2007年11月07日

水曜日の調整報告 【 Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消 】

2007-11-07 01 これはスティピュラのピノキオ。前回紹介したのと同じ持ち主であるが、仕様はかなり異なっている。依頼内容は【持久力の向上】。書き続けていると途中でインクが切れてしまう現象が頻発するとの事じゃ。これは初期のスティピュラのペン芯によく発生した問題点だが、インクフローの良いデルタのペン芯と交換したら解決した。要するにインクフローを改善すれば、この現象が発生する確率は下げられるということじゃろう。

2007-11-07 02 左の画像のように、キャップの中は鮮やかなエボナイト製だが、キャップの外は曇っている。直射日光に長時間さらされたか、蛍光灯の下で紫外線に毎日さらされていたか・・・いすれにせよ、このエボナイトの変色というのは、なかなか良い。昔は大嫌いで、すぐに磨きに出していたが、最近では曇り度合いが好きで、わざと熱湯に入れて曇らせたりしている。

2007-11-07 03 先日のピノキオは14金ペン先だったが、エボナイト製ピノキオには18金ペン先が付いている。限定品だったかな?

 ペン先のスリットはガチガチに詰まっている。ただスティピュラのペン先は素材が柔いので指先でグっと力をかければすぐにスリットが開くので調整
はしやすい。反面、筆圧の強い人に貸すと一瞬で調整が狂ってしまう。極論すれば【イタリアメーカーの萬年筆を貸す=調整が狂う】ということじゃ。

2007-11-07 04 横から見ると、ペン先とペン芯が離れている。これではあるタイミングでインク切れが起こっても不思議はない。おそらくは以前使っていた人の筆圧が高かったのであろう。依頼主の筆圧は普通だから・・・

 ペン先はMだが、横から見た姿は美しい。多少研げば非常に美しいスタブの書き味が堪能できよう! 残念ながら依頼者は縦横同じ線幅の萬年筆が好きなので、【Stub】ではなく【太めのM】に研いでおいた。


2007-11-07 05 これは吸入機構にも凝っている。回転吸入式で尻軸を回せばインク吸入が出来るのだが、胴軸の中央を回すと、中に大きなコンバーターが内蔵されている。この大型コンバーターの取手部分が尻軸部分とかみあって回転吸入のように使えるのじゃ。

 実はこの大型コンバーター方式はスティピュラの回転吸入式のほぼ全てに使われている。ノベセントエトルリアもこの方式だった・・・

2007-11-07 06 スティピュラのペン芯は、画像の向かって左端が細くなっている。一方、MontblancやPelikanの回転吸入式用のペン芯にはこの管のような部分がない。

 スティピュラ製萬年筆についているペン芯はカートリッジやコンバーターでも使えるように、必ず細い管の部分がある。こういうペン芯は一般的に、回転吸入式専用のペン芯よりもインクフローが悪いような気がする。ちなみにアウロラのペン芯も回転吸入式用とコンバーター式では同じ物を使っている。

 MontblancのNo.146とNo.147ではどうなのかな? No.147用のペン芯には管がついているのかな?あるいは、別の方法でやっているのかな? 気になるなぁ・・・


2007-11-07 07 こちらがスリットを若干開いた状態。さらにスタブ状の書き味を多少通常のMに近い状態に研ぎ上げた。そしてペン芯はインク誘導液につけてインクの流れを良くした。このインク誘導液をインクに混ぜようとする人【画伯】もいるが、この液はインク自体に効果があるのではなく、プラスティックとインクのなじみを良くするだけじゃ。混ぜると滲みが大きくなるので、【よゐこ】は真似しないように・・・

2007-11-07 08 こちらが首軸に取り付けた状態。ちゃんとスリットが開いているのが確認できよう。それにしても刻印が多いペン先じゃな。ペン先の刻印は少ないほど良いといわれている。刻印を打った所に力が加わり、弾力が無くなったり、もろくなって割れやすくなるらしい。これ金属工学科出身で自らも金ペンを作っていた人からの受け売りじゃ。スティピュラにもシンプルな刻印の限定品がある。恐ろしく書き味が良い。弾力もすごいし・・・刻印がシンプルな方が良いのなら、作り手側の自己主張としての刻印は不要じゃ。偽造防止とか、年代特定用なら歓迎。小さな小さな刻印でお願いしたい・・・

2007-11-07 09 これが横顔。ペン先とペン芯とのあいだのスリットは無くなっている。もしエボナイト製ペン芯であれば、ペン芯側を曲げるのだが、プラスティック製ペン芯の場合は、元に戻ってしまう確率が高いので、ペン先側をほんの少しお辞儀させた。

 このお辞儀によって、ペン先を上に反らせるには相当の力がいるようになる。すなわち、多少の筆圧をかけてもペン先とペン芯が離れるようなことはない。ただし、若干書き味が硬くなる。幸いなことに依頼者は刻むようにしかりとした文字を書く。従って、むやみに柔らかいペン先よりも多少弾力が少ないモデルを好んで使っている。おそらく【お辞儀】は書き味向上に繋がったであろう。

 それにしてもエボナイト製のピノキオは良い! 久しぶりに収集目標が出来た感じじゃ!


今回執筆時間:4.5時間 】 画像準備1.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間
 

【これまでの調整記事】

2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF
2007-06-29   Pilot Capless Ice Blue 18K-B 
2007-06-27   Pelikan 1935 Blue 18K-B
2007-06-25   Montblanc No.742 14C-M
2007-06-22   Montblanc 60年代 No.149 18C-F
2007-06-20   Pelikan 500N 茶縞 14C-EF
2007-06-18   Pelikan 400NN 茶縞 14C-OF  
2007-06-15   Pelikan 400 茶縞 14C-HBB
2007-06-13   Pelikan #350 マーブルブルー 12C-HF
2007-06-11   Montblanc 50年代 No.142 14C-F
2007-06-08   シェーファー コノソアール 赤軸 18K-F
2007-06-06   OMAS 360 Demonstrator 18K-B
2007-06-04   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF 
2007-06-01   シェーファー ニュー・コノソアール 18K-B

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
以前のノベセントはソケットをペン先がわから回すと、大型コンバーター毎外れて、パニックになったことがあった。が、すぐに、そういう設計だとわかった。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月09日 07:07
 このピノキオと同色のエボ軸ノベセントを持っているのですが、同じ症状があるため、とても参考になりました。早速、帰ったらチェックしてみます。

 それと、エボ軸のはコンバーター(というよりタンクと呼びたい)による回転吸入式だというのを初めて知りました。レジンの方の尻軸は、嵌め殺しになっているんでしょうかね。どちらかというと、あの不安定な尻軸よりも、レジンの嵌め殺し尻軸の方がキャップを差したときの安定感があって好きなのですが…。

 そういえば、M320グリーンのBを新品で(喜び勇んでチェックもせずに)買ったのですが、このピノキオと同様にペン先とペン芯が離れていてインク切れを起こしてました。現在クレームにて対応中です。
Posted by しまみゅーら at 2007年11月07日 09:03