今回の依頼品はChronoswissの萬年筆。制作したのはPelikan社。Chronoswissは下記のとおり日本語のHPも持つ独逸の時計メーカーで、Montblancの腕時計よりは高価だと思う。
時計メーカーが萬年筆で儲けようとは思わないはずなので、ひょっとすると時計のおまけとして作られたものかな?
http://www.chronoswiss-japan.com/jpn/
この萬年筆はスケルトン仕様で、ニブが2個付いている。このあたりが実におもしろい。
企画した人間はPelikanファンだと断言できる。もし拙者がChronoswiss社から企画を任されたら、スケルトン、交換ニブ付きというところまでは同じ事をする。そこから先のデザインはさすがChronoswiss!時計のモチーフをクリップやリングなどに巧みに利用している。
拙者は昔、銀座にあったEbelのブティックで、Ebelという時計メーカーのロゴが付いた箱に入ったPelikanの萬年筆を買ったことがある。中身はM710そのまんま。Ebelのロゴがついているのは木製の箱の内側だけ。それでも購入したのは、アメ横でM710を買うよりも安かったから・・・。そうEbelブランドのM710の定価の方が、Pelikan M710の4割引より安かったのじゃ。こういう事があるからブティック巡回はやめられない。
このChronoswissはeBayで何度か見た記憶があるが、毎回通常ニブとオブリークニブの組み合わせだったような気がする。MとBという理想的な組み合わせの物には初めて出会った。
依頼内容は例によってインクフローの改善じゃ。今回の場合、ペン先とペン芯の位置関係は変更しなかった。Chronoswissの企画者が【万年筆ファン】と感じたので、彼または彼女の意志を尊重した。それに拙者の理想の状態とそれほど違わない状態にセットされているし・・・
ただしインクフローについては調整しないと使えるレベルではないので若干スリットを拡げておいた。
こちらはM付きのペン先ユニット。ソケットの中央にポチっとした凹型のへこみがある。ここにペン先の太さの部分を合わせるのか!そこまでこだわってこそ時計メーカー!さすが! と感心したのじゃが・・・
Bのペン先を見たら位置はズレている。しかもズレた位置が正しい。拙者の買いかぶりだったらしい・・・
実はPelikanのソケットにはペン芯の突起物を収納する穴が2ヵ所ある。そこの穴にペン芯を併せて押し込むので、必然的にペン先とペン芯の位置は固定的になってしまう。
萬年筆専門店の中には、萬年筆としての機能に関係のない、ペン芯の突起物を最初から折ってしまう店もある。またノックアウトブロックで抜く場合、誤って突起物を折ってしまうこともある。
拙者はオリジナル性を重んじるので突起物が折れないようにするプロテクターを自作した上で、ノックアウトブロックを使っている。
今回の調整で拙者がやったことは、スリットを多少拡げることと、依頼者の筆記角度で書いたときに、書き始めに掠れる確率を下げるためのおまじないをするだけじゃ。要するに多少研磨している。
今回はポリエチレングリコール(PEG)水溶液には浸していないので、もし書き出しでインクが掠れる事が頻発すれば、PEGを試してみると良いじゃろう。Pelikan製のペン芯にPEGが効果があるかどうかは疑問だがな・・・
上の写真が調整後のMのペン先、左が調整後のBのペン先じゃ。いずれも依頼者の書き癖に合わせて先端部のエッジを多少丸めてある。こうすれば筆記角度が変化する場合でも許容範囲が広い。
今回の依頼者は、将来筆記角度が可変方向に振れそうな予感がするのでこういう措置をとった。かなりバランスが偏った限定品を好んで使う人は、筆記角度が徐々に変化していく傾向が強いのじゃ。
ペン先とペン信夫位置関係はなかなか良い。敢えて外してペン芯を痛める必要もあるまい。
スケルトン萬年筆にはインクを入れない主義の拙者には、とてもこの萬年筆を使う勇気はないが、依頼者は使っているのかなぁ・・・ものすごく仕上がりが美しい萬年筆なので、軸と同じ色のインクを使わないと見苦しくなりそうじゃ・・・
もしペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!の続編が出来るなら、ぜひ載せてもらいたい一本じゃ。
【私がもったいなくて使えないこの一本】
今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 調整1h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間