2008年01月14日

月曜日の調整報告 【 Montblanc No.342緑 14C-B改造がひっかかる 】

2008-01-14 01 今回の生贄はMontblanc No.342の緑軸。最近ではめったにオークションに出て来なくなった。綺麗な緑色で、ボディの状態も非常によい。これほど状態の良いNo.342であれれば、おそらくは売れ残り状態でデッドストックになっていたか、コレクターの手で大切に保存されていたかであろう。

2008-01-14 02 ペン先は元々はBじゃ。それを以前の所有者が細字に変えようとして、素人技で削って失敗した物が、中古市場へ流れたと考えられる。

 パッと見ても気付かないかもしれないが、ペン先の
斜面のカーブが不自然!滑らかなカーブではなく、途中で歪んでいる。先端に近くなると急に鈍角になっている。この調整はあり得ない。通常の細字であれば先端に行くほど鋭角になっているはず。

2008-01-14 03 ペン先先端部分の拡大図を見ると、どのあたりから斜めに削ったかがわかろう。しかも曲面を削るヤスリではなく、平面ヤスリで削っている。素人技以外の何物でもない。

 ついでに言えば、スリットが詰まりすぎている。しかも先端部だけが、強烈に左右から押しつけられたようになっている。これではインクはかすかにしか出ない。困り果てた以前の所有者が中古市場に流したと思われる。

 こういうのが中古市場に流れると、WAGNER会員以外はペンクリに頼ることになる。最近のペンクリの活況は、中古万年筆の流通が活発化したせいかもしれない。

 先週末に行われたセーラーのペンクリでは、川口さんは2日間で150本調整されたと聞いた。さすがにプロは凄いな・・・

 拙者は昨日、10時から16時までに23本受け
付けて6本を持ち帰り、実質5時間17本の調整で、本日は体の具合が悪い。肩はパンパンだし、首も張っているという状態・・・

2008-01-14 04 ペン先先端を斜め下から見た画像じゃ。如何に酷い削りかわかろう。ペン先の両端をヤスリでガリガリ削ったうえ、先端部も真っ直ぐ斜めに削ってある。これはサンドペーパーで削ったとしか思えない。

 丸めなんて概念を持たない人物の削りじゃ!こういうとんでもない調整に出会うと嬉々としてしまう。

 ここで直したものが、依頼者に使われるにしろ、その後中古市場に流れるにしろ、一本の万年筆の寿命を延ばすのに貢献出来る事は間違いない。それによって書きやすい万年筆に出会った人が万年筆を好きになってくれることが市場を盛り上げることになる。

 WAGNER会員は、書き味の良くなった万年筆をあまり愛用せず早い機会に中古市場に回して欲しい。それこそが万年筆文化醸成にとって最大の貢献なのじゃ。

2008-01-14 05 こちらは完全分解した図。拙者が預かって調整する場合には、必ず完全分解して清掃している。

 従って清掃も希望の方は、ペンクリ時点でそう申し出て欲しい。ペンクリでの調整よりも、一段上の微調整も可能。調整の出来具合は(基本的には)調整にかける時間に比例するのでな。

2008-01-14 06 こちらが調整前のペン先。スリットは詰まっている上に、稜線も歪んでいる。せっかくのカワイイNo.342のフォルムが台無しじゃ。

 そこで、円筒形の発泡スチロールに耐水ペーパーを両面テープで貼り付けたもので、ペン先の稜線を綺麗に削り取った上で、スリットを拡げる。

2008-01-14 07 そうすると左画像のように美しい形状になる。ただしこの段階ではペンポイントの研磨は行っていない。このままの状態ではペンポイントが尖りすぎていて紙にひっかかってしまう。

 また依頼者は、低筆圧ぞろいのWAGNER会員の中でも、三本の指に入る低筆圧筆記者。ということはペン先を寝かせて書く。従って3つ上の画像のように、ペンポイントの一番下のエッジが立っていては筆記出来ない。

 ここから魔法が始まって・・・終わった。

2008-01-14 08 首軸に取り付けたペン先の画像が左。上の研磨前の画像と比べると、ペンポイントの長さが短くなっているのがわかろう。

 これによって桁
違いにソフトなタッチに変貌する。ペン先の柔らかさでいったら、この時代のMonte RosaNo.342は、コストパーフォマンス最高であろう。

2008-01-14 09 こちらは横顔。同じ時代のPelikanと比べると、ペン先先端のお辞儀の具合が極めて少ない。これがMontblancとPelikanの書き味の差を作っている。

 拙者は、この時代のMontblancの書き味が一番好き!しかし内部機構に関してはPelikanの方がはるかに安全じゃ。金属部品が無いからな。このNo.342ですら、ピストンの軸内部には金属の芯を使っている・・・

 従って拙者はPelikanをMontblancの書き味に調整するのが、一番の得意技じゃ。あまりに時間がかかるので、他人用の調整には使わないがな。興味があれば集団見合いの機会(ペントレ)を待ちなされ。

2008-01-14 10 こちらが拡大図。寝かせて書く人用の調整は、ペンポイントの一番下の引っ掛かりを取り除くこと。特に、小文字の【】の最後の右に跳ね上げる部分や、【】の最後のハライなどで確認すると、エッジ調整の出来が確認しやすい。

 注意点は、普段使わない角度のハライを気に病んでもしかたないということ。調整とは全方位で出来る物ではなく、当人の90%の筆記に適したものでしかないのじゃ。

 10%は我慢する勇気を持たないと常に筆記具に不満を持ってしまう。

 また書き味の出来は価格見合いということもある。1万円の万年筆をいくら調整しても、10万円の万年筆を調整したものには、(基本的には)勝てない。

 好みの問題を別にすれば、50万円の車が、乗りごこちで2000万円の車に勝てないのといっしょじゃ。その当たりは割り切って、不満があれば高価な万年筆にシフトした方が良い。


【 今回執筆時間:4.0時間 】 画像準備1.5h 調整1.5h 執筆1.0
h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 


【これまでの調整記事】

2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
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2008-01-02 丸善 ATHENA 萬年筆 14K-F 復活!
2007-12-31 Montblanc No.1464 18K-M ペン先から落下!

2007-12-29 Montblanc No.342 14C-M ペン芯を太らせる 
2007-12-26 Pelikan 500NN 暗緑縞 14C-EF ペン先グラグラ!
2007-12-24 Montblanc Monte Rosa 14C-M ペン芯めくれ!   
2007-12-22 Montblanc '50年代 No.144G 14K-M ボロボロ 
2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
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2007-11-21   Montblanc No.254 14C-EF ペン先曲がりと・・・
2007-11-19   Parker 75 14K-63 女王様の憂鬱
2007-11-17   Montblanc No.146 14C-OBB 筆記角度30度の世界
2007-11-14   Aurora エウロパ 18K-F 持久力向上 
2007-11-12   Montblanc No.342 G 14C-KF インクが出ない! 
2007-11-10   Pelikan 400NN 緑縞 14C-OM カモノハシ化 
2007-11-07   Stipula ピノキオ 赤軸 18K-M インク切れ解消
2007-11-05   Montblanc No.146 18C-F 書き味品位向上
2007-10-31   Waterman セレニテ 18C-M ペン先曲がり
   
2007-10-29   Pelikan 400NN 緑縞 14C-M ピストン/フロー改善
2007-10-24   Stipula ピノキオ 青軸 14K-M 字幅改善
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2007-10-17   Osmia 64 → Matador Click ペン先移植
2007-10-15   Matador 996 ピストン修理に松脂利用実験
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2007-10-08   Montblanc モンテローザ ピストン交換 
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2007-10-01   Parker 75 赤ラッカー軸 14C-XF→F 交換 
2007-09-29   吸い込まれるような透明軸 Chronoswiss
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2007-09-19   Montblanc 50年代 No.146 14C-KF キャップ交換
2007-09-17   万年筆博士 水牛軸 14K-HM 曲げ戻し 
2007-09-15   Senator President 14C-B 交換後 
2007-09-12   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thin 
2007-09-10   Pelikan ナイアガラ 18C-B 交換後  
2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

Posted by pelikan_1931 at 13:00│Comments(4) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
venezia 2007 しゃん

お主のは、加えてペン先が左にカーブするように曲がっておる。相当の難物じゃ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月15日 06:52
師匠、
この生贄、先日お願いした私のものと、色は違いますが種類といい、過去の持ち主がペン先を削ったが上手く行かずに途中で放り出したものらしい。。。という部分は何だかそっくりなような気がします。私の方の調整といいますか、過去の持ち主の失敗の尻拭いといいますか、その作業はこれからだと思いますが、私の方にも無事魔法がかかることを祈っています。ただ、私の方がこれよりももっと強烈だったようで。。。魔法効くかなあ。
Posted by venezia 2007 at 2008年01月14日 19:28
榊 主水しゃん

本当に、子々孫々に伝えるならOKじゃよ。
Posted by pelikan_1931 at 2008年01月14日 18:13
4
>書き味の良くなった万年筆は市場へ

そ、それはどうかご容赦を〜。
書き味が良くなると更に手放せなくなりまするる〜。

子供に引き継ぐと言うことでどうかお許しくださいませ〜。
Posted by 榊 主水 at 2008年01月14日 14:55