今回の依頼者は必ずキャップを後ろに挿して筆記する。そうしないと親指と人差し指の股から尻軸がすり抜けてしまう。要するに非常にペンの後ろを持ち、ペンを極端に寝かせて筆記するのじゃ。
ところが上記写真のように、キャップが尻軸に挿せない!どうやらセルロイド製のキャップが痩せて縮み、尻軸の金色バンドがひっかかって挿せなくなっている。これは依頼者にとって由々しき問題。尻軸はどうなっても良いので、とにかくキャップが挿せるように改造を!というわけじゃ。
このOMAS GentlemanはVintage物。ものすごくしなやかなペン先を持っている。1970年代には既に入手できなくなっていたONOTOの代替品として利用していた作家もいたらしい。
萬年筆関係のムック本で、その作家の記事を読んでOMASに興味を持った。そして嵌った・・・
ただし拙者がOMASに嵌った頃には、既にペン先はかなり硬くなっており、記事の時代のOMASとは別物。それが拙者をOMASに嵌めた利用。拙者は弾力があるペン先ではまともな字は書けない。だからこそ多少硬いペン先のOMASが気に入ったのじゃ。
上側が棒ヤスリ、320番の耐水ペーパーでゴリゴリと削ったあとで、スポンジ型の金属磨きでゴシゴシと擦った状態。この状態でキャップの挿さり具合を確かめ、削りが不足であれば削り進める・・・
ではどうやって不足かどうかを確かめるのか?それは削った後で、キャップを力一杯挿し、左右にギシギシ回した後で抜き取り、胴軸に大きな傷が付いていれば削り不足と判断するわけじゃ。
そうやって粗削りが終わったら2500番の耐水ペーパーで削り後を大体落としてからプラスティック磨き布や金磨き布(どちらでも効果は同じ)でキシキシと磨いてゆく。長時間磨くほど綺麗になるので、100%になる前にやめておいた。
それが上の画像の下半分の状態。あとは依頼者に磨いてもらおう。それにしてもキャップは相当痩せていた。やはりセルロイドのボディは痩せる事を前提に作らないとダメじゃな。
そういえば拙者のPelikan 1935 青軸も相当軸が凸凹になってきた。内部はセルではないので機構上の問題はない。そのあたりはさすがによく考えられてはいるが・・・
こちらがニブの拡大図。エボペン芯を使っているのも関わらず、不思議とエボ焼けが少ない。もっともMontblanc以外で惨いエボ焼けというものにあまり遭遇しない。Montblancの合金、エボペン芯の組成、Montblanc製インクの配合・・・なども影響しているのかな? これだけは今だに解けない疑問じゃ。
柔らかいと言うより、バネ板のような弾力があると言った方がよい。非常に反応の良いペン先じゃ。拙者は1980年代後半のPelikan トレドに付いていた金一色の18Cニブのようは反応の悪いペン先が好き。従ってこの萬年筆で書くと、ペン先の戻りが速すぎてとまどってしまう。
そこでスリットを拡げてみたら、この戻りの速度が下がった!寄りが強いと、戻りも速くなってしまうのかも知れない。とても速度を測れるようなものではないが、手の感触は明らかに戻りのスピードが遅くなったことを伝えてくれる。
このOMASのペン芯はエボナイト製で現行品のものとほぼ同じ。イタリア国内にエボペン芯を作っている会社があるのかな?デルタ、モンテグラッパ、昔のヴィスコンティには、エボナイト製ペン芯が使われているものもある。小さな国ではあるが、伝統的素材を作り続けてくれる企業が数多く残っている魅力的な国なのかも知れない。
こちらが尻軸を削る前後のキャップの嵌り方の違い。削った後は明らかに全長が違うのがわかろう。キャップが金属の輪にじゃまされず、かない奥まで挿せるようになったのじゃ。
これで【寝かせて小僧】も気持ちよく筆記が出来るであろう!
こちらがペン先を上から見た画像。ちゃんとスリットが開いているのがわかるかな?これで書き出し時に必要な筆圧を下げても掠れる確率が小さくなった!
昔の刻印は現在のOMASの刻印ほど美しくはない。当時はレーザーではなく機械でギリギリと彫ったのであろう。溝がギザギザになっている。普通はプレスのはずなのだがなぁ・・・
こちらは横顔。ペン先の寝かせ方で弾力はかなり変わってくる。ペン芯をかなり奥まで押し込まないとペン先が固定できないので、必然的にペン芯先頭からペンポイントまでの距離は長くなる。これだけ長くなっても筆記時にインクが切れないのはペン先のポンプ運動。
ただしその為にはある程度の筆圧をかけて、スリットが開いたり閉じたりしないとダメ!依頼者の筆圧でそれが実現できるかどうかの瀬戸際。
これはかなりドキドキする調整じゃ。唯一の救いは依頼者が【ダメ出しの女王】では無いことか・・・
このペンポイントは非常に硬い!まるで戦前のイリドスミン合金のよう。
耐久性があるのだが、前の所有者が超高筆圧だったと見えて、エッジが立った状態に無惨に削れていた。硬くてエッジが立ったペンポイントほど低筆圧の筆記者を困らせるものはない。
そこで筆記角度に合わせて削れるだけ削ってみた。多少筆圧がかかった状態が最も良い書き味になるようにしておいた。低筆圧の依頼者が、良い書き味のポイントを捜して少し筆圧を強くした時に最高の書き味になるように・・・
これは良い書き味を求めて少しでも筆圧を上げ、それによってポンプ運動を活発化させる為じゃ。書き味の大半はインクフロー!このインクフローを良くする為に、スイートスポットをややずらせるというトラップをかけた。さてどうなるかな?
【 今回執筆時間:3.5時間 】 画像準備1.0h 調整1.5h 執筆1.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間