2007年09月26日

水曜日の調整報告 【 Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換 】

2007-09-26 01 まずは左の画像をごらんあれ!普通の1980年代No.146よりも部品点数が多い・・・がよく見ると軸が壊れている、というか、割れている。

 ここに来るまでにはストーリーがあったようじゃ。依頼人はクライアントと萬年筆の話で盛り上がり、相手のNo.146を見せてもらった。最近インクが詰まって出ない・・・とか。

 【それならWAGNERでちょちょいのちょいでさぁ・・・】と安請け合いして定例会に持ち込んだ。

 最初はらすとるむしゃんが、時計用のトンカチでコツコツと叩いてペン芯を胴軸からたたき出そうとしていたが、ビクともしない。

 もう定例会終了時間も近づいている・・・そこで拙者が奪い取って、ノックアウトブロックの上で、ハンマーで叩くようにガツン!ガツン!ガツン!とやったら、ペン芯は見事に抜けた!

 でノックアウトブロックを持ち上げると、軸がハラハラと3分割した。インクが固まってペン芯と首軸が一体化したようになっていたのじゃ。

2007-09-26 02 従って、力ずくで外そうとすればこうなる。【WAGNER】に持ち込むと言うことは、こういう事故も想定しておかねばならない。

 修理品が持ち込まれるとは考えていない。持ち込まれるのはあくまでも【生贄】。似て食おうが焼いて食おうが拙者の勝手なのじゃ。それにしても固かった!

2007-09-26 03 ペン先を見てみると、やはり首軸と空気の境目がもっとも変色が激しい。首軸内部を見ても相当汚れている。ここまで汚れたペン先にはめったにお目にかかれない。

 スリットが詰まっていて、インクがとても出るように思われない。インクフローを悪くして極細字を実現しているのだが、それにしても詰まりすぎ!

2007-09-26 04 裏から見るとさらにエボ焼けの激しさがわかる。おそらくは購入してから一度も洗浄してなかったのであろう。

 そして裏側から見るとペン先のスリットの詰まり具合がよくわかる。隙間は・・・ハート穴以外は全くない・・・これではツケペンに近い状態ではなかったかな?

2007-09-26 05 こちらは綺麗にペン先を清掃してスリットも拡げた状態。まさに生き返った感じになった。

 拙者はこの金一色の14Kニブのデザインがシンプルで好きじゃ。特にペン先両側のスロープの美しさはNo.149開高健モデルに匹敵する!コストカット穴のないペン先もちょっとした優越感を持たせてくれる。

2007-09-26 06 ペン先の裏側も金磨き布で丹念に磨けばこの通り綺麗になる。もちろん磨く前にロットリング洗浄液に1時間ほど浸しておくと磨く前にほとんどのインク滓は落ちている。従ってエボ焼けを磨くだけで良くなり、非常に生産性は高い。

2007-09-26 07 こちらは、たまたま道具箱に同じNo.146の胴体が転がっていたので、それを取り付けた。このあたり、昔切り刻んだ萬年筆の残骸がお役に立ってくれる。

 もう捨てよう!と思うほど酷い萬年筆であっても、部品にばらせば使える部分も多いので、大切にな!【WAGNER】に持ち込んで、部品提供してもらえれば将来誰かの萬年筆の一部として再利用されるじゃろう。お待ちしていますぞ。

2007-09-26 08 胴体はプラスティック磨き布でゴシゴシと30分ほど擦ればピカピカに綺麗になる。その場合、クリップを外しておくと具合がよい。天冠を左に回せばクリップは外れる。お試しあれ。

2007-09-26 09 こちらがニブの拡大図。まだ研いではいない。スリット内の黒い部分がペン芯じゃ。通常の拙者の調整よりは、気持ちペン芯を前進させている。

 持ち主は萬年筆が好きじゃ。ということはこの萬年筆が手に渡ると狂喜乱舞して、こればかり使うようになる。時間に追われる商売なので、たまには筆圧が高くなってしまう事も多いはず。気になるのはペン芯とペン先の間でのインク切れ・・・

 従って多少筆圧がかかってもインク供給が安定した萬年筆にしなければならない。妥協点がこのペン先とペン芯の位置関係なのじゃ。

2007-09-26 10 こちらは研磨前のペン先。典型的な鉈型の研ぎ。昔のMontblancはEFの細さを出すのに、円弧状の一点だけが紙に接するような研ぎをしていた。

 従ってペンポイントは大きいが字巾は狭く、インクフローが悪い。こういうペンは筆圧を上げがちで好ましくない。今回はスリットを拡げたのでインクフローは良いのだが、書き味は今一歩。

 これは鉈の先端が鋭利に尖っており、書くに際してその先端部がたまに紙の繊維を拾ってしまうのじゃ。人間緊張したり、あせったりするとペンが立ち気味になる。その時にひっかかるのじゃ。

2007-09-26 11 時間と戦っている持ち主に、せめて字を書くときくらいストレスを与えないようにと、せっかくの綺麗なシェイプを崩して先端を丸めた。こうするとやや小太りのペンポイントになるが、スムーズさは月とすっぽん。これで【戦士】は【剣】に悩まされることなく時間と戦えるじゃろう。また胴体も新しくなったしな。


今回執筆時間:7時間 】 画像準備2h 調整3h 執筆2h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間


【これまでの調整記事】

2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換

2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
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2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
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2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B
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2007-05-28   Montblanc No.1468 18K-OBB
2007-05-25   無理難題! Montblanc 80年代 No.149 14C-F
2007-05-23   松江から来た松江から来たMontblanc No.144 14K-M 赤軸 
2007-05-21   松江から来たMontblanc 70年代 No.1266 18C-F 
2007-05-18   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 14C-EF
2007-05-16   松江から来たMontblanc 70年代 No.149 18C-F 
2007-05-14   Montblanc No.1468 デスクセット 14K-BB
2007-05-11   持ち主のわからない中屋の黒軸 14K-中
2007-05-09   Pelikan ダイダラス・イカルス 18C-M
2007-05-07   Montblanc Montblanc 80年代 No.149 14C-M 開高健モデル
2007-04-30   Montblanc ヘミングウェイと同時期の No.146 14K-B 
2007-04-27   Montblanc 50年代 No.146 14C-B
2007-04-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-B
2007-04-23   Montblanc No.134 スチール-BB 
2007-04-20   Montblanc No.146 14K-BB TEST
2007-04-18   Montblanc 80年代 No.149 14K-B
2007-04-16   Montblanc 70年代 No.149 14C-EF ああ無残・・・ 
2007-04-13   Montblanc 80年代 No.149 14K-BB
2007-04-11   Montblanc 50年代 No.146 14C-KEF 軸削り
2007-04-09   Paker Sonnet F 遠隔調整
2007-04-06   Montblanc No.94 18C-F
2007-04-04   セーラー 初代キングプロフィット 21K-B
2007-04-02   Pelikan #600 18C-B 軸折修理


Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆