今回の依頼品はParkerのバキューマティック。拙者は自分で購入したことはないが、何本か所有した時期がある。あれは今から10年以上前、部下が【データ・モデリング】関係の学会にはいっており、そこの有志が軽井沢の別荘に30人ほど集まって合宿をやるというので参加した。
なんでも別荘を提供してくれる人が、亡父の古い萬年筆をいっぱい持っており、捨てるわけにもいかず、さりとて一本たりとも書けないので、引き取ってくれる人を捜しているとか・・・これは行かないわけにはいかない！
ということで60本ほどもらってきた。父上の職業は脚本家ということで相当酷使されており、確かにそのままで使える物は無かった。一本は脚本家としての賞を受賞した時に贈られたものだったので、なんとか修理して返却し、非常に喜ばれた。
残りのほとんどは逝ってしまった萬年筆だったが、その中にバキューマティックが４本入っていた。吸入機構の心臓部であるゴム部品が劣化していたのでバキューマティック方式として使うのはあきらめ、ペン先だけ別メーカーの萬年筆に移植して使っていた。
無骨な形状のペン先ではあるが、なかなかやんわりとした書き味で好ましかった。ただ当時はVintage物にはまったく興味は無かったので、軸は捨ててしまった・・・残念！
実はバキューマティックはそれ以来触った事もないので、持ち込まれた時に、【直せないよ・・・】と反応してしまったが、【ペン先曲がりの直し】ということだったのでお預かりした。
どうなっていたかといえば、左図のとおり。おそらくは落下して曲がったのであろう。床がフローリングであれば、50�僂旅發気�ら落下させても曲がってしまう。またカーペットであっても毛先が短ければ１mの高さから落下させれば曲がってしまう確率が高い。毛先の長いカーペットや畳は比較的安全じゃな。
もっとも全体の重量にもよる。重い万年筆ほど被害は大きい。またVintageの鍛錬さえたペン先は被害が少ないようじゃ。
なんでこんなに詳しく語れるかと言えば・・・何十本も落下させて曲げているのでな・・・おかげで曲げの伸ばしはお手の物。良き指導者がいない場合、修理のスキルは壊した数だけ上達するものじゃ。
よく見ると、下側の方が曲がりが大きく、上側は曲がりが少ない。これはスリットが開いた状態で落下したと思われる。ということはこのペン先には、製造から依頼者が入手するまでの課程のどっかでスリットを拡げる策が施されているはず。曲がる前はかなりインクフローが良かったと思われる。しかしこの細さのペン先でいたずらにスリットを拡げても書き味が悪化する上に、字の終端が美しくない。そこで細字にふさわしく、やや細めに調整してみた。インクフローは悪化させずに、字の終端を改善するような調整じゃ。
こちらは表面の汚れを軽く落としてからペン先の曲がりを戻した状態。例によってスキマゲージの上で割り箸を使って曲げる。【ペン！ペン！ペン！ファウンテンペン！】の232頁に書いてある。こうやって本の頁を紹介する場合、紙メディアのすばらしさを痛感するなぁ。これを過去Blogを捜して紹介しようとすれば、捜す方も読む方も大変じゃ。
これがスリット幅を最高の状態に調整した画像。先端の隙間は目の粗いサンドペーパーで削って出すと、削り跡にインクが溜まって書き出しの掠れが解消されるような気がする。理論ではなく経験値だが・・・Parker75のようにペン先がペン芯に巻き込まれているペン先のスリットの間にスキマゲージを差し込んで曲げると、スリットの両側がめくれあがってしまう。従って後でサンドペーパーや金磨き布で磨きあげる必要がある。これがバイカラーのペン先なら万事休す・・・バイカラーのペン先のスリットを拡げる作業は、必ずペン先をペン芯から外し、かつ、ペン先の裏側からスキマゲージを左右に動かし、めくれが裏側に出るようにしないと醜くなってしまうので注意！これ本邦初公開のテクニック！
こちらがボディに装着した画像。似たような模様のプラチナセルロイド軸にはクレームがついていつのまにか市場から姿を消したが、Viscontiのマンハッタンにはクレームが付かなかったのかな？
ペン先をよく見ると、先端が反っている？ このほんの少しの反り加減がやんわりとした書き味の秘密かもしれない。長い間記憶の片隅に追いやられていたバキューマティックであるが、この軸に触れて、久しぶりに欲しくなってしまった。やはりねらうはカナダ製のマキシマかな？
今回執筆時間：5時間 】 画像準備2h 調整2h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
