今回の依頼品はMontblanc No.34。グレー軸というのは初めて見た。非常にケチくさいニブの大きさなのだが、書き味は驚くほど良い。
MontblancがねらったのはParker 51のような書き味だったのかもしれない。Parker 51は単に流線型のデザインが受け入れられただけではなく、その安定した書き味に惚れた人が多かったはずじゃ。
ペン先がちょこっとしか無いので、ブレが少ない。オープンニブのような使いこなしのお作法が不要で、どんな酷い握りでも文字がスラスラと書けてしまう。
ある意味、万年筆を堕落させた張本人とも言えよう。実際、最近の若い者のようにどらえもん持ちで握っても何の問題もなくスラスラと字を書く事が出来る。
ワープロを使い始めて漢字を忘れ、電卓を使い始めて暗算がおっくうになり、携帯を使い始めて電話での会話にときめきかなくなった・・・
Parker 51が人類から万年筆の正しい握り方を奪ったといったら言い過ぎかな? 一時熱狂したが、今では最も忌み嫌う萬年筆、いや、万年筆じゃ。
どんなにがんばってもオープンニブではParker 51の書き味は実現できなかったようで、Montblancもついに小型ニブを搭載したモデルを出した。
好き嫌いはともかくとして、書き味は良い!拙者もはじめはショックを受けたものじゃ。ニブの大きさが持つ価値観がものの見事に打ち砕かれた・・・
ま、そのうち単調な書き味には物足らなくなってしまうが、純粋に書く道具と割り切るなら、手放せない逸品となるじゃろう。
実はNo.34を分解するのは初めてなので、純正の修理道具を使うことにした。
左はペン先ユニットを首軸から外す為の、Montblanc 60年代2桁番台モデル専用の工具らしい。
この先端を左画像のように首軸に突っ込んでソケットをつまみ、グッと引き出すわけじゃ。捻らないでそのまま力ずくで引っ張ったが、それが正解だったらしい。
こういう実験は自分のコレクションではやらない。かならず【生贄】あるいは【献体】で実施することにしている。このBlogでは【生贄】とは稼働はするがこのままでは愛し続けられなくなった万年筆で、【献体】とは機構が死んで使えなくなった万年筆を指すことにする。これからは・・・
グイ!と引っ張ったところ、ペン先は首軸に残ったまま、下に落下した。な〜んだ、ペン先は前から引っ張れば抜けるんだぁ。
ペンポイント部分をゴム板で挟んで引っ張ればペン先の部分だけが抜ける。従って特に専用の器具が無くてもペン先のスリット調整は出来る。これは朗報!
こちらが調整前のペン先。どうやら金の板にペンポイントを取り付けた後で、型押しプレスで成形し、その後に切り割りを入れたのだろう。
先に切り割りを入れてからプレスにかけたらペン先が開いてしまう・・・それにしてもペン先の寄りはすごい。これではインクが出ないわけじゃ。
こちらはスリットを開いた状態。金色一色ニブの場合は、スキマゲージを表から当ててもスリットをこじ開けても問題はない。
作業を終えると多少盛り上がる部分もあるが、それを2500番ほどの耐水ペーパーで擦り落としてから金磨き布で磨けば傷は跡形もなく消える。
これが出来上がった全体像。書いてみるととても学童用にはもったいなほどの書き味。さすがMontblancじゃ。手抜きはない。これで2桁番台独特の弱点がなかったら、もっと長続きしていたろうに・・・
ペン先を装着してみると、なんとも愛らしい。胴体は決して細くはないのだが、妙に親近感を覚えてしまう・・・そうか拙者に似ているのじゃ。
巨体に似合わず小さな脳みそ!
う〜ん・・・これからもかわいぶって生き抜こう!
今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1h 調整1h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間