今回の依頼品はスティピュラのピノキオ。なんとも奇抜な形状をしている。ところがこれが至極持ちやすい。キャップを後ろに挿した時のバランスも良いし、不思議とガタツキも大きくない。
キャップを後ろに挿したときに出来るくぼんだ部分が、親指と人差し指の腹の部分に入って気持ちよい。ひょっとするとすばらしい万年筆だったかもしれないが、その奇抜な姿ゆえ敬遠されてほとんどの人が心地よさに気付いていなかった・・・拙者も含めて・・・
クリップを表面から見た画像。鼻の部分がクリップになっているが、このクリップが・・・実に使いにくい。
ペンをホールドする際に非常に苦労することになる。何か裏技があるのかな?
ペン先はプラチナ?で鍍金された14金ニブ。当然のことながらペン先専門メーカーに製造委託したものだが、スティピュラ用のニブはなかなか良い。強さと弾力がうまくバランスした作りになっている。
拙者は最初にエトルリアを使ったときからスティピュラのファンだったが、このピノキオの発売を知ってスティピュラに幻滅した・・・しかし実は良い万年筆だったと悟った。万年筆を見かけで判断してはいけないという教訓じゃな。
依頼内容は、インクフローの改善と、縦横同じ太さの字が書けるようにとのこと。
左の画像でペンポイント先端を見ると、まるでスタブのペン先のように腹にエッジが立っている。これはこれで拙者は好きな書き味じゃが、依頼者には合わない。多少腹を研磨する必要有りと見た。
胴体を二分割するとコンバーターが内蔵されている。ペン先はペン芯とともに、ゴム板で挟んで前にまっすぐに引っ張れば抜ける。挿し込む位置は固定なので間違わないようにな。逆に差し込むと抜けなくなって大騒ぎになるので・・・
これがスティピュラのペン芯。エトルリア発売の時点ではどうしようもない性能だった。拙者は当時のデルタのエボナイト製ペン芯と交換して使っていた。デルタのルグドナムがインクフローが良すぎて使い物にならず、エトルリアがインクフロー悪すぎて使い物にならず・・・ところがペン芯交換すると、いずれもが絶品!
最近のスティピュラのペン芯はさすがに性能改善がなされているのであろうな。当時は何本も本国送りにしたものじゃ。
こちらがインクフロー調整前のペン先。やはりスリットが詰まっている。これではいくら絶妙のタッチ感を持つスティピュラのペン先であっても、その能力を存分に出す事は出来ない。どうしてここまでスリットを詰めるのかな?インクが出ない万年筆では、ローラーボール以下の評価になってしまうだろうに・・・
こちらがスリットをやや拡げ、ペンポイントの腹を研磨した状態のペン先。スリットの開きはハート穴の部分よりは狭い必要がある。
ではハート穴の部分が狭いときは?そのときはハート穴の部分から研磨して、先端に行くほど狭いスリットにすると良い。弾力の大きいペン先なら、ポンプ運動でインクが押し出されるが、多少硬いペン先や筆圧が極度に低い人の場合にはポンプ運動が働かないので、スリットによる毛細管現象に期待するしかない。
こちらが首軸に装着した状態のペン先。ペン芯に乗せると若干スリットが拡がる。これはペン芯が多少上に反っているから。
この反りの状態を計算に入れた上で、スリット調整を出来るようになれば一人前。ペン先調整のほとんどはインクフロー調整で、そのほとんどがスリット調整。
それ以外というのはペン芯の清掃、インク誘導液処理程度じゃ。多少指は痛くなるが、ペン先のスリット調整を覚えておくとストレス解消にはなる。インクの出ないペン先を持つと、吐き気がするのでな・・・
今回執筆時間:3時間 】 画像準備1h 調整1h 執筆1h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間