万年筆評価の部屋:土曜日の調整報告　【 Senator President 14C-B 交換後】

　Pelikan ナイアガラの例と同じく、このSenator Presidentも交換したものじゃ。すなわちペンクリに持ち込まれた時に、たまたま拙者が十分に調整された同じニブ付きのモデルを所持していた。

　【これと同じ調整にしてくらはい・・・】　という依頼者に対して、
　【面倒だから、これと交換じゃ】　といって人質交換したもの。

　拙者はペン先調整が趣味なので、未調整の萬年筆に飢えている。特に太字はすぐに調整が終わってしまうので、生贄は何本でも欲しい。

　調整はコンスタントにやっていないとすぐに腕が落ちてしまう。そして同じ事を繰り返しやっている方が上達も早い。

　改造や修理は別で、インスピレーションが必要。ただそのインスピレーションも数をこなしていないとピン！と来ないものじゃ。

　そういう意味で人質交換は最も好ましい。ペンクリ時間内により多くの人の萬年筆を調整出来る余裕が出来るし、後でもじっくりと楽しめるからな。

　依頼品を見てみると、綺麗にエボ焼けしている。そう、このSenator Presidentはエボナイト製ペン芯なのじゃ。

　見るとわかるように、ペン先の首軸への押し込み具合、ペン先のスリットの状態ともパーフェクト。メーカーはPelikan 400NNの復刻版を作った会社。

　横顔を見てもペン芯の位置は完璧。それにしてもよく考えて作られたエボナイト製ペン芯じゃ。1950年代Montblancのペン芯と比べてみると、インク保持力が数段上！

　このSenatorは一般売りはされてなくて、企業のノベルティ用などの大量販売向けに作られているらしい。拙者はこれに惚れ込んでいるので【WAGNER 2010】の限定萬年筆候補筆頭に考えていたのじゃが、色よい返事はもらえない・・・というかレスポンスが無い。こりゃダメだ・・・【WAGNER 2008】も【WAGNER 2009】もメーカーの反応は鈍い。全て販売店通しで購入すると言っているのだが・・・どうやら拙者の熱意はまだまだ伝わっていないようじゃ。

　いずれにせよ、どこと交渉し、どこがOKでどこがどのようにダメだったかはいずれ詳細に報告する。

　【WAGNER 2007】については、ひとえに販売店とメーカー（パイロット）の信頼関係があったからこそ実現した企画。

　2008と2009はメーカーと落としどころが出来てから販売店を決定しようとしたので、進み具合が遅いのかもしれない。こうなったら戦略変更じゃ！

　ちなみに【WAGNER 2007】は10月中旬の完成とか。いましばらくお待ちを！

　こちらが調整前のペンポイント。まったく減ってない。いくらインクフローが良くても、これではぬらぬらとは行かない・・・

　昨今はやりの筆記音が（かすかに）聞こえる調整の場合にも、平面が出ていないと音も綺麗に出ない。もう少し筆記角度にあわせて【平面を出す研磨】が必要。耐水ペーパーの上で８の字旋回や往復運動を強筆圧でやって、平面を一度出してから丸めていく方式じゃ。

　さすがに新しい萬年筆ゆえ、エボ焼けに斑はない。全体に金色がややピンクっぽく変色しているだけ。この色合いが大好きなので生かしたい！と考えたが、一度指でペン先を触ってしまうと、擦れて色落ちしてしまうほどなので、今回はあきらめた・・・残念！

　ペン先の裏にはエボ焼けは存在しなかった。これが最初からわかっていればペン先を抜かなかったのに・・・そうすればエボ焼けは保存できたはず！くやしい・・・

　下から見るとスリットが閉じているように見えるがこれはスキャンする際に手を抜いたから。通常は萬年筆やペン先の上に、マットフォトペーパー用の高品位紙を被せてスキャンするのだが、このショットに限ってはスキャナーの蓋をした。そのために蓋の重みでエラが張り、結果としてスリットが狭まった状態でスキャンされたのじゃ・・・たまにこういう手抜きをするので悪しからず。

　一応あり合わせの器具で分解出来るところまで分解してみた。

　これを見てわかるとおり、萬年筆の値段は材料費の積み上げとは無関係じゃ。在庫リスク、販売経費、アフターサービスのコストを含めての値段であって、その中で製造費の占める割合が非常に小さいというのが見て取れよう。材料費は販売定価の10%程度ではないかな？

　定価に対する材料費の割合が低いほどハイテク製品と言って良いので、萬年筆もりっぱなハイテク商品じゃ。過去のノウハウを維持する費用。トラブル対策費等も大きい。実は一本を本国に送って修理すると、メーカーと販売店の手間とコスト合計で、一本の萬年筆が生み出す利益は吹っ飛んでしまうそうな。

　国内に修理/調整チームを結成出来るだけの販売本数があれば、萬年筆はより安定的な書き味で市場にでていく。そこに至るまでの過程でこそ、市井の調整人の存在価値があるのじゃ。どんどん人材を増やさねば！

　こちらが調整後のペン先を首軸にとりつけたもの。目をこらしてみても、調整前の画像との区別はつくまい。拙者もどちらが調整前の画像かと一瞬迷ったほど。

　逆に言えば、それだけ完成度のの高い状態で市場に出てるということ。こんなすばらしい萬年筆を作っているのに、会社の対応が悪い（というか無い）ので印象が悪い。

　こちらは横顔。ペン芯の位置などは一切変えていない。ただペンポイントの筆記角度は大幅に変えた。元々Ｂにしては大きなペンポイントなので調整しがいがある。本当に出色の出来の萬年筆なのじゃ。

　よく見ると、首軸に傷が付いている。これはキャップ内のネジで擦れてつく傷。こういうところが安価萬年筆中心に作ってきたメーカーの弱点。各メーカーともここの部分の処理で四苦八苦しているようの思える。金属にしてみたり、硬質プラスティックにしてみたり、ネジより堅い素材を首軸に使ったり・・・

　萬年筆愛好家は最近は、ほとんど全員がルーペを持っている。見えなければ気にならない事も、見えてしまうと頭から離れなくなる。逆にメーカーが細部に気を使っている事がわかれば、一気に魅せられてしまうのも萬年筆愛好家。

　メーカーの方の蘊蓄を聞きたい！そしてより多くの人に萬年筆のファンになってもらいたい。書かなくても良いので・・・

　これが調整後のペンポイントの拡大画像。削って出したペンポイントの平面をどこまで丸めれば気持ちよいかは自分で確かめるしかない。

　そして拙者よりも鋭敏な感覚を持つ人の調整は非効率なのじゃ。拙者が判定出来ないのでは・・・

　たいていの場合は拙者の方が感覚は鋭敏。従って９割程度の出来で渡しても絶叫状態で満足いただける・・・しかし、拙者より鋭敏な感覚を持つ人の調整は出来を判定できない。1000分の1㎜の検知能力で、10000分の1㎜の検知能力を持つ人の調整をする方法はただ一つ。900分の1㎜の検知能力を持つ人と2人で仕上がりを判断することじゃ。これをノギス方式という・・・・いや単なるタワゴトでした。明日は名古屋じゃ！早起きしてがんばるぞ！

【今回執筆時間：3時間】画像準備1.5h　調整0.5h　執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
　向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

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万年筆評価の部屋

2007年09月15日

土曜日の調整報告 【 Senator President 14C-B 交換後 】

土曜日の調整報告　【 Senator President 14C-B 交換後】