2007年11月19日

月曜日の調整報告 【 Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱 】

2007-11-19 01 今回の依頼人は、あの【ダメ出しの女王】。彼女が持ち込む物は、いつもかなりの難物。今回はParker 75のわりと古いモデル。フラットトップだが、首軸の痩せが非常に少ない。

 Parker 75の弱点は首軸の樹脂が痩せてしまうこと。軸は純銀で丈夫、ペン先もユニット式で丈夫な上に、ニブ単体でも大量に販売されたので、中古市場にいくらでもある。ところが完全な首軸が無い。

 オークションでは程度の良い首軸ユニットは、程度の良くない首軸がついた純銀のParker 75全体よりも高くなることもしばしばあるほど。程度の良い首軸はもはや宝じゃ。インクを入れて使わなければ劣化して痩せる事は無いようなので、コレクションにするなら絶対にインクを入れない事じゃな。

2007-11-19 02 さて依頼事項じゃが・・・左の極細のペン先の書き味を上げて欲しいとのこと。インクは出ないし、ひっかかる・・・これを直して!ということじゃ。

 これくらい細ければ引っかからない方がおかしい。いわゆる無理難題というやつじゃ。しかもこいつは、XFの中でも特に細いのではないかな?

2007-11-19 03 横から見ても、金属部分に腐食が無い。相当大事に使われたか、使われていなかったじゃろう。

 これだけガッチリとペン芯ユニットの食い込んでいると抜くのは困難じゃ。適当な調整して【ダメ出し】を何度もくらうくらいなら、もっと程度の良いXFと交換してしまおう。女王が重視するのは、書き味であって、萬年筆の各部品の時代の整合性ではないからな。

2007-11-19 04 そこで部品箱に転がっていたXFを拾い集めてみたのが左の画像。極細とはいえ、ペンポイントの大きさにはずいぶんと差がある。

 この中では左から二番目が比較的ペンポイントが大きそう!これと取り替えしまおう・・・!

2007-11-19 05 というわけで、元々のXFと取り替えるXFを並べてみた。表側から見た画像が左。上がオリジナルで下が交換用のもの。ペン芯の構造はまったく同じだが、ペン先の形状は大きく異なっている。

 オリジナルのニブはペンポイント周辺からさらに角度を付けて削っているように見える。それに対して代替用はペンポイントまでストレートな斜面となっている。

2007-11-19 06 今度は上の画像とは上下が逆。下がオリジナルのペン先で、ペン芯には【63】という番号が入っている。これはXFを意味するらしい。

 代替品の方には直接【XF】とアルファベットで刻印してある。昔はペン先のバリエーションが非常に多かったので番号でないと表現できなかったのであろうな。

 では・・・ということで、一番ペンポイントが大きなペン先を取り出してルーペで眺めてみたのじゃが・・・とうてい【女王】を満足させられる研ぎ上げる自信がない・・・

2007-11-19 07 ということで、プリミア用の18金ペン先を使うことにした。これは以前、久保工業所で何個か手に入れた中の一個。【XF】や【63】とは比べものにならないほど大きなペンポイントがついている。

 プリミアParker 75の高級版として出したので、あまり冒険をしなかった。ただ、高級な材質を使った割には首軸が安っぽかった。Parker 75の弱点を解消する為に、首軸の素材を変えたのだろうが、これが敗因。Parker 75ならパチン!と閉まるキャップが、プスン・・という気持ち悪い感触で閉まる。これでは熱狂的なParker 75ファンの心はつなぎ止められない。あわててDuofoldの復刻版を市場に投入したというわけじゃ。

 プリミアですばらしいのはペン先。14金ペン先と18金ペン先を比べると、通常は14金ペン先の方が良いものだが、プリミア(18K)に限ってはParker 75(14K)より良いペン先!Parker 75
グリグリというような書き味は解消されて、フェザータッチに近づいている。

2007-11-19 08 ということで、この18K-Bのペン先を装着した。なかなかどうしてよく似合っている。Parker 75の首軸は微妙な個体差があり、予備のペン先ユニットを差し込んでも、ユルユルで使えないこともあるが、今回は見事に決まった!

2007-11-19 09 さてペン先である。相手が【女王】であるから、当然調整は必要。気をつけるべきは【女王】は書き味確認の時に、【文章を書く時には絶対に傾けない角度にペン先を傾けての書き味チェックが大好き】ということじゃ。

 従って、書き味が固まってきた人の調整では満足できなくなっている。そこで調整したかどうかわからない調整にした。スリットが開いている事に気づかなければ調整していないと思うかも知れない。いや、きっとそう思うはず。それでいて【なかなか良いじゃない】と言わせる調整にした。

 ただし、そこはダメ出しの女王】のこと、そう簡単には満足しない。そういう時には対抗策として、自分で調整してもらう事にしている。拙者の目の前で【女王】が四苦八苦しているうちに拙者は【王子】とランチに行って、帰ってみたらペンポイントは危機一髪!という状態が再現するかも知れない。今からワクワクじゃ!


今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備2.5h 調整1.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


【これまでの調整記事】

2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 

2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF

Posted by pelikan_1931 at 06:00│Comments(13) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
丸刈太しゃん

当時の設計では、斜面を綺麗に削ってXFを作ろうとすれば、ペン芯先端も削る必要があったからではないかな?好きでこうしているのでは無いだろうな。
ペン芯が上から見えるというのは一番好まれない状況なので、こうするしかなかったのであろう。

Parker 75シリーズで一番好きなのは、回転繰り出し式のペンシルじゃ。これは日常的に愛用している。

萬年筆は首軸問題で、最近は退いている・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月22日 06:04
こんばんわ。

初期のUSA製XFは、このように両脇を削り込んだ、円盤を2枚
向かい合わせたような形になってますね。米国人が好んで使ったとも
思えませんが。この「肩」が嫌いなので、直線に削り落としたものを
作ったことがあります。その結果フワンフワンになりましたが。

しかしこの調整は、もはや「脳移植」ですね。別の人格になったでしょう。
Bニブのきれいなこと。私の好みです。
未使用の首軸は、たしかに軽く50ドル以上しますね。万年筆界でも上位に
入る貴重な資源になりつつあるでしょうか。もう作れないですし。末永く
75を使うためには、予備の首軸を確保する必要があります。
Posted by 丸刈太 at 2007年11月21日 22:20
monolith6しゃん

フランス製14K末期のXXBニブというのは見たことありませんな。
ぜひ拝見させてくだされ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月20日 19:04
あおいしゃん

最近は調整人も増えたので、よりどりみどりじゃよ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月20日 19:02
 フランス製18KのXXBニブなら、手元に3本あります。

 米国製ニブはXB止まりですから、それと比べるならば確かに大きなペン・ポイントであると言えなくもありません。

 それとは別に、フランス製14K末期のXXBニブも1本ありますが、これも大きいですよ。ただ、私はBB以上のニブなら、ペン・ポイントはモンブランやペリカンのそれのように肩が四角い形状が好きなので、パーカーのように煎餅みたいなペン・ポイントというのは外見上余り好きではないんです。デュオのXXBとかもこの形状に研ぎ上がっているものをしばしば見かけますね。偶に四角っぽいものもありますが。
Posted by monolith6 at 2007年11月20日 12:52
この度は、大変素晴らしいニブをつけて頂き、ありがとうございます!
卓越された調整も非常に楽しみにしております。
しかし万一、調整モドキをせざるを得なくなった場合
(いつの間にか乗せられていた場合)、
席を外されますと、
せっかくのお気遣いのイリジウムが、
またXFになってしまいますので、
その際はぜひ、ご指導の程、よろしくお願いします!
・・・使用しようと思っているのですが、首軸が痩せてしまうのはコワイので、
ロイヤルブルーを使用したいと思っております。
痩せること、知りませんでした!
Posted by あおい at 2007年11月20日 12:25
monolith6 しゃん

首軸の変化に熱の影響もあります。グツグツ煮え立ったお湯に首軸を浸けて、内部を清掃しようとしたことがありましたが、多少痩せるどころか、ものすごい変形をしてしまいました。それ以降、Parker 75の首軸洗浄には水かぬるま湯しか使いません。

インクの酸による影響が大きかったんですな・・・

Parker 75 + プリミアのペン先というのは、拙者にとって最も書きやすい組み合わせなので、日常使いしたいのじゃが、首軸痩せがかわいそうで使ってなかった・・・

酸性が問題なら、中性のペンマンで使ってみようかな・・・あれはまったく問題が無いはずなので。(Parkerだし・・)
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月20日 07:29
monolith6しゃん

プリミアのニブはParker 75より若干柔らかいようです。

独特の【グリグリ】というような書き味が影を潜め、スラスラと書けます。ただ拙者の父親のようにParker 75に慣れていた人は、プリミアの書き味はしっくり来なかったようです。

フランス製の18K-XXBはペンポイントが大きかったですぞ。めだかしゃんのParker 75についてます。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月20日 07:21
Montblancのロイヤルブルーなら平気でしょう。あとPelikanのブルーとWatermanのブルーも大丈夫でした。それと当然ですが、ペンマンも大丈夫。
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月20日 07:17
首軸が痩せるのは大問題ですね。
バイセンテニアル、飾っておくことにします。
Posted by 二右衛門半 at 2007年11月20日 06:34
 米国製14Kニブよりもフランス製18Kニブの書き味の方が良いとは、不覚にも気づきませんでしたが、ペン・ポイントを削り筆記角度に合わせる、という調整を前提とするなら、フランス製(14K&18K)よりも米国製(14K)の方が、どんなニブのサイズであれ、ルテニウムのボリュームは圧倒的に多いです。フランス製はルテニウムがほんのちょこっとしか溶接されていなくて、削りしろが殆どないという感じ。私には調整困難です。
Posted by monolith6 at 2007年11月19日 19:24
 久々の75ネタですね。首軸の収縮については、かつて私もインクではなく熱変化のせいだ、等と誤解しておりましたが、確かにインクによっては収縮を引き起こします。怖いのは、没食子酸やタンニン酸を含むパーマネント・インクを使用していた場合で、特に昔のブルー・ブラック・インクとの相性が悪かったようです。首軸が収縮するのは大抵このインクを入れていた場合です。現代においては、ブルー・ブラックに限らず酸性の強いインクを吸入し続けた場合には、首軸が収縮しないまでも、特に83年から89年の終わりまで生産された首軸先端に金色の金環が付いたものは、この部分が朽ちてしまいます。

 このためもあってか、90年から93年までに生産されたものは首軸そのものの構造や形状を見直しております。このタイプが最も収縮には強いのではないかと思います。しかし一方で、ペン芯がお辞儀しやすいという欠点もありますが。
Posted by monolith6 at 2007年11月19日 19:15
うわっ!
このニブはいいですねえ。形がすこぶる美しい。
いきなり、超優等生が登場した感じ。

首軸、痩せるんですね。インクをぬこうかな…。
Posted by めだか at 2007年11月19日 09:58