今回の依頼品はMontblanc No.252。拙者が最も好きな萬年筆のひとつじゃ。インク窓がブルーでペン芯が厚い1950年代後期のモデル。No.256ではほとんどがキャップにクラックが入ってしまうが、後期モデルのNo.252ではあまり発生していない。小さいので収縮の影響を受けにくいのかもしれない。
問題となる症状は大きく分けて３つある。�� 例によってインクフローが悪い
�� ペン先とペン芯が離れているてインク切れしそう
�� ペン先のお辞儀が過剰でペン先が曲がって見える
というもの。
インクフローが悪いのはこの個体に限った事ではなく、このBlogで取り上げる物のほとんど！何故かインクが出にくい商品が市場に出回っているようじゃ。
ひょっとするとインクフローが良い！というのが異常な事態で、インクが細々としか出ないのがメーカーにとっては良い状態なのかもしれない。
であれば、ドバドバ好きは文句言う筋合いはなく、ひたすら調整術を身につけるのみじゃ。考えてみればドバドバ化は、改造車のシャコタン化のようなものかも？
上の画像を見るとおり、スリットが詰まっていてインクの通りはいかにも悪そう。スリットが詰まているのは、そういう設計になっているケースと、使用中に曲げてしまったケースがある。今回は両方が原因となっているようじゃな。
こちらが横顔。左から右へ、ペン先上面のカーブを詳細に見ていくと、いったん盛り上がったニブが最後に多少お辞儀している。最初の盛り上がった部分でペン芯とペン先が離れ、最後のお辞儀の部分でスリットが強烈に内側に寄っている。後者がペン先のスリットが詰まっている原因だろう。
ペン先のソケット部分を左に捻って抜いてみた。ソケットの凹の部分はハート穴の延長上にあるので、これは問題ない。これが90度ずれていると、ソケットを回す工具が使えない。ペン先がソケットから出ている具合はこれで良い。首軸にねじ込んだ時にペン先の首の部分が見えないようになっているのが、拙者が考える最高に美しい状態じゃ。調整師によってはもう少し首を長く出す人もいる。ここは好みの問題。拙者に調整依頼が来れば、拙者の好きな状態にして返却する。なんせ【生贄】だからな・・・
ペン先をはずして詳細に観察すると、スリットの詰まり過ぎ、ペン先のゆがみ以外に、表面のスリ傷も多少目立つ。まずペン先のゆがみとうか波打ちの修正。通常はツボ押し棒を使うのだが、No.25Xシリーズのようなフラットなペン先の場合、無用なカーブが付いてしまうので、平たい竹製の割り箸などを使う。握りの上の部分の先端が斜めにカットされているもの。
今回はそれでだいたいの波打ちを修正した後で、サンドペーパーで表面の波打ちの盛り上がった部分を削って、それを金磨き布で研磨した。結果、ペン先表面の傷も取れ、一挙両得！
最後に裏側からスキマゲージを入れてクイクイと左右に捻り、スリットを拡大した。
それをソケットに挿し込んだ状態が左の画像。スリットが先端まできっちりと通っている事がわかろう。ここから首軸にセットして、角度を合わせるように研磨していくわけ。
出来上がった物をスキャナーに乗せて左右からスキャン下のを合成した物。表面が傷一つ無い状態に鳴っているのがわかろう。No.256であれば、あと1ミリほど首軸に突っ込みたいところじゃが、No.252なら許容範囲。良しとしよう。
ペン先のお辞儀は、ペン先先端の金の厚みの変化程度に調整した。左画像では良く見えないが、ペン芯とペン先の間の隙間も解消している。その解消にはペン芯を上に反らせた。90度程度のお湯にペン芯を一分ほど浸し、エボナイトが多少柔らかくなったところで、先端を上に反らせるように力を入れて曲げる。そのままの状態で20秒ほど熱いのを我慢する。そして冷水に浸けてエボナイトの変形を止めるのじゃ。
ペン先をペン芯に乗せてソケットにセットし、ペン先のスリットが開きすぎるほどペン芯が上に反っていれば、そのままの状態で数秒お湯に浸ける。これを繰り返せば、ペン先の変形が戻る力で暖められたペン芯の反りが減っていく。ちょうど良い状態になったところで冷水に入れるのじゃ。
今回の調整報告には微調整のノウハウが満載なので、繰り返し読むようにな。自分で修理やるようになって初めて、なるほど！とわかるような事も多いが・・・
今回執筆時間：4.5時間 】 画像準備１.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
