2007年11月26日

月曜日の調整報告 【 Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊 】

2007-11-26 01 今回の依頼品はMontblancのNo.147。No.146に似ているがカートリッジ専用。コンバーターは使えない。昔は【トラベラー】と呼んでいた記憶がある。旅行の際、インク壺を持って行かなくても良いので便利!ということだった。

 No.146の太さは好きだけど、インク瓶は持って歩きたくない・・・という人向けに開発したのだろう。専用の萬年筆を作る発想がMontblanc。Viscontiは【携帯用インポッド】を作った。

2007-11-26 02 尻軸をねじるとカートリッジケースが現れる。ここにヨーロッパ共通カートリッジを背中合わせに入れて、ネジ込むとカートリッジがセットされる。いったんセットしたらインクが出なくなるまで尻軸は捻らない方がよい。頻繁に開け閉めしているとカートリッジの口からインクが漏れだしてしまう。

 ちなみに、ほとんどの人が尻軸を開けてしまい、インクを大量に漏らしている。やはりお約束は守らねばな。

2007-11-26 03 ペン先は14KのOM。左に90度捻って書けば、縦細横太の線が引ける。依頼者は、このオブリークで普通に字が書けるようにして欲しいとのこと。

 拙者の自説を聞いていたためか、【OMの形状は変えないで、普通に右手で持って字を書けるように調整せよ】という依頼内容。そうそう、よい子じゃ!

 最近独逸方面からやってくるVintage萬年筆にはオブリークのニブがついていることが多い。それに当たってしまった人は、なんとかしてオブリークを普通のニブの形状に削り直すという依頼を調整師に出す。

2007-11-26 04 しかし形状を変える必要は全くない。正しい持ち方をしている人には、オブリークの形状のままでも書き味に違和感のない調整が可能。

 せっかくの変化に富むペンポイントを平らに研磨したところで、【羊の皮を被った狼】のような大変化ではなく、せいぜい羊が山羊に変わるくらいのチビっとした変化。しかも平凡になる。なら無理に削ることはない。素材の味を生かしたまま調整すればよい。その方が二次マーケットでの活躍範囲も増えるはず。

 
左画像が調整前。スリットがギチギチに詰まっていてインクが出そうにない。ペンポイントの腹が開いていればインクフローは良くなるのだが、この個体ではそちらもギチギチに詰まっている。

 スリットを開く作業はペン先を外してから実施した方が微調整が出来る。No.147のように、前から引っ張って抜くしかないモデルは、ペン芯を抜く際にフィンを斜めにしてしまう危険があるので、ペン先を持つ位置に注意が必要!

2007-11-26 05 横顔を見ると理想の位置。当たり前でこの時代のMontblancは既にペン芯とペン先の位置が固定されるようなストッパーがペン芯についている。位置ズレが出来る余地がないのじゃ。

 それに軽々しく位置をずらすとインクフローに影響がある。ペン先との密着場所を十分に考えた複雑なペン芯設計になっているので、動かせない!というのが事実じゃ。

2007-11-26 06 こちらが調整前のペン先。いかにも呼吸が苦しそう。調整を始めたころ、長原先生に自分の調整を見せた事がある。当時は紙当たりだけ調整していて、インクフローにはほとんど目がいっていなかった。その際、【こりゃ、呼吸困難になっておる。息が出来んゆうとる】と言ってParkerのイタリックのニブを【グニャグニャポン!】と力一杯こねたら信じられないほど書き味が良くなった。そのニブを持ち帰ってスリットを拡げてくれたのに気付いたのじゃ。

2007-11-26 07 そこでスリットだけ少し拡げた状態が左。見ただけで呼吸が楽になったように思えるじゃろう?

 ここから形状は変えずに裏側だけを研いでいくのじゃ。これはペンポイントがBのケースと同じように研げば良い。それにしてもOMというのは通常のMよりもずいぶんと角張った感じ。こういう角張った方が見映えは良いなぁ!

2007-11-26 08 こちらが研ぎ終わって首軸に装着した状態。スリットが開いた以外はまったく変わっているように見えまい。腹側だけを調整しているからじゃ。

 背中側はほんの少しエッジを落としただけ。当然、萬年筆をひっくり返して書く調整は出来ない。

2007-11-26 09 横顔は左のとおり。右側(ペンポイントの大きい側)から見た画像なので、ペンポイントの斜面がまるで初心者調整のように斜めになっているが、こちら側が直接紙にあたる事は少ないので、丸めたところで意味がない。というかペン先が滑る確率が高まるだけ。

 大きい方のペンポイント先端を出来るだけ紙に当てないように調整すればOMであってもBの書き味が楽しめる。こりゃ病み付き
になりそうじゃ。


今回執筆時間:3.0時間 】 画像準備1.0h 調整1.0h 執筆1.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


【これまでの調整記事】

2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 

2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF

Posted by pelikan_1931 at 08:00│Comments(7) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
こんにちは 先日はありがとうございました。

ところで、自分で分解掃除を行い

良い状態で使っていきたいので分解方法を教えてほしいのです。

144 147 スターウォーカーです。

フィンを倒さぬように、引き抜くには

ゴム板でニブの根元をつまんで引き抜けばいいですか?
Posted by もりもり at 2011年11月07日 21:04
ぽん太郎しゃん

そのとおり。
ま、正確に表現すれば、自由度が大きいので、インクフローを改善できる幅が大きいということじゃがな。
店頭販売されているNo.146がすべからくNo.147よりインクフローが良いとは言えないのも事実・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月30日 06:28
師匠

なるほど、やはり違いがありましたか。

ペン芯にボトルネックがあるとインクフローが悪くなる、とはよく言われることですが、その理由がさっぱりわかりませんでした。
「ボトルネックなし=空気の通り道とインクの通り道の設計の自由度が大きい=インクフロー良好」ということだったのですね。

ありがとうございました。
Posted by ぽん太郎 at 2007年11月29日 23:40
ぽん太郎しゃん

その通りじゃ。No.147のペン芯はカートリッジの中にペン芯の後部を差し込む必要があるため、ボトルネックがある。
一方で、No,146には無いので、空気の通り道とインクの通り道の設計の自由度が大きい。
当然、No.146の方がインクフローを良くできる。

なぜ、イタ萬は、吸入式にもボトルネックのあるペン芯を使うのか理解できない・・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月29日 19:40
147のペン芯は、146のものとは設計・構造が異なるのでしょうか?

147はカートリッジ式ですから異なりそうですが、
仮に異なるとした場合、その設計・構造の違いにより、インク供給能力にも違いが生じたりしているのでしょうか。
Posted by ぽん太郎 at 2007年11月29日 15:51
八雲しゃん

ペンを寝かせて書き、ドバドバが好きな人にとっては、全てのペンが窒息状態じゃよ・・・拙者もそうじゃが・・
Posted by pelikan_1931 at 2007年11月27日 20:05
師匠 
ありがとうございました&勉強になりました!
ペン先の状態....
も〜「窒息死」状態ですよね。
今回の147に限らず、所有している現行モンブランは
見事に?ぜーんぶ呼吸困難っぽいです。

Posted by 八雲 at 2007年11月26日 23:02