今回は調整依頼ではなく生贄!1950年代のMontblanc No.144Gだが、最近では拙者が最も気に入っている大きさの万年筆じゃ。軸の太さとアンバランスな軸の重さが何とも言えず良い。
1950年代のNo.14Xは個体差が大きい。絶妙なのもあれば、箸にも棒にもかからない物もある。
今回の生贄は姿形は一人前なのだが、ペンポイントが惨い!
ペンポイントの形状はなかなか美しい。ところが書き味は今一歩。非常にザラザラしている。
ザラザラ感は、現行ニブであれば、ものの5分もあれば完璧に直せる。ところがこのペンポイントはいくら研磨してもザラザラ感が取れない。たまにこういうペンポイントに出会う。
高倍率のルーペで拡大してみると、ペンポイントがクレーターのように凸凹だらけ!これではいくら研磨しても無駄じゃ!ヌルヌルにして・・・という要望だったがこれでは無理なので、シャキシャキの書き味に変更することにした。
ペンポイントはピター!っと閉じているのでインクフローは悪い。いつものことだがな・・・
横顔には特に問題があるようには見えない。しかし書き味は悪い。ペン先のお辞儀の具合も絶妙だし、首軸とペン芯との位置関係にも問題は無い。
ただし明らかにスイートスポットが無い。かなり厚みのないニブなので、スイートスポットを出すのも非常に難しい!一瞬で削りすぎになることもありうる・・・心してかからねばな。
拡大図を見ると、ペンポイントにエッジが立っている。横細、縦太の字幅が無条件に描き出されるが、何となく下品な書き味じゃ・・・
やはりスイートスポットを作らねばなるまい。依頼者は非常に筆圧が低いので、インクフローは潤沢にしておく必要がある。
薄いペンポイントの場合、スイートスポットの許容範囲が小さいので、微細な筆記角度の変化でスイートではなくなってしまう。そういう意味では、多少のペン先調整は利用者の方で出来るようになっておく必要がある。
首軸内部はソケット式(ペン先とペン芯をソケットで固定してからソケットを首軸にねじ込む方式)ではなく、ペン先とペン芯を直接首軸に押し込む方式。Montblancでは安価モデルに至るまでソケット方式を使っていた。
なぜこのような狂いが出やすい直接挿入方式を、一時とはいえ、最高級ラインのNo.14Xに適用したのか不思議でならない。ちなみにNo.144ではこれが初遭遇!
最初は別のモデルの首軸かと思ったほど衝撃を受けた・・・
ペン先は新品かと思うほど綺麗。ペンポイント先端が左右対称ではないが、これはこの時代ではあたりまえ。書いてみて問題が無ければ形状には注意を払わないのが独逸流?
ただ、Vintage物でここまでエボ焼けが少ないことは考えられないので、分解清掃を出来る人の手を経て、現在の所有者に流れ着いたのだろう。
ペン先先端は・・・例によって詰まっている。また驚くことに、ペンポイントの背側のコーナーもきちんと面取りされている。
ソケット無しという手抜きと、ペンポイント背中の研ぎが同居している珍しいモデル!オマケにペンポイントの素材は多少悪い(凸凹だらけのクレーター)
ペンポイントを前から眺めた画像。ペン芯の上でのペン先のズレもなく、ペンポイント先端の段差もない。
長年使って、ペンポイントのズレが皆無というのは変!ほとんど使われていなかったか、技術を持った人がメンテナンスしていたかじゃ。おそらくは後者であろう。
インクフローを良くする為に、ペンポイントのスリットを拡げ、十分に清掃して首軸に取り付けた状態が左画像。
No.142、No.144、No.146、No.149のペン先の形状は相似形ではない。大きさと同時に形状も異なっている。拙者は軸の太さとのバランスで、No.144とNo.146のニブが最も好きじゃ!首軸に取り付けた時の形状も実に美しい!
こちらは先端部の拡大図。このスリットの状態は最高!非常に美しい状態にセット出来た。
先端になるほどスリットが狭くなっていれば、紙で先端部のインクを拭った直後に書き出してもインクが先端部にまで届いている。スリットが平行の様な状態でも重力の関係でインクは下がってくるが、スピードは遅い。
そう度々ペンポイントを紙で拭うものではないが、そういう時でも掠れない!という自己満足の極致のような調整だがな・・・
こちらがスイートスポットを埋め込んだ後のペンポイント先端部。いったん斜めに真っ直ぐ切り落とすように研いでから丸めるのだが、見ただけでは上から4番目の画像との差に気付かないかもしれない。
書いてみればわかる。いわゆる【上品な書き味】に激変するのじゃ・・・
【 今回執筆時間:7.0時間 】 画像準備2.0h 調整3.0h 執筆2.0h
画像準備とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間