造になっている。

 スリットの形状を見ると、いったんスリットを入れた状態からペン先を(上画像では)上下に丸めるように絞り、スリットを先端で狭くなるようにしている。

2007-08-29 06 従ってエラを拡げるように、すれば左画像のとおりスリットが開く。こうすればインクフローは格段に良くなる。何よりも書き出しで力を入れなくともインクが紙につく。このことが一番大事。

 万年筆になれくるほど書き出しの筆圧が下がる。そうすると書き出しで掠れる確率が大きくなり、ストレスも増してしまう。万年筆を使えば使うほどストレスが増して万年筆が嫌いになってしまうジレンマ・・・

 それを解消するにはスリット拡張が一番じゃ。インクフローが増せば筆圧が下がり、気持ちよく書けるようになる。これを教えてくれたのはセーラーの川口さんじゃ。

2007-08-29 07 軸にセットしてもスリットは開いたまま。前の画像と比較するとわかるが、ペン先先端に向かってカモノハシのくちばしのように形状が変わっている。そう、ペンポイントの研磨をしないかわりに、カモノハシ調整を施して多少でも書き味が柔らかくなるように調整したのじゃ。

 最近のMontblancはペン先の形状は以前とは比べものにならないほど美しい。形状ははるかに進歩している。

 ただし問題の書き味には神経が注がれていない。【書き味は利用者が育てるもの】と割り切っているのかもしれない。

 しかし数本の万年筆を交互に使い、そもそも筆記量がそう多くない人に取っては、一生使っても書き味が最高にはならないような形状なのじゃ。


 やはりある程度は自分で研磨してでも書き味を調整しないと至福の時は体験できまい。

 さぁ・・・思い切ってやりなされ。失敗しても万年筆はいくらでも売っている!まずはペン先だけでも買えるペン先ユニット式の万年筆がよかろう。PelikanかAuroraはいかがかな? 鉄ペンで練習・・・なんてのはナンセンス。鉄ペンでの調整と金ペンでの調整は別物。

 拙者のBlogを隅々まで読めばイメージが沸いてこよう。


【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 調整1h 執筆1h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


これまでの調整記事

2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
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2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
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2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
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2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
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2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
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2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
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2007-03-30   Pelikan M800 螺鈿 18C-B
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2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
syokubutsuen99しゃん

拙者の苦手な時代の調整はおまかせしましたぞ!
Posted by pelikan_1931 at 2007年08月31日 06:08
万年筆になれくるほど書き出しの筆圧が下がる。インクフローが増せば筆圧が下がり、気持ちよく書けるようになる。
なるほどこの理屈は納得。筆圧が下がれば見かけ上のペン先剛性が上がる、従ってスリットは広げる方向、ということなのでしょう。
最近細字のペン先の剛性に興味を持っています。縦に線を引くときと横に線を引くとき時とは、切り割りがある以上明らかに剛性が異なる。このあたりがガリ感との関連がありそうに思います。研究課題はいっぱいあります。
それにしても最近の師匠の記事は気合が入っていますね。ヒントがいっぱいです。
Posted by syokubutsuen99 at 2007年08月31日 00:21