2008年01月12日

土曜日の調整報告 【 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤 】

2008-01-12 01 今回の依頼品は復刻Crestの赤軸。実は以前、胴軸から首軸をねじ込むユニット部分が外れて、瞬間接着剤で付け直してあげた事がある。Sheafferでは、金属用ではなく通常の接着剤を使っていた・・・ 勘弁して下さいよ!と言いたくなる。

 ごく最近の物は知らないが、この時代のSheafferは極上のペン先に比して、胴体の作りに手抜きが多い。スノーケル時代の懲りすぎた機構も故障しやすいので問題だが、壊れたら接着剤で直すしかない作り方は大問題だと思う。

2008-01-12 02 ペン先は極上!特に細字や極細は、多少調整すれば世界一の書き味ではないかなぁ。多少上に反ったニブのおかげか紙当たりも滑りも実に良い。いくら調整してもNo.149のEFでは太刀打ちできない。

 同じようなラウンドニブでもデュポンのモンパルナスなどは非常に硬くなってしまうが、Crestでは先に行くにしたがって傾斜が急になる形状のおかげか、ハート穴から先は思ったより弾力がある。

2008-01-12 03 症状はキャップを捻ると首軸の途中から抜けてしまうというもの。黒のプラスティック部分にネジユニットを接着剤で取り付け、反対側のネジで胴軸にねじ込むのだが、なんらかの理由で胴軸側が密着してしまい、捻った時に首軸側の接着剤を剥がしてしまったのじゃ。

 胴軸側から覗いているのは、コンバーターの口。こういう症状は初めて見た!

2008-01-12 04 熱湯に胴軸の口部分を浸して、多少膨張させてから捻ったら外れた!

 よく見るとネジの部分に赤インクがこびりついている。このインクが接着剤の働きをして金属同士を接着させたわけじゃ。

 
実は水(水分)というのは、油断ならないもので、金属同士を水分を挟むように緩く合わせておくと、水分が乾いたときには、まるで接着剤でひっつけたようになる。ガラス板を合わせた場合も同じような事が発生する。

 スノーケルの修理の回でも指摘したが、内部機構に金属を持つ萬年筆は、全て設計ミスじゃ! 萬年筆は水分の保存機構なので、金属機構は御法度!

 今どき首軸のネジユニットと胴軸のネジ部分を両方金属で作る萬年筆はあるまい・・・と思っていたら、なんと【WAGNER 2007】のベースとなっているシルバーンは両方金属製だった!

2008-01-12 05 ネジユニットをよく見ると、赤インクがこびりついている。どのメーカーであれ、赤インクは危険。

 特に毒々しい色のインクほど金属を犯すリスクが高い。

  金属だけではなく、アウロラの昔(オプティマ 75時代)のインク窓も白濁させる。

 拙者はコンバーターに注射器でインクを入れて使っている。けっしてインク瓶から赤インクを直接吸わせるようなことはしない。

2008-01-12 06 どうやらコンバーターからインクが漏れていたらしい。使っていたのは【ミニ檸檬】や【】にも使えるモンテヴェルディのコンバーター。何故かSheafferでも使えるので、タルガスリム利用者には朗報だったが、Sheafferを意識して作ってあるわけではないので、くたびれると漏れてくる。

 そこでSeafferの伝統的なコンバーターと換えておいた。これで漏れる確率はずっと小さくなる。

2008-01-12 07 ネジ部分からインク滓を取り除くのは簡単ではない。カーボンインクならロットリング洗浄液で一発で綺麗になるが、こびりついた赤インクは、歯科用のメスで念入りに擦り落とす必要がある。ネジ山を痛めるので、金属磨き布などは御法度じゃ。

2008-01-12 08 あとはネジユニットを首軸のプラスティックに接着するだけ。この部分は将来修理の際に開けられるように弱く接着するのがコツ。あまり強い接着剤を使わず、ボンドのサイレックスを塗って、半乾き状態まで待ってからねじ込めばよい。

 拙者は復Crestの初期バージョンを持っているが、こちらはコストカットも無く、非常に精度が高い。あっというまにコストカット・バージョンに移ったので、見つけたら確保すべき。特徴は・・・クリップが左右にブレないこと。ほかにもあるが、それはヒミツ!・・・というか本物を見なければ思い出さない。さてどこへしまったかなぁ・・・


【 今回執筆時間:2.5時間 】 画像準備1.0h 調整0.5h 執筆1.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
  
 

【これまでの調整記事】

2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
2008-01-05 Montblanc No.149 14C-B 書き味に品がない! 
2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!

2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
2007-11-24   WAGNER 2007 18C-B 王子からの依頼
2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
2007-10-22   Montblanc No.252 14C-F フロー改善
2007-10-20   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF ヌラヌラ化
2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
2007-10-13   Montblanc No.34 14C-M グレー軸   
2007-10-10   Pelikan 140 赤軸 & Gel Medium 
2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
2007-10-06   Parker バキューマティック ペン先曲がり 
2007-10-03   Montblanc No.1466 14K-M いぶし銀
2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
2007-09-26   Montblanc 80年代 No.146 14K-EF 胴軸交換
2007-09-24   20年間酷使した Pelikan M800の復活 
2007-09-22   女王からの依頼 : ペン先の無いセルロイド軸 
2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 
2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

Posted by pelikan_1931 at 14:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
monolith6しゃん

最新式のピストン・コンヴァータも適合します。一時輸入が止まっていて、書斎館でも手に入りませんでした。

もう3年も待っているけど・・・忘れたのかな? 館長は同い年だし・・
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月25日 08:13
 このモデルは、タルガの太い方と同様に確か最新式のピストン・コンヴァータも適合するような記憶があります。
Posted by monolith6 at 2008年01月23日 12:39
みーにゃしゃん

シェーファーの赤インクは、固まると粉をふくような感じになるので、昔から敬遠していたのじゃが、今回初めて、その恐ろしさを知った。

使うなら内部が樹脂のモデルでお使いなされ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月14日 05:12
またまたご迷惑をおかけして済みません!
この赤クレストは大好きなペンなのに、またお世話になることになってしまって。。

インクの吸入をしたくても首と胴が外れないという状態のこのペンを裏定例会に持参していて、いつ師匠に渡そうかとタイミングを図っていたところ、ちょうど「師匠は握力が以上に強い」という話になったので、ささっと駆け寄り手渡した次第でした。

外していただいたところで、ねじ山が二つ重なっていたのを見て「???」でした。
今この説明を読んでようやく合点が行きました。ありがとうございます。

使っているコンバータ、インクとダブルでいけなかったんですね。
このインクはシェーファーの赤でしたが、今後は気をつけます!
赤インクの危険さは初めて実際に経験いたしました…。
Posted by みーにゃ at 2008年01月12日 23:12