2008年02月02日

土曜日の調整報告 【 Montblanc No.149 合体して開高健 】

2008-02-02 01 こちらに2本のNo.149がある。今回の依頼主は、2本の萬年筆から一本の完璧な【開高健モデル】萬年筆を作り上げようとしている。

 別に不具合があるわけではなく、この2本も純正であり、かつ、全ての部品の時代も合っている。しかし満足できていないようじゃ。

2008-02-02 02 依頼主が欲しいのは、【開高健】が使っていたのと同じ部品の組み合わせになっているNo.149!

 誤解している人が多いが、No.149は画一的に部品構成を変えているわけではない。従って無数の移行期モデルというものが存在する。

 どれが純正で、どれが移行期モデルかすら明確ではない。少なくともMontblancが公式に見解を出しているわけではない。

 【開高健モデル】を定義出来るのは言い出しっぺのkugel_149しゃんだけ!

 そこで依頼者はkugel_149しゃんに鑑定を依頼した。15分くらいかけて慎重に鑑定したkugel_149しゃんは、この二本の部品から一本の完璧な開高健モデルを作り上げることが出来ると明言した。


2008-02-02 03 そこで拙者がくみ上げることになったのじゃ。

 ニブはどちらも開高健タイプに間違いはない。

 首軸は下側が開高健タイプ。ペン芯は上側が開高健タイプということらしい。

 ペン芯については知っていたが、首軸先端の盛り上がりの頂上が尖り気味か、平坦気か・・・という差があるとは知らなかった!ちなみに下が
平坦気味


2008-02-02 04 ペン先のバイカラー鍍金のやり方、スロープの傾斜角度は全て同じだが、下の細字の方が形状が美しいのでこちらを選択して取り付けることにした。

 【開高健】氏が愛用していたのは、PLAYBOY誌の写真を見る限りでは【丸研ぎのM】と思われる。拙者が経験した中では【角研ぎのM】が最も流麗な書き味を提供してくれる。もし見つければ【開高健】氏以上に【開高健モデル】の書き味を堪能できるであろう。

2008-02-02 05 開高健モデル】のピストンは下のタイプ。金属製ピストンガイドであり、重心が後ろ寄りにある。ペンを寝かせて書く人は、こちらの方がバランスが良いと感じるはずじゃ。立てて書く人にとっては尻軸が重いのは取り回しが重くて耐えられないと感じるかも知れない。


2008-02-02 06 こちらが完成した開高健モデル】。開高健氏は、たまたまこのモデルを選んだのであろうが、非常に美しい組み合わせじゃ。

 PLAYBOY誌によれば、モンブランの萬年筆にパーカーのインクを入れて使うのが、当時の作家の間で流行していたらしい。パーカーのクインクの速乾性が評価されてのことであったろう。

 開高健氏はパイロットのブルーブラックを使っていたらしいが、筆跡を見るとインクが山盛りに出ていたとは思われない。筆圧でインクを出すタイプだったのではないかな?

 筆圧で出したインクは、字巾は太くてもインクの出る量
は少ない。従ってクインクでなくとも乾きが速かったのかも知れない。

 また細字でインクフローが良いペンで書いた方が乾きが遅い。盛り上がったインクは、細字の場合、空気に触れる表面積が小さいのでなかなか乾かない。一方極太なら表面積が大きいので蒸発も速く、乾きやすいのじゃ。


2008-02-02 072008-02-02 08 この組み合わせが、正しい開高健モデル】。特に首軸先端の形状は並べて比較しないとよくわかるまいな。上から三個目の画像で良く違いを認識して欲しい。

 拙者も今回初めて正しい【開高健モデル】を知ることが出来た。今後はペン先だけをさす場合には【開高健モデルタイプのペン先】と呼ぶ事にしよう!



【 今回執筆時間:6.5時間 】 画像準備3.5h 調整1.0h 執筆2.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


【これまでの調整記事】

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2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
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2008-01-19 Montblanc No.146 14K-BB 不思議とひっかかる
 
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2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤  
  
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2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
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2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
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2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
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2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

Posted by pelikan_1931 at 13:00│Comments(9) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
5
モンブラン149-14C-Mの万年筆評価の部屋を何時も拝見しています某オークションに出品してあるのは何度か落札しましたが多分違うオリジナル状態の品は見つかりません現物を見ての購入はしたことは無いです某オークションでも人気で4万〜からです気長に眺めて落札して楽しみましょう開高健モデルを。
Posted by proちょぼ焼き at 2017年05月31日 13:04
M764 しゃん

Montblancはちょくちょく微細な変更をするので、開高健モデルという型を製造側も認識はしていないかも知れない。

ただ、こういう些細な部分を楽しむのがマニアの世界じゃな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月03日 09:07
Mori_no_Ranmaru しゃん

当時、書かなくて良かった・・・
不十分な知識で書くところじゃった。

今回はkugel_149しゃんの定義なので間違いはない。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月03日 09:02
師匠

いやあ、首軸先端の盛り上がりの差は知りませんでした。再度色々見てみたいと思います。それにしても王様の149は奥深いですなあ。これを機会にますます興味が出てきました。
Posted by M764 at 2008年02月03日 07:57
 御無沙汰しています。
 以前、質問コーナーで「開高健モデルを、文字で定義すると?」とお尋ねして、「文字で定義するのは・・・無粋じゃな」というお答えをいただいて恐縮したのを思い起こします。その後少しは勉強もしたのですが、今回の記事で、疑問はすっかり解消しました。永久保存しなければ!「開高健さんが使ったモデル」ということには、実はあまり思い入れはないのですが、とても美しいモデル(特にニブの形状)であることは確かですね。
Posted by Mori_no_Ranmaru at 2008年02月02日 23:43
orichan しゃん

あのPelikanは見事でしたな。しかしあそこまで生きながらえたのは、マツヤのオヤジさんの腕が無くては無理だったでしょうな。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月02日 16:14
二右衛門半 しゃん

もう少し時間がたってからコメントで言おうとしていた事を先に指摘されてしまいましたな・・・

そう、クリップの曲がり角の盛り上がりの先が短いのが開高健モデルだそうです。上から二番目の画像のクリップを比較すると、上より下が盛り上がりの長さが短いのがわかる。短い方が開高健モデル。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月02日 16:12
クリップ下の出っ張り(?)も両者で違いがありますね。
こちらはとんがった方のモデルを持っています。
2段ペン芯ではありますが、首軸先端の形状が平らなため、正確な開高健モデルとは言い難いようです。
Posted by 二右衛門半 at 2008年02月02日 15:19
師匠、ありがとうございます。
kugel_149さんに鑑定していただいたおかげで長い間疑問に思っていたことがやっと明らかになりました。そして、自分の気に入ったペンを長い年月をかけて育て上げてこそ、至高の1本たりうるということも理解できました。そう20年間酷使したペリカンのように。
Posted by orichan at 2008年02月02日 13:38