2008年02月06日

水曜日の調整報告 【 Montblanc No.144G 14C-M ペンポイント凸凹 】

2008-02-06 01 今回は調整依頼ではなく生贄!1950年代のMontblanc No.144Gだが、最近では拙者が最も気に入っている大きさの万年筆じゃ。軸の太さとアンバランスな軸の重さが何とも言えず良い。

2008-02-06 02 1950年代のNo.14Xは個体差が大きい。絶妙なのもあれば、箸にも棒にもかからない物もある。

 今回の生贄は姿形は一人前なのだが、ペンポイントが惨い!

 ペンポイントの形状はなかなか美しい。ところが書き味は今一歩。非常にザラザラしている。

 ザラザラ感は、現行ニブであれば、ものの5分もあれば完璧に直せる。ところがこのペンポイントはいくら研磨してもザラザラ感が取れない。たまにこういうペンポイントに出会う。

 高倍率のルーペで拡大してみると、ペンポイントがクレーターのように凸凹だらけ!これではいくら研磨しても無駄じゃ!ヌルヌルにして・・・という要望だったがこれでは無理なので、シャキシャキの書き味に変更することにした。

 ペンポイントはピター!っと閉じているのでインクフローは悪い。いつものことだがな・・・


2008-02-06 03 横顔には特に問題があるようには見えない。しかし書き味は悪い。ペン先のお辞儀の具合も絶妙だし、首軸とペン芯との位置関係にも問題は無い。

 ただし明らかにスイートスポットが無い。かなり厚みのないニブなので、スイートスポットを出すのも非常に難しい!一瞬で削りすぎになることもありうる・・・心してかからねばな。

2008-02-06 04 拡大図を見ると、ペンポイントにエッジが立っている。横細、縦太の字幅が無条件に描き出されるが、何となく下品な書き味じゃ・・・

 やはりスイートスポットを作らねばなるまい。依頼者は非常に筆圧が低いので、インクフローは潤沢にしておく必要がある。

 薄いペンポイントの場合、スイートスポットの許容範囲が小さいので、微細な筆記角度の変化でスイートではなくなってしまう。そういう意味では、多少のペン先調整は利用者の方で出来るようになっておく必要がある。

2008-02-06 05 首軸内部はソケット式ペン先とペン芯をソケットで固定してからソケットを首軸にねじ込む方式)ではなく、ペン先とペン芯を直接首軸に押し込む方式。Montblancでは安価モデルに至るまでソケット方式を使っていた。

 なぜこのような狂いが出やすい直接挿入方式を、一時
とはいえ、最高級ラインのNo.14Xに適用したのか不思議でならない。ちなみにNo.144ではこれが初遭遇!

 最初は別のモデルの首軸かと思ったほど衝撃を受けた・・・

2008-02-06 06 ペン先は新品かと思うほど綺麗。ペンポイント先端が左右対称ではないが、これはこの時代ではあたりまえ。書いてみて問題が無ければ形状には注意を払わないのが独逸流?

 ただ、Vintage物でここまでエボ焼けが少ないことは考えられないので、分解清掃を出来る人の手を経て、現在の所有者に流れ着いたのだろう。


2008-02-06 07 ペン先先端は・・・例によって詰まっている。また驚くことに、ペンポイントの背側のコーナーもきちんと面取りされている。

 ソケット無しという手抜きと、ペンポイント背中の研ぎが同居している珍しいモデル!オマケにペンポイントの素材は多少悪い(凸凹だらけのクレーター

2008-02-06 08 ペンポイントを前から眺めた画像。ペン芯の上でのペン先のズレもなく、ペンポイント先端の段差もない。

 長年使って、ペンポイントのズレが皆無というのは変!ほとんど使われていなかったか、技術を持った人がメンテナンスしていたかじゃ。おそらくは後者であろう。

2008-02-06 09 インクフローを良くする為に、ペンポイントのスリットを拡げ、十分に清掃して首軸に取り付けた状態が左画像。

 No.142、No.144、No.146、No.149のペン先の形状は相似形ではない。大きさと同時に形状も異なっている。拙者は軸の太さとのバランスで、No.144とNo.146のニブが最も好きじゃ!首軸に取り付けた時の形状も実に美しい!

2008-02-06 10 こちらは先端部の拡大図。このスリットの状態は最高!非常に美しい状態にセット出来た。

 先端になるほどスリットが狭くなっていれば、紙で先端部のインクを拭った直後に書き出してもインクが先端部にまで届いている。スリットが平行の様な状態でも重力の関係でインクは下がってくるが、スピードは遅い。

 そう度々ペンポイントを紙で拭うものではないが、そういう時でも掠れない!という自己満足の極致のような調整だがな・・・

2008-02-06 11 こちらがスイートスポットを埋め込んだ後のペンポイント先端部。いったん斜めに真っ直ぐ切り落とすように研いでから丸めるのだが、見ただけでは上から4番目の画像との差に気付かないかもしれない。

 書いてみればわかる。いわゆる【上品な書き味】に激変するのじゃ・・・



【 今回執筆時間:7.0時間 】 画像準備2.0h 調整3.0h 執筆2.0h
画像準備
とは分解し機構系の修理や仕上作業、及び画像をスキャナーでPCに取り込み、
               向きや色を調整して、Blogに貼り付ける作業の合計時間
調整とはペンポイントの調整をしている時間
執筆とは記事を書いている時間 
 


【これまでの調整記事】

2008-02-04 Pelikan 140 14C-M ペン先交換 → BB 
2008-02-02 Montblanc No.149 合体して開高健 
2008-01-30 Sheaffer 1000 黒縞 吸入機構完全取替 
2008-01-28 Montblanc 50年代 No.144 14C-F どん底
2008-01-26 Pelikan M320 緑 14C-M 背開き 
2008-01-23 Montblanc No.242 なんとか一人前に・・・ 
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2008-01-12 Sheaffer Crest 14K-F 赤インクが接着剤    
2008-01-09 Omas Gentleman 14K-F キャップが・・・
2008-01-07 Shesffer Snorke 14K-F 吸入機構動かず 
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2007-12-19   Montblanc No.146 14K-F 細字スタブに・・・ 
2007-12-15   Nagasawa 125周年記念 14K-MF カリカリ直して!  
2007-12-12   Montblanc '80年代 No.146 14K-F ペン先ズレ
2007-12-10   Sheaffer Imperial Silver 14K-F ペン先曲がり
2007-12-05   Montblanc '70年代 No.149 14C-M がさつな書き味
2007-12-03   Montblanc L139G 14C-KM 健康診断
2007-12-01   Montblanc '50年代 No.146 14C-M 死地からの復帰
2007-11-28   Montblanc No.142 14C-F 相対評価の果てに・・・
2007-11-26   Montblanc No.147 14K-OM 羊の皮をかぶった山羊
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2007-09-08   Montblanc 50年代No.146 14C-M Thick
2007-09-05   Montblanc 50年代No.144 14C-B 
2007-09-03   Montblanc 80年代No.146 14K-EF ペン先曲がり 
2007-09-01   Montblanc No.342 14C-KM 

Posted by pelikan_1931 at 07:00│Comments(3) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック 万年筆 
この記事へのコメント
きくぞうしゃん

1950年代はまだ戦後の動乱期にちかい・・・
まだまだ品質の悪い物は市場に出ていたとしてもおかしくない。

日本でも関西と関東では気質が違うように、伊太利亜でも南北では違う。
独逸だけが一言で駆られるとは思わない。
Posted by pelikan_1931 at 2008年02月06日 22:28
師匠、先日調整頂いた50年代の142のオブリークもソケット方式でなく、ペン先とペン芯を直接首軸に挿入するタイプでした。確率から行くと、今のところ 2/6 の割合で直接挿入タイプということになります。私の例が全体の母集団に対して有意かどうかわかりませんが、このタイプは結構あるのかもしれませんね。見事なシャキシャキを有難うございます。
Posted by venezia 2007 at 2008年02月06日 22:08
ペンポイントが凸凹なのは、何故なのでしょうか。

刃物の場合、焼きが強く入りすぎた鋼では、幾ら研いでもこぼれたような刃になることがあります。また ス が入った状態もあるようです。
同じような事が、イリジウムにも生じているとしたら、製造の際にきちんと解決すべき重大な要素ではないかと思います。ドイツ人の気質として見逃すはずはないと思うのですが、どうでしょうか。
Posted by きくぞう at 2008年02月06日 10:26