これは1980年ごろのNo.146。No.146もNo.149もチョロチョロと微細なモデルチェンジがあり、その度に書き味が大きく変化しているので非常におもしろい。
最もおもしろいのはMとB。EFやFだとペン先の研ぎによる変化の方が大きいし、BBになると時代に関係なく同じような書き味になってしまう。筆記よりも時代考証が望みならば【M】での比較が良かろう。数も出ているので集めやすい。
このモデルでは14Cのニブを装填している。首軸先端はヘミングウェイと同じ無骨なユニット。もっとも、ヘミングウェイは1990年代の発売なので、このタイプ首軸がヘミングウェイに引き継がれたといった方が良かろう。
拙者はこのタイプの首軸のNo.146を見つけると、つい手が伸びそうになる。これに弱いんじゃ・・・
こいつの問題はペン先が曲がっている事。あまりに目立たないので依頼者も気付いていなかったと思われる。依頼内容は【書き味向上】というだけだった。
ペン先曲がりの修理画像は、過去の画像を参考にされたし。スキマゲージの上でペン先を竹製割り箸の先端で擦るようにして曲げを矯正するのじゃ。
何度もルーペで確認しながら少しずつ・・・ 拙者は慣れているので、一挙にぐぅわっと曲げるが、よい子は真似をしないように!
調整前の横顔。販売されているものとしては一般的なペン芯とペン先との関係だが、拙者の趣味は、もう少しペン芯が後退している方が・・・
とにかく、ペン先を上から見たときにペン芯がはみ出して見えるような状態にはしたくないというのがペン芯を後退させる最大の理由じゃ。
ペンポイントを見るとかなり急角度に切れ上がっている。これは前の持ち主が非常に筆圧が高く、筆記角度に合わせて極度に摩耗しているため。それに加えてペン先先端が曲がっていれば書き味は悪くて当然!
左はソケットから外したペン先画像。コストカット穴のないペン先は実に美しい。首軸内部の部分にもエボ焼けはほとんど無く、インク滓が多少付いている程度。
おそらく、かなり頻繁にペン先を清掃していたと思われる。金磨き布とはいかないまでも、なんらかのポリッシャーを使ってこすり取るような清掃だろう。かなりきれい好きな所有者であったと思われる。
一方で清掃できないペン先の裏には若干のエボ焼けが残っている。こちらは清掃しようにも出来なかった・・・あるいはエボ焼けが出来ることを知らなかったのだろう。
古い万年筆にしては、ペンポイント以外は驚くほど綺麗。軸に傷もほとんど無い。ペンポイントの画像と併せて考えると、一本の万年筆を徹底的に使い込んだ人が、ペン先曲がりによる書き味の劣化に耐えきれず手放したのであろう。
ペン先を見ていると、所有者の人となりまで想像できる。実におもしろい。
こちらはペン先を清掃し、ペン先の曲がりを直し、スリットを開いてインクフローが良くなるように調整したもの。
EFのペン先の場合は、ペン先を軸に装着してからペン先調整するべき。ペン芯のほんの少しのアンバランスでもペンポイントはかなりの段差になってしまう。そうなると、外した段階で調整したペンポイントを再度曲げたり伸ばしたりをペン芯の上でやることになる。それでは調整はめちゃくちゃ狂ってしまう。
こちらはペン先調整が終了した状態。尖って針のようなペンポイントを細字スタブの書き味に変えた。太字のスタブには抵抗を示す人は多いが、細字の場合、ほとんどの人が気付かない。
実は細字はスタブに研いだ方が美しい線(字ではなく線)を引く事が出来る。従って独逸では細字はスタブ研ぎが標準で、どうしても線巾の変化がイヤダ!という人用にクーゲルを出したのではないか?と想像している。根拠はない。
こちらが調整後の横顔。槍の先のように尖っていたペンポイント先端の上側は丸く研いだ。
これによって横線が多少細くなるのと、裏返してもスムーズに書けるようになる。通常に書くとスタブのFくらいで、裏返すとEFの字巾になる。
インクフローを良くすると、字巾は一段階太字側に振れるが、元の字巾を裏側で実現するわけじゃ。
ひっくり返して書くとペン先を傷めるのでは?と心配する人もいるが、よほど筆圧が強くて、一本の万年筆だけを使い続けるのならともかく、このblogを読んでいるような人は心配ご無用。
多数の万年筆を使い分けている人は、字巾もインクも何種類かの組み合わせを持っているはず。それだけ使用する万年筆が分散していれば、痛めるほど摩耗することはない。心配無用じゃ!
【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 調整1.5h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間