今回の依頼人は、あの【ダメ出しの女王】。彼女が持ち込む物は、いつもかなりの難物。今回はParker 75のわりと古いモデル。フラットトップだが、首軸の痩せが非常に少ない。
Parker 75の弱点は首軸の樹脂が痩せてしまうこと。軸は純銀で丈夫、ペン先もユニット式で丈夫な上に、ニブ単体でも大量に販売されたので、中古市場にいくらでもある。ところが完全な首軸が無い。
オークションでは程度の良い首軸ユニットは、程度の良くない首軸がついた純銀のParker 75全体よりも高くなることもしばしばあるほど。程度の良い首軸はもはや宝じゃ。インクを入れて使わなければ劣化して痩せる事は無いようなので、コレクションにするなら絶対にインクを入れない事じゃな。
さて依頼事項じゃが・・・左の極細のペン先の書き味を上げて欲しいとのこと。インクは出ないし、ひっかかる・・・これを直して!ということじゃ。
これくらい細ければ引っかからない方がおかしい。いわゆる無理難題というやつじゃ。しかもこいつは、XFの中でも特に細いのではないかな?
横から見ても、金属部分に腐食が無い。相当大事に使われたか、使われていなかったじゃろう。
これだけガッチリとペン芯ユニットの食い込んでいると抜くのは困難じゃ。適当な調整して【ダメ出し】を何度もくらうくらいなら、もっと程度の良いXFと交換してしまおう。女王が重視するのは、書き味であって、萬年筆の各部品の時代の整合性ではないからな。
そこで部品箱に転がっていたXFを拾い集めてみたのが左の画像。極細とはいえ、ペンポイントの大きさにはずいぶんと差がある。
この中では左から二番目が比較的ペンポイントが大きそう!これと取り替えしまおう・・・!
というわけで、元々のXFと取り替えるXFを並べてみた。表側から見た画像が左。上がオリジナルで下が交換用のもの。ペン芯の構造はまったく同じだが、ペン先の形状は大きく異なっている。
オリジナルのニブはペンポイント周辺からさらに角度を付けて削っているように見える。それに対して代替用はペンポイントまでストレートな斜面となっている。
今度は上の画像とは上下が逆。下がオリジナルのペン先で、ペン芯には【63】という番号が入っている。これはXFを意味するらしい。
代替品の方には直接【XF】とアルファベットで刻印してある。昔はペン先のバリエーションが非常に多かったので番号でないと表現できなかったのであろうな。
では・・・ということで、一番ペンポイントが大きなペン先を取り出してルーペで眺めてみたのじゃが・・・とうてい【女王】を満足させられる研ぎ上げる自信がない・・・
ということで、プリミア用の18金ペン先を使うことにした。これは以前、久保工業所で何個か手に入れた中の一個。【XF】や【63】とは比べものにならないほど大きなペンポイントがついている。
プリミアはParker 75の高級版として出したので、あまり冒険をしなかった。ただ、高級な材質を使った割には首軸が安っぽかった。Parker 75の弱点を解消する為に、首軸の素材を変えたのだろうが、これが敗因。Parker 75ならパチン!と閉まるキャップが、プスン・・という気持ち悪い感触で閉まる。これでは熱狂的なParker 75ファンの心はつなぎ止められない。あわててDuofoldの復刻版を市場に投入したというわけじゃ。
プリミアですばらしいのはペン先。14金ペン先と18金ペン先を比べると、通常は14金ペン先の方が良いものだが、プリミア(18K)に限ってはParker 75(14K)より良いペン先!Parker 75のグリグリというような書き味は解消されて、フェザータッチに近づいている。
ということで、この18K-Bのペン先を装着した。なかなかどうしてよく似合っている。Parker 75の首軸は微妙な個体差があり、予備のペン先ユニットを差し込んでも、ユルユルで使えないこともあるが、今回は見事に決まった!
さてペン先である。相手が【女王】であるから、当然調整は必要。気をつけるべきは【女王】は書き味確認の時に、【文章を書く時には絶対に傾けない角度にペン先を傾けての書き味チェックが大好き】ということじゃ。
従って、書き味が固まってきた人の調整では満足できなくなっている。そこで調整したかどうかわからない調整にした。スリットが開いている事に気づかなければ調整していないと思うかも知れない。いや、きっとそう思うはず。それでいて【なかなか良いじゃない】と言わせる調整にした。
ただし、そこは【ダメ出しの女王】のこと、そう簡単には満足しない。そういう時には対抗策として、自分で調整してもらう事にしている。拙者の目の前で【女王】が四苦八苦しているうちに拙者は【王子】とランチに行って、帰ってみたらペンポイントは危機一髪!という状態が再現するかも知れない。今からワクワクじゃ!
今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間