今回の依頼品はPelikan 500NN。軸模様はGreenとDark Greenのストライプ。実は500/500N/500NNの緑とはこの模様のことで、通常の緑縞は発売されていない。もし遭遇したら400系のボディとアセンブルしたと判断すべきじゃろう。
500NNの軸では最も一般的なのは実は茶軸。こちらには数多く遭遇したが、このGreenとDark Greenのストライプは初めて手に取った。黒軸と見分けが付いていなかったのかもしれんな。
最近は、このRolled Goldの【多少ピンぼけしたような金の輝き】が非常に気に入っている。鍍金でもなく、純金でもない・・・という中途半端さが実によい。現在では鍍金技術が発達したので、復刻版の限定品以外でRolld Goldのボディを作ることはない。金無垢が本マグロの大トロだとしたら、Rolld Goldはトロの炙りかな・・・ペン先とペン芯は絶妙な位置にセットされている。拙者の好みとまったく一緒!ただしペン先の【寄り】は強い。筆圧の弱い人には書き出しに苦労するはずじゃ。
何故にVintageのペン先は【寄り】が強いのだろう。まったくの思いつきだが、当時の紙の質との関係があるのかもしれない。
かなり目の粗く表面処理も雑な紙に、性能の悪いインクで書く際には特別のお作法が必要だったのではないか?すなわち、ぐぐっと筆圧をかけて紙の繊維にインクを染みこませる・・・それ以降もグヮングヮンと筆圧をかけながら、ペン先のポンプ運動でインクを供給しないと、(毛細管現象にたよった低筆圧での筆記では)インクが紙につかなかった・・・・・という仮説を立ててみた。
当時の紙が無いので実験は出来ないが、目の粗い紙にはある程度の筆圧をかけないと綺麗に書けないような気がするなぁ・・・そういえば、Pelikanの社史にはスケッチブックも掲載されていたかも?スケッチブックに描くにはかなり筆圧は必要じゃ。Pelikanのペン先のお辞儀は【強筆圧でもペン先が歪まない】という条件を満たすのには最適の策。特に短い軸の140などはお辞儀の度合いが強い。 こちらはソケットを外したニブの表側。やはりペンポイントは密着している。Montblancはペン芯が曲げやすいので、ペン芯先端を上に反らせば、スリットが詰まっているペン先でも、ペン芯に乗せた時にはスリットが開くような細工は出来る。
しかし当時のPelikanのエボナイト製ペン芯は円柱に溝を彫ったような物なので、ペン芯先端を上に反らせる事が超困難!ペン先のスリットを開けるにはペン先のお辞儀を緩くすれば簡単なのだが、Pelikanではそれは御法度。ペン芯とペン先の間に隙間が出来てしまう。従って先端を横に拡げるしかないのじゃ。 表は綺麗だったが裏側には【エボ焼け】がいっぱい!これは取り除いておかないとインクフローに悪影響を及ぼす(と思う)。実は公に【エボ焼け】とインクフロー悪化を関係づけて述べているのは拙者だけだが、メーカーの中では常識なのだと思う。Omasがペン芯の裏にロジウムを鍍金してあるのは、【エボ焼け】によるインクフロー悪化を防ぐため。エボナイト製ペン芯を使う宿命じゃ。
こちらはペン芯。フィンが少ないのでインクあふれ防止機能に疑問は残るものの、すばらしく美しいペン芯!スリットも2本入っているので、万一片方が詰まっても筆記に支障は出ない。Fail Safeがちゃんと考えられている。ペン芯の外周とインク溝の間に段差があり、空気が常に取り込まれるようになっている。このあたりは現在のAuroraのペン芯より設計思想が上かも?
これがペン先がぐらつく原因じゃ。プラスティック製の安い部品が使われている。拙者が見た物は100%割れていたので、非常にインクに弱い素材なのか、膨張収縮に弱いのであろう。
これがオリジナル部品なのか修理部品なのか、はたまた純正なのか修理業者製造なのか・・・疑問点は多いが、遭遇する数の多さからして・・・
いずれにせよ、このソケットに出会ったら、壊れていなくても早い機会に現行のM400用のソケットと交換した方がよい。 大きさはまったく同一。特にネジのピッチもいっしょなので、非常に便利じゃ。Pelikanの標準化の歴史、一度決めたら変えないという決意はすばらしい。まるでNikonがマウント径を変えないがごとし!
Canonのようにマウント径を大きくした方が、はるかにレンズ設計は楽。それでもかたくなに変えようとはしない。はたしてそれが消費者の為なのか、単なる意地なのかは知らないが・・・ こちらはペン芯をセットし終わった状態。多少スリットを拡げたのでインクフローは驚くほど改善された。
EFのペンポイントはいくら削っても、けっしてヌラヌラにはならない。ヌラヌラは紙に接するペンポイントの面積で決まるのでな。
ただしスイートスポットが一つでもあれば、書き味は上品になる。無いと品がない書き味になってしまう。このあたりは後日、別の万年筆の調整の際に紹介しよう。
今回執筆時間:3.0時間 】 画像準備1.0h 調整1.0h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間