万年筆評価の部屋:月曜日の調整報告　【 Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善】

2007年10月29日

月曜日の調整報告　【 Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善】

　今回の依頼品はPelikan 400NN。Vintage Pelikanの入門用であり、かつ、究極でもある。400NNから入って、100へ行き、140、IBISを経由して、100N、Rappenから520NNへ行き、500NNを通って400NNに戻ってきたのが拙者の遍歴。途中で400や400Nなどにも一瞬寄り道したが、やはり400NNが手に合う。また市場に数が出ているので、修理用部品が入手しやすいのも利点。

　よくMontblancの1960年代２桁番台と比較されるが作りのレベルが違う。二桁番台Montblancの故障の多さは半端ではない。ペン先の良さを殺してしまう【軸や機構の情けなさ】から比べれば、Pelikan 400NNは超優等生じゃ。

　修理だけから考えれば、Montblancでは現行のNo.146が最高。最低は60年代二桁番台。樹脂もお粗末なら、機構も脆弱。ペン先だけが突出して良いが、車がエンジンだけでは走れないのと同様、萬年筆もペン先だけ良くてもしようがない。

　400NNに発生しやすいトラブルは三つある。
　①インクフローが悪い
　②ペン先がグラグラする
　③ピストンが硬い

　ペン先を上から見るとペンポイントが詰まっている。どのメーカーでもそうだが、ペン先先端の寄りが強ければ、インクは出にくいし、出たとしてもムラになる。海外ではこのムラをありがたがる人もいるのか、おおむね寄りが強い。

　またペン先も左画像のように、ずいぶんとお辞儀させてある。ペン先をお辞儀させればスリットは詰まり（悪い方向）、ペンポイントの腹が開く（良い方向）。このバランスを取りながら書き味を微調整するのが、調整の醍醐味じゃ。

　それにしても美しいカーブ！100や100Nのペン先と比べても圧倒的に美しい。萬年筆が生まれてから今日に至るまでに生まれた全てのペン先の中で、最も美しいのがPelikan 400NNのソレではないかと思う。

　Pelikan 400NNの復刻に奔走した諸先輩の気持ちがわかるようになってきた・・・

　ソケットから外したペン先。やはりスリットが詰まりすぎている。このお辞儀の具合ではペンポイント先端に隙間を空ける調整をするのは困難。従って多少でも寄りの力を弱めるようにする。これには指の力と、スキマゲージを使う。

　この時、スキマゲージを背中側から突っ込んで捏ねるよりも、腹側から突っ込んで捏ねる方がよい。捏ねるとスリット両端にかならず盛り上がりが出来るので、それを裏に持っていけば目立たないので作業時間が短縮できる。

　こちらはペン芯。二ヵ所ほどティッシュのかけらが詰まっているが、この程度でフローが悪くなったりはしない。ま、見映えが悪いので取り除いておこう。

　ピストンが死ぬほど硬いという症状の根本療法はピストンを変える事。しかしこれは部品が無いと出来ないので、応急処置としてボンド・シリコンスプレーを使っている。ソケットを外して胴体内部に吹き付け、ピストンを２～３回上下すれば嘘のように軽くなる。数ヶ月すればまた硬くなるが、同じ事を繰り返せばよい。部品取りの為に新たな400NNを入手するよりはるかに安いスプレー缶で一生使えるはず。利用頻度の高い拙者でも７年使って20%程度しか減っていない。

　ペン先がグラグラする原因はソケット。400NNや140の末期モデルではエボナイト製のソケットではなく、プラスティック製の弱い素材をソケットに使っている。また保守部品として提供されたのも、このプラスティック製のソケット。ところがこれが良く割れる。拙者が今まで見てきた物は100%割れていた。

　割れるとペン先とペン芯をゴム板でつまんで左に回しても空回りするだけ。まっすぐ引っ張ればスポっと抜ける。この状態なら必ずプラスティック製ソケットに変わっているはず。

　首軸から割れたソケットを外すのは大仕事になる場合もあるので覚悟が必要。拙者は歯科用のメスを使っている。

　割れたソケットの取り外しが出来れば、あとは現行のソケットが利用できる。なんとピッチが400NNとまったく同じになっている。400NNとM400でソケットが流用できるというのがおもしろい。

　これが現行のソケットを嵌めた状態。ペン先の寄りは既に調整してあり、非常に弱い寄り！しかしペンポイントにスキマが出来るほどではない。

　もちろん腹開きになっているので、背中側のペンポイントは接していても、腹側は離れている。そこにインクがどっぷりと溜まっているので、長時間使わなかった後以外は書き出しでインクが切れることは無いはず・・・

　これが完成した全体像。非常に機能的でまたく無駄が無いデザインじゃ。惚れ惚れとはしないが、感心してしまう。フェラーリではなく、ワーゲンビートルを見るような気持ちかな・・・

　インクフロー向上はペンポイントの寄りを弱くして研磨
　硬いピストンはシリコンスプレーでスムーズに
　グラグラのペン先はソケット交換

　これらの作業で完全に復活した！

今回執筆時間：5.5時間】画像準備１.5h　調整2.5h　執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
　向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間

Posted by pelikan_1931 at 05:00│Comments(11)│

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この記事へのコメント

のもさん

萬年筆研究会【WAGNER】はアマチュア集団なので、部品販売はしていません。
400NNのソケットは現行のM400やM200と互換性があるので、M200の中古を入手して交換することは可能です。

ただしペン芯とペン先との位置調整は微妙なので、可能ならWAGNER会場へ持ち込んでいただければ5分で最高の状態になりますよ。

Posted by pelikan_1931 at 2017年06月26日 20:04

はじめましてこんにちは。のもと申します。
最近万年筆の楽しさに目覚め、日々万年筆のことばかり考えて
過ごしております。もともと機械いじりが好きなので
HP、楽しく拝見させていただいております。
一つ質問させてください。
最近、ペリカンの400NNを入手したのですが、
ソケットが記事にあるような透明のものでやはり割れていました。
M400の現行品が互換可能とのことですがこちらはどこかでソケットだけ
入手することは可能なのでしょうか？
ペリカンジャパンに問い合わせたところ、400NNは古すぎて
修理不可といわれてしまいこちらでお聞き出来ればと思い
書き込みさせていただきました。
もし回答可能であれば、入手先など教えていただけると嬉しいです。

Posted by のも at 2017年06月26日 19:29

堀尾泰彰さん

ソケットが割れているものは、現行のソケットで代替すべくM200関係のジャンク品を捜してはいかがでしょう。

また100の方は弁の代替部品が存在しませんので、おそらくは修理不能でしょう。ただし現物の状態をみないと判断できないので。安濃であれば萬年筆研究会【WAGNER】へ持ち込んで下さい。
萬年筆研究会【WAGNER】のペンクリは参加者に対するサービスです。

Posted by pelikan_1931 at 2012年04月08日 18:16

ネット上で修理記録をたまたま拝見し、あなたの感性豊かな記事にそうだそうだと同感する点が多々あり、失礼とは思いましたが、突然、お便りさせていただきます。
思えば小生も中学生時分から万年筆が好きになり、１９６７年高校生の時に、やっとためた５０００円を握りしめ、丸善で４００NNの最後の１本を、売り惜しむ店員とけんかして手に入れた思い出があります。その後、このペンは大学生の時に一度ソケットが割れましたが、当時、高田の馬場近くにあった万年筆専門店（おじさんが一人でやっていた小さな店でした）で、旋盤でエボナイトの棒から削り出して部品を製作してもらったおかげで、現在まで、トラブルなく、健全に活躍しています。
ところで、その後、

（１）他のPelikan４００NN,１４０を購入しましたが、ソケットが割れてペン先がぐらついて、困っているものが数点あります。ソケットがペン先とともに外せたもの、ソケットのみ軸に残ったものといろいろですが、何か良いアドバイスをいただけないでしょうか？
当方の観察によれば、この部分の材質も当初のものはエボナイトを削り出したようなもので硬質で丈夫ですが、後の代替え品（？）は透明なプラスチックでよく割れるようです。

（２）昔、ドイツに行ったときに手に入れた、古い　PELIKAN　１００　を１本だけ所有していますが、ピストンがインクを全く吸い込みません。他の部分は割れとか痛みはないのですが、これは修理は可能でしょうか？　

以上、２点、まことに勝手なお願いで申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

Posted by 堀尾　泰彰 at 2012年04月08日 10:43

師匠、私はこれまで４００ＮＮよりは４００派、特に初期のニブのペリカンの絵が刻印されていないタイプのニブの柔らかさに嵌っていたんですが、４００ＮＮのペン先のカーブの美しさまでは気が付きませんでした。それでもやっぱり古い４００がお気に入りかな。。。いずれにせよ、この時代のペリカンは良い仕事してましたね。所で、私の愛車は２００２年モデルのニュービートル。仰られるように４００ＮＮと通ずるところがあるかも。お尻の辺りの曲線美はどちらも最高です。

Posted by venezia 2007 at 2007年10月30日 08:01

kugel_149さんも記事にされていましたね。↓
http://blog.livedoor.jp/kugel_149/archives/51140297.html#comments

Posted by 二右衛門半 at 2007年10月29日 19:33

金無垢かぁ。。。
それも良いなぁ♪

質問コーナーその４に書きましたがヤフーニュースで万年筆ブームについて取り上げられていました。
下記のURLを参照ください。
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/economy/retail/?1193640267

ぱいたんさんがいち早く記事にされていました。
「道化は踊る」内↓
http://moon.ap.teacup.com/a_fool_dances/1195.html

Posted by 二右衛門半 at 2007年10月29日 19:20

Bromfield しゃん

　インクを吸わなくなるトラブルが多いので要注意。これだけはごまかせません・・・

Posted by pelikan_1931 at 2007年10月29日 18:06

二右衛門半しゃん

どうせなら720NN　・・・　やはり金無垢が・・・

Posted by pelikan_1931 at 2007年10月29日 18:04

「最低」の「60年代二桁番台」を最近２本、入手したばかり。これは困ったことになるかもしれません。

私が先日運転した走行距離２０万キロ以上の友人の車のように、大事に、ごまかしごまかし使うようにします。その友人曰く、車の「オイルは漏れた分は足せば良い」。万年筆の場合、「インクは漏れた分・・」ということになるのでしょうか。不安が過ぎります。

Posted by Bromfield at 2007年10月29日 14:51

こーゆーのを見せられると欲しくなるなぁー。
目の毒です。

400NNはM&Kは見るし、持っているけど・・・。

Posted by 二右衛門半 at 2007年10月29日 07:55

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