2007年11月28日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・ 】

2007-11-28 01 今回の依頼品はMontblanc No.142じゃ。入手経緯は・・・1950年代のNo.144を購入した際に、おまけとしていただいたものらしい。ところが、No.144の書き味が非常に悪いのにくらべ、こちらは書き味が悪くなかったので、主としてNo.142の方を使っていた。

 ところがWAGNERのペンクリでNo.144の書き味が激変してみると、このNo.142の書き味に満足が出来なくなってしまったというわけじゃ。

 食べ物と同じで、よりおいしい物を経験してしまうと、それまで食べていたものに満足できなくなってしまう・・・舌が肥えるという現象は、萬年筆でも頻繁に経験することじゃ。

2007-11-28 02 ペン先はFで、スリットは詰まっている。ただしFなのでインクの出はこんなものかなと考えていたらしい。ところがNo.144で盛り上がるようなインクフローを経験してしまうと、どうしてもインクフローが多い物に惹かれてしまう・・・というありがちなパターン。特にVintage Montblancでインクフローが良い細字を経験してしまうと、元には戻れない・・・

2007-11-28 03 こちらは横顔。1950年代後半の厚いペン芯を装着している。インクフローやインク漏れ対策は、薄いペン芯よりも格段に向上しているが、困ったこともある。それは後述。

 ペンポイントはほとんど摩耗していない。これが書き味が比較的良いと感じていた理由であろう。一般的に製造後50年も経過して、なお稼働している萬年筆は、愛用され続けていたものが多い。となればペンポイントは惨いほどすり減って、書き味も極悪になっているケースがほとんど・・・

 ところが、この画像でもわかるように、ペンポイントがほとんど摩耗していない。よほど筆圧が低かったか、あまり使われていなかったかであろう。ペン先の鍍金の剥がれ具合からすると、前者のような気がする。

2007-11-28 04 さて、厚いペン芯の問題だが、左図のように、ソケットを外す為の工具が使えない。この工具は1950年代前半のNo.142に合わせて作られた物だが、後期のモデルではペン芯の厚さがじゃましてソケットの凹まで届かない・・・

 結果としてこの個体では、ソケットの凹がある部分が、ペン先のスリットの延長線上から45度ほど傾いた位置になっていた。どうせ工具が届かないので、どこにあっても一緒とはいうものの、美しくはないので、正しい位置にセットしておいた。


2007-11-28 05 こちらがスリットをやや拡げ、ペン先の裏表の細かい傷やエボ焼けを取り除いた後の画像じゃ。

  ペン先表面の鍍金が多少薄くなっていることを除けば、驚くほど整った形状をしている。とても【おまけ】で差し上げるようなものではなく、一級品の書き味を持つ逸品じゃ。贈呈者は、ペン先の鍍金剥がれが商品価値をそこなうと判断したのかもしれないが、入手された人は【ラッキー!

2007-11-28 06 スリット部分を拡大すると、左のとおり。スリットは先端に行くほど間隔が狭くなっている方がインク切れの確率は減る。

 よく先端の間隔が開いていると、毛細管現象が働かず、インクが出ない・・・と誤解している人もいるが、ペン先を下に向けて書く場合には、重力やインクの引き、はたまた、ポンプ作用(萬年筆と科學の過去記事参照)などで、先端が狭まっていなくともインクは出る。ただし先端の方が狭い方が、インクフローやインク切れ対策に【有利】なのは事実じゃ。

2007-11-28 07 こちらが調整後の横顔。ペン先先端がキャップ内の天井に衝突状態だったので、多少ペン先を首軸に押し込んだ上で、クリップを固定している天冠ネジのキャップ内側部分の先端を研磨した。その部分がキャップ内部の天井になっているので、その部分を研磨すれば天井は上がる。

 これでNo.142も、既に調整したNo.144に負けない書き味になっているはずじゃ。元々の素質が良い上に、調整にかけた時間も違うので、おそらくはNo.142がNo.144を抜き返したのではないかな?


今回執筆時間:4.0時間 】 画像準備1.5h 調整1.0h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 

2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 

2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

2007-07-28   Platinum #3776 金魚 14K-太 
2007-07-25   Montblanc 70年代 No.146 18C-EF ペン先交換
2007-07-23   Pelikan 100 14C-F 2本から一本を作る! 
2007-07-20   Pelikan M800用 14C O3B → 3B  & 鍍金
2007-07-18   Pelikan #520NN 14C-M
2007-07-16   コルクが劣化したMontblanc 50年代No.144 14C-M
2007-07-13   ペン先のひん曲がったPelikan M700 トレド 18C-BB
2007-07-11   ペン芯の折れたMontblanc 80年代 No.146 14C-EF
2007-07-09   Montblanc No.74 14C-F
2007-07-06   Pelikan 400 緑縞 14K-M
2007-07-04   Pelikan #500 茶縞 14C-BB 
2007-07-01   Pelikan 400 茶縞 14K-EF

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆