今回の依頼品は古いMatador 996。拙者も以前所持していたことがある。スネーククリップがかわいい逸品じゃ。
Matadorの高級ラインは非常に高価だが今回の品は中級ライン。凝った作りの割に値段が安いので相当ヒットしたのではないかな?
依頼内容は、ピストンが機能しない。インクが後ろから漏れる。ペン先を首軸から外したら戻せなくなった・・・といもの。
この時代の独逸マイナーブランドは、個々に独自の機構を持っている場合があり、分解には非常に気を使う。Matadorの場合は過去に分解した(壊した)経験があったので事なきを得た。
画像で大きなコルクがあるが、これをカスのような大きさのコルクと同じ大きさまで削る。これは非常に時間がかかり困難な作業。少しでも円形がゆがむと空気が漏れてインクが上ってこなくなる。また後ろにインクが漏れてしまうこともある。
今回の漏れの原因は、コルクの摩耗もさることながら、コルクを止めている軸とコルクとの間に隙間が空きすぎているのも原因ではないかと思われた。
そこで松脂を塗ることを思いついた。実は海外で修理したピストンに松脂のような物が塗られているのが気になっていたので、今回チャレンジしてみた。
こういう時にこそ【生贄】の出番じゃ!
まずは松脂の入手だが、これは楽器店で各種取りそろえて売っていることがわかった。どうやら弦のメンテに使うらしい。
固形石鹸のような丸い形状だが、カチカチに硬い。そのまま弦に擦りつけるのには良いだろうが、溶かして塗りつけるような場合には不向き。
そこでビーカーに砕いて入れ、熱して液体状にした。それを熱した歯科用のメスの先端に付け、コルクと軸の間や、コルクがインクと接する面に塗りつけるわけじゃ。
メスを熱していないと、メスに付けた段階で松脂は固まりはじめてしまうので、必ずメスを熱すること。
当たり前だが、松脂は滑り止め。従ってコルクの側面に付着すると、胴軸内部との摩擦抵抗が大きくなって、ピストンの上運動がやたら重くなるので注意。
実は、最初は側面にもたっぷりと塗って、動かなくなり、コルクを削り直した・・ボケの始まりじゃ!
これが完成形。なかなか良いバランスだ。胴体に比べてペン先が大きい!そういえばMatadorには、あまりケチくさいニブが無い。当時の独逸マイナーブランドには小さなニブが多かった・・・その中でSoenneckenとMatadorのニブは大きかった。マイナーと呼んでは失礼かもしれないな・・・
これは調整が終わったニブをスキャナーの上に、右向きに置いたものと、左向きに置いてスキャンしたものをつなぎ合わせたもの。スキャンの方向によって影の出方やコントラストがかなり変化するのでおもしろい。ルーペで見ると、右側に近い映像になる。
依頼人がペン先が首軸に入らなくて苦労したようだが、確かにまともな力では入らない。首軸はセルロイドのようなので痩せたのかもしれない。
ペン芯位置からかなりペン先が前にあるように見える。こういう状態が好きな拙者ですら、ややペン先が前過ぎるような気もするが、これ以上はペン先が奥にはには入らない。
書いていてインク切れもなく、書き出しの掠れもないので、これで良しとしよう。
Soennecken、Matador、Osmia、Goldfinkなどは実に具合の良い万年筆を作っていた。こういうブランドに復活して欲しいものじゃ。
もちろんブランド名だけではなく、ふさわしい技術も。やはりコレクターが復活するのが一番だろう。【妥協】が一番寂しい結果をもたらすからな・・・
今回執筆時間:5時間 】 画像準備1h 調整3h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間