今回の依頼品はOsmia 64の珍しい模様の軸。ペン先にはOsmiaとしか刻印がないが、聖書によれば1938年ごろのOsmia/Faber-Castellのモデルと似ている。拙者も大好きで同じ物を過去に購入したことがある。
依頼内容は、ピストンが固くて動かないので直して欲しいというもの。確かに硬い・・・毎日ピストンを捻っていたら、半年で腕回りがボート選手のように太くなりそう!
これでは萬年筆ではなく、筋トレマシン・・・
分解してみたのが左上の画像。既にコルクは外してある。残念ながら大きさの合うコルクはなく、そもそもコルクを挟むネジも回らない。これでは修理は出来ない。
ただし、Osmiaのペン先は非常に出来がよいのでこれを生かし、軸を新に用意することにした。
Osmiaからペン先移植するとすれば、同じ時代の独逸マイナーブランドしかあるまいということで選んだのが・・・
このブルーのデモンストレーター軸。見る人が見れば一目でわかるが、MatadorのClickじゃ。
【ピキッ】という音を立ててキャップが締まる・・・いわゆる嵌合式の特許を取得したとされる【Matador Click】にペン先を移植する。
【Matador Click】にはスチール製のニブがついていたので、これをOsmiaの14金ペン先にグレードアップするのじゃ。
それにしても美しい軸。まるでPelikan イカロスのような透き通ったブルー。
拙者はもったいなくてインクを入れられなかったが、依頼者はデモンストレーターに威嚇されない男なので大丈夫じゃ。
これが移植後の全体像。オリジナルのペン先よりも一回り大きいはずなのだがまったく違和感なく収まっている。このあたりがメーカーは違っても、生まれと時代が近しいメーカーの萬年筆じゃ・・・・なんてのは大嘘で、時代はかなり違う。Clickは1949年以降の発売なので戦前/戦後という大きな差がある。
ペン先の拡大図を見ると、オブリークではないのに、ペンポイントは左側の方が長い。こういうおおざっぱさが実に良い。作りは独逸職人ぽいが、仕上げはイタリア的。
仕組みは緻密だが、仕上げはおおらか・・・ 当時の日本製品は仕組みも仕上げもおおらかだったので批判は全く出来ない・・・・
拙者は仕組みはおおらかで、仕上げが緻密なのが好きじゃな。仕組みが緻密なのは故障したときに直すのが困難。Montblancのテレスコープ吸入機構のごとし・・・
ペン芯はOsmiaの物ではなく、Matadorの物をつかった。ソケットがねじ込み式なので、ペン先とペン芯の相性よりも、ペン芯とソケットとの相性を重視した。
さて、結果は・・・?
Mattadorの美しい軸に、Osmiaの実に繊細な柔らかさのペン先が装着された。これは偶然が作り出した奇跡かもしれない・・・
依頼者はどんなインクを入れて使っているのかな? まさか当時の軸が簡単に冒されてしまう、Vintageのターコイズブルーなんて使ってないよなぁ・・・
今回執筆時間:5時間 】 画像準備1.5h 調整2.5h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間