2007年12月24日

月曜日の調整報告 【 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!】

2007-12-24 01 今回の依頼品はMontblancMonte Rosa。そのタッチの柔らかさで強烈なファンを持っている萬年筆。元々はNo.342の下位にあたる学童用廉価バージョンという位置づけだったと思われる。

 No.344No.342も学童用だったが、さらに小型な軸。かわいらしさから考えて女の子をターゲットにしていたのかも知れない。キャップの口の金属がMontblancの頂上の万年雪のような形になっているのがMonte Rosaの特徴。小振りなボディに、非常に小さなオープンニブが付いている。

 【小さくて肉薄】であればヘロヘロに柔らかいペン先に出来る。大きなペン先を肉薄にすると、自重でひん曲がったりする事故があり得るので、肉厚にせざるを得ない。ペン先が大きくて柔らかなペン先に憧れても無理で、柔らかさ優先にするなら小さいペン先の萬年筆を選ぶのがよい。

 戦前のSwanKawecoOsmiaなどには非常に柔らかい小型ニブが多い。このMonte RosaNo.342も柔らかいですぞ。ただし柔らかいニブは長時間執筆すると疲れるらしいがな。

2007-12-24 02 依頼内容は書き味というより、見映えの調整。ペン先が首軸に入りすぎなので、美しい位置にして欲しいとのこと。

 しかし、生贄である以上、依頼者の要望は参考程度にとどめて、拙者が考える最善の状態に調整する。それが生贄の運命じゃ。

 まずはペン先のスリットが詰まっている。かなり大きなペンポイントなのに、このスリットの状態では能力にあったインクフローが得られない。

2007-12-24 03 ソケットを外す際に専用工具が使えなかった。よく見ると、ソケットの凹がペン先のスリットの延長上に無い。これでは専用器具が使えない。そういう時には器具から作るか、ペン先とペン芯をゴム板で抜いてから専用工具でソケットだけはずすかじゃ。

 今回は後者の方法をとった。理由は肉厚のペン芯なので折れにくいから。フラットフィーダーを掴んで引き抜くと、かなりの高確率でペン芯が折れたり、歪んだりする。その点、後期のペン芯は安全じゃ。こうやって改善されているのもかかわらず、前期の危険なフラットフィーダーが好きな人が多いのが理解出来ない。実は、拙者もそうなのだがな・・・
 
2007-12-24 04 ペン先は14Cのペン先で、Mont Rosa用の純正品。それほど汚れが付着していないところから考えて、かなり萬年筆の分解を頻繁にやる人の手元にあったはずじゃ。

 表側に比べて裏側の清掃が不十分なのは、分解はするが、萬年筆の構造やインクフローについて突き詰めて考えている人ではなかったのじゃろう。ま、それが普通。

2007-12-24 05 こちらがペン芯。このペン芯には金鍍金の滓が付着している。ということは、このペン芯の上には、元々は鍍金ペン先が乗せられていたはず。そのペン先を外して、14Cのペン先を乗せ、首軸の適当な位置に押し込んだのであろう。

 この胴体には元々は鍍金ペンが搭載されてた、あるいは、鍍金ペンを乗せて使っていたペン芯を流用した・・・

 以前は、こういう推理が出来るようになるまでには、何本も分解してみなければならなかった。しかしなが、ネット社会では、今この瞬間から読者の知識となっている。

 いつの日にか、こういうペン芯に出会ったら、思い出して感慨にふけるだけではなく、徹底的に剥がして綺麗なペン芯にする事を優先するようにな! 

 ペン芯の溝の中にあるインク滓は最悪。スキマゲージで完璧に取り除くように。カッターに刃ではダメ!必ずスキマゲージで!

2007-12-24 06 こちらがこの萬年筆の最大の欠点。ペン芯の先端が上に盛り上がっている。左が上側で右が下側の画像じゃ。どうやらサンドペーパーで真っ直ぐにしようとゴシゴシ削って、仕上げをしていないと思われる。最低!

 この上にひん曲がったペン芯のおかげで、ペン先はペン芯と密着していない。これではインクは出ない!

 ネットで購入するVintage萬年筆の怖さは、こういう所にある。何千本も販売しているプロであれば、こういう事はしない。完璧に調整した物を出品している。しかし素人が出す物は、90%以上がこの手のトラブルを抱えている。

 常識で考えても、自分が気に入っていて完璧な状態の品をオークションに出すわけが無い。自分が気に入らなくなった物を、絶対に会うことのない遠隔地の人に売りつけようと考えているケースがほとんど。(プロは信用問題になるので別ですが)

 従って素人出品で完璧な物が出るはずがない! ・・・ と考えてオークションに望むのが正しい姿じゃ。ある程度の技術もあり、部品も多少は持っている拙者ですら、最近は新品以外はeBayではほとんど購入しないほど。

 eBayは二極化してきた。プロが出す物はより状態が良くなり、素人物はほとんどアウト! 計画されているヤフオクとeBayの統合後は特に注意が必要。【悪貨は良貨を駆逐する

 一見してわからなくとも、分解すれば弱点が見えてくる。海外の素人から購入するのは・・・拙者の生贄を増やしてくれるので嬉しい限りじゃ!

2007-12-24 07 こちらがスキマゲージで清掃し、ロットリング洗浄液の入った小さなガラス瓶に入れて振り回した後1時間放置、その後水で洗浄して乾燥させた状態のペン芯。ここまで綺麗になれば問題ない。ペン先とペン芯を分離しないと完全清掃できないことがよくわかったであろう。教材としては最高の生贄じゃ!

2007-12-24 08 ペン先は清掃後、スリットを多少開いた。この段階で書き味の柔らかさが予想されるような美しさ。

 ニブの拡大画像だけはいつまで見ても飽きない! 特にMonte Rosaはキャップの口の模様と同じ雪模様(波形)をペン先にも刻印している!

2007-12-24 09 こちらがペン芯に乗せた状態のペン先。スリットがごくわずかに開いて搭載されているのがわかろう。この大きさのペンポイントであれば、様々な字巾の文字を表現できる。非常に柔らかいペン先と相まって、縦書きでも十分美しい文字が綴れるのではないかな。

 調整前は、なんと【14C】の刻印の部分までが首軸内に押し込められていた。これでタッチはさらに柔らかくなるじゃろう。

2007-12-24 10 こちらは横顔。調整前には6本しか出ていなかったフィンが、調整後は8本見えている。相当前に出したことになる。

 以前はペン芯が上にめくれ上がっていた為、ペン先とペン芯を少しでも密着させようと首軸に力一杯押し込んでいたのであろう。

 ペン芯先端部のめくれを修正したので、ペン芯との密着度が上がり、スムーズなインクフローになり、タッチも柔らかくなったはず。

 ほとんどのケースで、【調整依頼】よりも【生贄提供】の方が良い結果が得られるので、そちらをお奨めする。



今回執筆時間:5.5時間 】 画像準備1.5h 調整2.5h 執筆1.5h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 

2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 
2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 
2007-08-29   Montblanc No.23246 ヘマタイト 18K-F 
2007-08-27   DELTA 20周年記念 18K-F
2007-08-25   Montblanc No.342 + No.252 そしてペン先曲がり
2007-08-22   Pelikan M1000 2.2B for 書家 
2007-08-20   Montblanc 60年代No.149 18C-M 尻軸不良
2007-08-18   Sheaffer Snorkel 金張 14K-EF
2007-08-15   Montblanc 60年代No.149 18C-OB  ハプニング! 
2007-08-13   Montblanc 70年代No.149 14C-EF → B
2007-08-11   Montblanc 70年代No.146 14C-EF from 岡山
2007-08-08   Montblanc 80年代No.146 14K-OB お好きに!
2007-08-06   Montblanc 50年代No.144-G 14C-EF
2007-08-04   Montblanc 50年代No.146 14C-M

Posted by pelikan_1931 at 12:00│Comments(2) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
venezia 2007 しゃん

書き味は値段とあまり関係はないが、耐久性はある程度値段に比例しておる。

朽ちたり、変化する事も多いので、出来るだけ自分でメンテする技を覚える事も重要じゃよ。
Posted by pelikan_1931 at 2007年12月25日 17:20
心優しきサンタクロース様、
聖なる日に最高のプレゼントを有難うございます。本当の価値ってお金での価格の高低で決められるものではないということを再確認しました。学童用の廉価版のこのペンのフローの絶妙な感覚とタッチの柔らかさは、他の高級ラインでも出せない神業だと思います。神業で生を受け、神技の調整をうけた至高の一本です。大切に後世に伝えなくてはならない一本ですね。
Posted by venezia 2007 at 2007年12月24日 12:39