2007年09月12日

水曜日の調整報告 【 Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 】

2007-09-12 01 今回も1950年代のNo.146。最近、このコーナーではNo.149よりも取り上げられる頻度が多いなぁ。

 キャップリングが曲がっているが、これはキャップの素材であるセルロイドが痩せた為じゃ。特に処置を施していなければリングはクルクルと回ってしまう。

 Vintage Montblancの熱狂的なファンは【このクルクルがカワイイ】と愛でる人が多い。悩んでもどうしようもならないなら、逆にそれを好きになってしまおうという逆転の発想かな?

 拙者は心が狭いので、このクルクルが嫌い。従って自分のNo.146には【アロンゆるみ止め】別名【ネジやま救助隊】でリングを胴体に固定している。

 この【アロンゆるみ止め】は元々は眼鏡のネジの緩み止めとして有名になった。空気に触れていると固まらず、空気が遮断されると固まるという性格を持っているらしい。ただしチューブの中に入っている段階では空気が無くても固まらない・・・不思議じゃ。

2007-09-12 02 例によってスリットは詰まりすぎているが、ペン先はベストのポジション!これは拙者好みの位置とほとんど同じ!そういう事例を見るのは嬉しいものじゃ。

 それにしても首軸先端のカーブといい、エラの一番張った部分からペンポイントまでの斜面のカーブといい、この当時のMontblancは実に美しい。

2007-09-12 03 こちらが横顔。このような薄いペン芯のファンは多い。機能的には厚いペン芯の方が優れているのだが、調整師はお湯に浸けての調整のしやすさからこちらを好む人が多い。【エボナイト製ペン芯は素直でかわいいんです。お湯に入れるととたんによい子になるんですよ】とおっしゃったのが印象的だった。ただし厚いペン芯はそう素直ではない・・・

2007-09-12 04 裏から見ると良くわかるが、この薄いペン芯にはフィンが無い。従って胴体内部の空気が膨張してインクがペン芯まで出てくると、比較的早い段階でボタ落ちする。厚いペン芯はフィン付きなのでインク保持力が大きいのでボタ落ち確率は極端に減る。

 しかし薄いペン芯の方が、インクがタンクからペン先まで直結しているようで気持ちよいという人もいる。【フィンという貯水池/ダムで一度せき止めたインクをチョビチョビと出しながら筆記するのでは物足りない。台風時の濁流のようなインクフローが良い・・・】とか。

2007-09-12 05 こちらはペン芯から外した状態のペン先。エボ焼けが全くないということは、前の持ち主は分解掃除してから出荷したと思われる。もうプロの領域じゃな。

 エボ焼けを残したままではインクフローが悪いということは(アマの自己流も含めた)調整師の間では常識になりつつあるようだ。拙者は実はエボ焼けは大好き。その方が飴色で美しい!ただし実際にインクを入れて筆記に使う場合にはエボ焼けを泣く泣く除去している。

2007-09-12 06 こちらが裏側。こちらにもエボ焼けはない。根元に【356】という数字が刻印されている。拙者はこれを製造ロット番号、あるいは製造装置の番号とにらんでいる。

 もし拙者が当時のMontblanc社の品質管理担当だったら、市場クレームと製造装置や製造ロットとの関連を一番知りたいのでな。

2007-09-12 07 こちらがスリットを拡げて調整を施したペン先。当然ペン先全体もプラチナ鍍金の部分を避けて徹底的に金磨き布で擦っている。

 スキャナーに置く角度を調整すれば、かくも美しい画像が得られる。まるでアンセル・アダムスディアドルフで撮影した風景写真のような精細度じゃ。

2007-09-12 08 こちらが首軸に取り付けた状態の画像。スリットが黒くなっているところまでペン芯があると見ればペン先とスリットとの位置関係がわかろう。拙者はこの位置±0.1ミリ程度が好み。

 ペン先を取り付けてから斜面を金磨き布で磨いていると、何故かスリットが多少内側に寄ってくる。この寄りを計算してペン先だけの時にスリットを拡げる量を調整する・・・なんてことはしない。安心されよ!

 スリットを大きく開くにはペン芯を外さないと無理だが、スリットの細かい寄せや開きはペン芯に乗せてからの方がやりやすい。

2007-09-12 09 超拡大してみると、この程度のスリットの開き具合が理想。Bならもっとだらしないほど開いた方が気持ちよいが、Mならこの程度が美しいし、書き味も良い。

 これにインクを入れて、紙の上にふぅわっとペンポイントを置いた時の得も言われぬ感触を表現する語彙を持ち合わせないのが残念じゃ。【ちゃんと調整された】1950年代No.146は【神の創りたもうた萬年筆】といっても良かろう。

2007-09-12 10 実はこのペンポイントには多少上下のズレがあったうえに、依頼者の筆記角度とまったく合っていなかった。

 そこで依頼者の筆記角度でサンドペーパーの上で字を書き、一度ペンポイントを斜めに削ってから丸めていく。プロの調整師は専用機械で【チャーチャー】とやれば数秒で角度が出せる・・・見事じゃ。

 【最大多数の最大幸福】・・・これがペンクリをするプロの心境を表した言葉・・・かな?一日に何人の人を気持ちよくできるかの勝負じゃ。

 一方、拙者はアマチュアなので、1人でどのくらいの時間楽しめるか?が基準!本数ではなく、修理に時間がかかりそうなものほどカワイイ!


【 今回執筆時間:4時間 】 画像準備1.5h 調整1.5h 執筆1h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


これまでの調整記事

2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
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2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
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2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
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2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
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2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
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2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
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2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
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2007-03-12   Montblanc 60年代 No.149  14C-KBBB  
2007-03-09   Pelikan M800 18C-F
2007-03-07   Pelikan 400NN 緑縞 14C-BBB
2007-03-05   鍍金三昧
2007-03-02   Pelikan M800 14C-M


Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
しまみゅーらしゃん

【アロンゆるみ止め】は隙間に行き渡るように塗ったら余った液をティッシュで拭き取ることが出来ます。空気があるところでは単なる液体です。
でもリングと軸の間などの空気が無い部分が乾いてくっつく仕組みらしいです。
なにか水分を与えると乾くというか堅くなる漆みたいでおもしろいんですな。
Posted by pelikan_1931 at 2007年09月12日 22:05
 私の持っている#3776セルロイドも、買った直後にクルクルになりました。私もクルクルを愛でようかとも思いましたが…私も、心が狭いようで(笑)。

 私は、セメダイン・スーパーXという「超多用途」接着剤で固定しました。今のところ問題は起きてません。

 アロン・ゆるみ止めも今度試してみようかな。
Posted by しまみゅーら at 2007年09月12日 17:52