この萬年筆は2007-09-17の万年筆博士 水牛軸と同時に預かったものじゃ。
依頼者はあの【ダメ出しの女王】。【どうなってもいいからぁ・・・生贄ょぅ〜】というやさしい言葉に翻弄されるほど拙者は青くない。
この案件は最新の注意を払わなければならない・・・そういう時には一々調整経過を撮影してはいられない。はじめたら最後まで一気に調整せねば・・・・でないと集中力が途切れてしまう。
ということで調整が終了してから撮影してある。従ってビカビカに綺麗じゃが、元は埃だらけ、傷だらけの【荒くれ者】だった。
キャップは比較的綺麗。パイロット製のクリップに似ているのでOBのN氏に確認してみたが、【違う!】とのことで、とうとう最後まで製造したメーカーの見当はつかなかった。相当に腕の良いセルロイド細工で、零細企業が作るレベルの品では無いように思われる。
レバーフィラーであるが、もとよりゴムサックは崩壊していて使えない。が、レバーフィラーの機構は生き残っていた!これならゴムサックを変えれば生き返る。
ただし大きな問題はペン先が無い。しかもペン芯も・・・・ これは修理というより再生じゃ!
部品箱の中から首軸内径に合致するペン芯を捜し、それに合うペン先を見繕って押し込む・・・普通ならそうする。しかし依頼人が【ダメ出しの女王】であれば話は別じゃ。
まずは胴体に似合うペン先を決める。そしてそのペン先の曲率に合致し、なおかつインクフローが潤沢なペン芯を選び首軸に突っ込む。もし大きさが合致しなければ太らせたり、削ったりする・・・という方針を立てた。
ペン先は Pelikan M300 のペン先を選択した。当時の万年筆は胴体に比較してやや小さめのペン先が付いている事が多かったからな。
そのペン先と曲率の合うペン芯を探していたらPelikanのエボナイト製ペン芯に行き当たった。ペン先とペン芯の時代が50年違っても曲率は合っている・・・なんとも独逸合理主義はすごい!
見てわかるとおりペン先とペン芯の間に隙間が出来ることなく、ピッタリと寄り添っている。通常はこの状態にするため、エラを拡げたり狭めたり、ペン先をお辞儀させたり反らせたりを繰り返すのだが、最初からピッタリ!
こちらが全体画像。大きさも違和感無く、実に良い感じじゃ。
ペン先のバイカラーは拙者の趣味ではないが、今回は敢えて鍍金しなかった。Pelikan M300のニブなので、場合によってはこの軸からM300にペン先を移植することもあろう。そういう場合に備えてオリジナル鍍金を生かすことにした。
こちらがペン先の拡大図。これはM320 グリーン軸についていたニブじゃ。拙者はM320には海外から取り寄せたBBニブをつけるので、最初から付いていたMニブは不要となる。その廃物利用という訳じゃ。
今回様々なニブが付いたM320を購入したが、FやMのニブは現行M800のpf無しモデルと同じく胴体がぽっちゃり形状になっている。
ところがBとBBはM800のpf付きニブと同じくソケットに入るまでのカーブが絞られている。BやBBは在庫がはけなくて過渡期として古いニブを使っているのかもしれない。となれば今がチャンスかも? ま、真実は不明だが、想像して東奔西走するのも万年筆の楽しみ方の一つじゃ。
出来上がった万年筆は絶大なる賞賛の声をいただいて女王の手に戻っていった。これで女王に対する苦手意識が払拭される!と思ったものだが・・・
ある日、不吉な電子メールが・・・【女王です。あのペン先に関しては、今少しお手を煩わす必要がありそうです。】・・・それでこそダメ出しの女王じゃ!
今回執筆時間:5時間 】 画像準備1h 調整3h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間