今回の依頼はペン先調整ではない。ペン先調整自体は2007年6月4日に実施した。あまりにキャップが固いので何とかして欲しいというもの。
1950年代のMontblanc No.14Xに使われているセルロイドは恐ろしく痩せる。特にキャップは凄い。キャップの口を鼻に当てると、樟脳の匂いがするものがあるが、それはまだ痩せ続けている証拠。
痩せていく時に最初に出る症状は、キャップリングがくるくる回るようになること。最後にはキャップリングが脱落したりするほど痩せてしまう。
キャップが固くなるのは、この中間ぐらいの時点じゃ。痩せると内側に向かって収縮するので、内径が狭くなってしまい、胴体のネジを捻るとき、キャップを押し広げながらねじ込むことになる。耐えられない堅さになってしまう。
拙者も過去何度もそういう個体に出会ったが、どう対処したか?ひとことでいえば部品レベルにばらして再利用部品としたのじゃ。
拙者は萬年筆は常に完璧な状態で使いたいと考えている。従ってキャップが橘井萬年筆を使っていると精神衛生上良くない。従って使わない・・・使えない状態にしてしまったのじゃ。
一応ペン先を確認してみたが、6月4日の時点から調整が狂ってはいない。さすがに趣味の文具箱 Vol.8の121頁でMontblanc No.146を使った字を披露してるだけのことはある・・・・が、指導の先生を前にして、なをかつ写真を撮られながら、原稿用紙に向かって字を書くということから、多少は緊張していたのか、筆記角度が拙者のまえで書くときとは、全く違う。
おそらくは書いている最中を撮影したのではなく、撮影のためにいったん筆記を止めて、文字が見えやすい角度にペンを捻ってから撮影したのではないかな?
元々はKugelであるが、あまりKugel臭い調整にはしていない。普通に持って、普通に書けば、柔らかくてインクフローも良いな・・・という感じに仕上げている。
Kugelらしい調整はNo.342程度の小さいニブの方がおもしろい。まるっきり性格の変わった萬年筆に変身する。No.146やNo.149におけるKugelはインクフロー向上ブースターのような感じかな?あくまでもオリジナルの味を生かした調整が拙者の目指すところじゃ!・・・もっとも、たまに変わるが・・・
キャップを確認したところ、クラックが入っている。おそらくは痩せたキャップリップ(口)が、何度も軸で拡げられている内に、耐えきれなくなって割れたのであろう。
この割れを修理することは出来る。しかしまたすぐに割れてしまうことは明白。そこでキャップ自体を交換することにした。幸い(上記の経緯から)部品はたくさんあるのでな。
ただし天冠は委託品のキャップトップを有効利用することになった。ごらんのとおり、あまりに美しい飴色!これほど美しく変色することはあまりない。黄色が強すぎたり、白が強すぎたりで、本当の象牙色にはなかなか変色してくれない。
この個体のキャップトップは完璧な象牙色。惚れ惚れするほど。これは外して再利用する事にした。
こちらが痩せたキャップじゃ。画像の真ん中からやや右寄りの部分が内側にググッと痩せているのがわかろう。
本当ならキャップ全体が痩せるのだが、インナーキャップがあれば、その部分は痩せず、結果として凸凹状態になってしまう。
こちらが換え用のキャップ。何年も前に購入した1950年代 No.146から外して保存していた部品。前の図と比べれば痩せが明らかに少ない事があかろう。
このキャップに、象牙色のホワイトスターマークが付いた天冠を取り付ければ理想通りの萬年筆になる。
こちらが修理完了状態のNo.146。一番最初の画像では、キャップは・・・まるで胃腸障害で痩せてしまった人ようにキャップリングから左側がやせていた。それがちゃんとぽっちゃりとしたすてきなボディラインに戻った!
【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1h 調整0.5h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間