今回の依頼品は、2006年8月19日に調整したもの。これのピストンが壊れたというのが今回の依頼事項。実はこの時代の安価モデルのピストンには同様のトラブルがよく起こる。
特に最近の怪しいインクを入れていると弁が一部溶けて胴軸内部にはりつくような感じになり、ピストンを無理やり動かそうとすると・・・弁の部分が折れる・・・のかもしれない。
弁はプラスティック製のネジで固定されているが、この根元が弱く、ネジ込み過ぎてもプチっと割れてしまう。あきらかに設計ミス。実は同じような状況はMontblancのNo.25Xシリーズでも発生する。弁がグラグラするのでちゃんと固定しようと、ネジを力一杯右に回すと・・・ピキっという音を立ててネジの根元が剥離する・・・
ペン先は以前に紹介したとおりNo.142の物を装着している。元々スチール製のガチガチにスリットが詰まったペン先だったが、ペン先を交換したことによって繊細な書き味になっている。
ただし萬年筆の重量がNo.142に「比べて軽いので、多少筆圧を大きめにした方が、このペン先の本来の素質を生かせそうじゃ。
吸入機構の要である弁が壊れては萬年筆としては機能しない。また場所が場所だけに接着剤で固定することも出来ない。そこで移植手術をする事にした。
たまたま部品箱の中に、ペン先もキャップも無くなったモンテローザの赤軸があった!
分解してみると弁は無事じゃ。これなら即時移植手術が出来る。この弁・・・というか弁とネジと中軸が一体となった部品毎移植することにした。ピストン機構ごと移植しなかったのは、提供部品と軸本体の色合いが微妙に違っていたからじゃ。
同じモデルの同じ赤軸とはいっても製造時期や製造ロットによって軸色には多少変化があったらしい。
左画像の下から上へ部品の移動を行ったわわけだが、色の違いがわかるかな?上の方が若干明るい色をしている。
そして上の色が本来のモンテローザの色。この鮮やかな赤色はMontblancの中でも特に美しい。もしこの色のMontblanc No.149があれば狂喜乱舞する人がいるだろうにな・・・
こちらが移植を終えてキャップを閉じたところ。天冠にホワイトスターは無く、キャップの口のところの金具が波打って雪の形を演出している。こちらの方がNo.342のキャップよりは垢抜けている。
かわいさと不格好さが同居した、曰く言い難い形状をしている。いくら可愛いぶってもオシャレとは言えない・・・このあたりの垢抜けなさが人気が長続きする原因かもしれない。拙者は大好きじゃ!
キャップを後ろに挿すと雰囲気は一変する。なんというか・・・ステロイドを大量使用していた、旧東ドイツの女子スポーツ選手のような・・・筋肉質なペン先が目立つ。
ワーゲンビートルにポルシェのエンジンを積んでいるような感じさえする。その昔、発泡スチロール製のボートに競艇用のエンジンを積んだら、競艇用ボートよりも直線スピードが出たという実験を父親がやったことがあるが、まさにそのノリじゃ!
小さなペン先というのは筆記時のブレが少ないので、普通の人にとっては大型ニブよりも書き味が安定していて、筆記時の悩みが少ない。
大型ニブに憧れて、どんどん大きなペン先に行くほど、書き味のブレに悩まされ【こんなはずではなかったのに・・・】と思ったことはないかな?
【部下の安い萬年筆の方が何故ふわふわと気持ちよく書けるのか?】というのが拙者が調整に入っていったそもそもの理由じゃ。そして今でも【ひょっとすると小さいペン先の方が書き味は良いのではないか?】という疑問は消えない。
メーカーの人が答えてくれるのなら、拙者自身が○曜日の質問コーナーに、【どうして大型ニブの萬年筆を作る必要があるのですか?】と聞いてみたいほどじゃ。
拙者には50年代No.142のペン先の書き味は、同時代のNo.149の書き味を凌駕しているようにしか思えないのだがな・・・
今回執筆時間:5時間 】 画像準備2h 調整2h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間