今回の依頼品はParker 75のレッドラッカーモデル。Parker 75の首軸先端の金属部分は純銀であったり、アルミニウム合金だったりして、インクに冒されやすいのが弱点だったらしい。
それを何とかしようと、金鍍金にしたのがこのモデル。この後のモデルではプラスティックに金の細いリングだけになっている。またペン芯の構造も変わってしまった。従って従来からのペン先を流用できる最後のParker 75がこれじゃ。
Parker 75で最も優れているのは、キャップが【パチン!】と締まる感触。今まで25年ほど萬年筆を使っているが、いまだParker 75以上の感触のものに出会った事はない。
同じような形状でもParker プリミア・コレクションは【プスン・・・】という音で締まり、なんとも気持ち悪い。【パチン!】と締まるParker 75はこれだけで評価出来る!プリミアがParker 75の後継になれなかったのは、キャップの感触が原因だったのかもしれない。首軸の材質にも大いに問題はあったが。
依頼内容はインクフローと書き味の改善。ペン先を見ると確かにスリットは詰まっている。しかもギチギチに詰まっている。これでは相当筆圧をかけないとインクは出ない。
日本ではXF〔ParkerとSheafferはEFと呼ばずXFと表記〕が最も売れたようだが、拙者は大嫌い!今までに何個XFニブを机にたたきつけた事か・・・
Parker 75は、ペン芯からペン先を外せばスリット調整は容易だが、外すときにペン芯とペン先に傷が付いてしまう。これがイヤで最近は絶対にペン芯からペン先を外さないようにしている。
ペン芯はプリミアに使われているのと同じ凹凸の多いタイプになっている。このタイプになってからインクの出が絞られたような気がしている。気のせいかもしれないが・・・
ペン芯のインク保持能力が向上したので、逆にインクフローを抑え気味にしてあるのかもしれない。どうもXFやFではしっくりこない。
ペン先はフランス製の14金ペン先。元々ゴリゴリした書き味がParker 75の細字の書き味。嵌るとほかの萬年筆に見向きもしなくなるほど。拙者も一時そういう時が合った。ただしXFとは相性が悪かった。嵌ったのはM以上だけ。
しばらく格闘してみたが、どうやってもXFのニブで依頼者が望むインクフローと書き味を出すのは無理と判断して、ペン先交換することにした。M以上は全てコレクション品に付いているので外せないが、Fであればごろごろと代替品が部品箱に転がっている。
そこでインクフローが良い頃の裏がツルツルのペン芯付きのFニブでフランス製というのを引っ張り出してきた。
XFと比べればかなり大きなペンポイントの上、スリットもそれほど詰まっていない。これを素材として依頼者の好む筆記角度に調整を施した。
元々Sheaffer好きな依頼者ゆえ、筆記中に必要以上にしならない書き味が好み。従ってインクフローが良く、引っ掛かりさえなければParker 75はSheafferに負けない書き味を提供してくれる。
ただし、左のコンバーターを長時間使っているとインクが出なくなることがある。ずっとペン先を下に向けて書いていると、コンバーターの中の玉がインクの流れを阻害してインクがストップする事がまれにある。コンバーターを下に向けてスライドを下に下ろそうとすると玉が固定されてしまう事も・・・・
そこで中押し式コンバーターと交換することにした。これは松江の中屋万年筆店で分けてもらったものじゃ。このコンバーターはインク保持量が見えないという欠点はあるものの、昔ながらの質感が実によい。
首軸に突っ込む部分を見るとちゃんと滑り止めのギザギザが付いている。こういう細やかな心配りが、コストカットの流れのなかで消えていくのが悲しい。
古き良き時代の米国の誇りがコンバーターの中押し金属の部分の刻印に見ることが出来る。【PARKER U.S.A.】良い響きじゃ!
今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 調整1h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間