今回の依頼品はMontblancのヘマタイトを使ったソリテール。総ステンレスのNo.146のシリーズの派生モデルじゃ。
ヘマタイトというのは、 ここ や ここ に述べられているように赤鉄鉱であり、パワーストーンとしてネックレスなどに使われているらしい。
【肉体労働者の疲れを癒す】効果があるそうな・・・それにしては高価な万年筆じゃな。
依頼者の話では、【まだ万年筆に興味がないころの頂き物】で、掃除していたらひょっこり出てきたらしい。そのままの状態で定例会に持ち込んだとか。
拙者のBlogを熟読しているだけあって、インクをつけて書いてもいないのに、【インクがドバドバ出るようにしてください】と・・・
たしかにスリットは詰まっているが、ガチガチに詰まっているというわけではない。ただしF(あるいはEF)なのでインクフローは絞ってあり、そのあたりが調整ポイントじゃ。
この時代はプラスティック製ペン芯で、その場合、ペン芯にペン先をセットする位置は決まっている。ペン芯を後ろに下げるという事が出来ない。やるとペン先が非常に不安定になってしまう。
ペン芯上にペン先ストッパーの突起物があるので、どうしてもその位置にセットせざるを得ない。
最近のMontblancはペン芯をかなり前まで出している。そうするとペンを寝かせて書く場合、ペン芯の先端を紙に擦ってしまうことがある。それを防ぐ為に、ペン芯先端の下側を面取りしてあるのじゃ。非常によく考えられたように見えるペン芯だが、セーラーやPelikanと比べるとインクフローはいまいち・・・。空気の通行量が少ないせいだと考えられる。
こちらはペン先横顔の拡大図。Montblancの細字は小さなペンポイントで細字を演出するのではなく、大きくて薄い円盤を横にピッタリと併せてならべ、紙に円周上の一点が当たるようにして細字を演出している。大きなペンポイントでも接紙面積を小さくしているのじゃ。
この細字の演出は万年筆としては非常に耐久性があるが、真の細字は体験できない。1970年代のNo.3xxシリーズに登場した細字演出方式だが拙者は大嫌い・・・というか大の苦手・・・まともに調整できた試しがない。今回もほとんどペンポイントの研磨をしないことにした。
ペン先を首軸から外してみると、立派な?コストカット穴・・・プラスティック製ペン芯にはコストカット穴ペン先が付き物じゃ。ニブの左端の【>】型にえぐれた部分がストッパーで、この形と同じ形状の出っぱりがペン芯上にあり、ここがピッタリと合わさらないとペン先が安定しない構造になっている。
スリットの形状を見ると、いったんスリットを入れた状態からペン先を(上画像では)上下に丸めるように絞り、スリットを先端で狭くなるようにしている。
従ってエラを拡げるように、すれば左画像のとおりスリットが開く。こうすればインクフローは格段に良くなる。何よりも書き出しで力を入れなくともインクが紙につく。このことが一番大事。
万年筆になれくるほど書き出しの筆圧が下がる。そうすると書き出しで掠れる確率が大きくなり、ストレスも増してしまう。万年筆を使えば使うほどストレスが増して万年筆が嫌いになってしまうジレンマ・・・
それを解消するにはスリット拡張が一番じゃ。インクフローが増せば筆圧が下がり、気持ちよく書けるようになる。これを教えてくれたのはセーラーの川口さんじゃ。
軸にセットしてもスリットは開いたまま。前の画像と比較するとわかるが、ペン先先端に向かってカモノハシのくちばしのように形状が変わっている。そう、ペンポイントの研磨をしないかわりに、カモノハシ調整を施して多少でも書き味が柔らかくなるように調整したのじゃ。
最近のMontblancはペン先の形状は以前とは比べものにならないほど美しい。形状ははるかに進歩している。
ただし問題の書き味には神経が注がれていない。【書き味は利用者が育てるもの】と割り切っているのかもしれない。
しかし数本の万年筆を交互に使い、そもそも筆記量がそう多くない人に取っては、一生使っても書き味が最高にはならないような形状なのじゃ。
やはりある程度は自分で研磨してでも書き味を調整しないと至福の時は体験できまい。
さぁ・・・思い切ってやりなされ。失敗しても万年筆はいくらでも売っている!まずはペン先だけでも買えるペン先ユニット式の万年筆がよかろう。PelikanかAuroraはいかがかな? 鉄ペンで練習・・・なんてのはナンセンス。鉄ペンでの調整と金ペンでの調整は別物。
拙者のBlogを隅々まで読めばイメージが沸いてこよう。
【 今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 調整1h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間